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今宵は酔いがよく回る

最近、仕事終わりや休みの日にバーやカウンター席のある居酒屋に繰り出している。

そこで出会う一期一会の出会いが楽しく、バーテンダーやお店の人とくだらない話をすることが楽しい。

仕事と家の往復だけが全てではなく、その寄り道の過程に意外な出会いがあり、休みの日に、家にこもるよりも、外に出たほうが刺激がある。

今は、色々回って行きつけの店を開拓中である。

二度といかないと決めた店もある。そこはカウンター席のみの小料理屋だった。料理はいいが、喫煙オッケーであったことと、常連さんをみたら柄の悪い客層だと感じられたからだった。

隣に座った60代前後の女性、20代後半の男女と話をしてみたが、どうやら夫婦と奥さんの母親という関係性だった。

旦那さんは、マンバンヘアーというサムライのちょんまげに近く20〜30代のイケイケの人が最近よくやっている髪型で、昔はヤンキーだったのかもなという雰囲気を持ちながらも、フレンドリーに話しかけてくるどこか憎めない雰囲気である。

奥さんはギャルだった。30手前の今もちゃんとしたギャルだった。

母親が席を外した際に、夫婦の馴れ初めをなんとなく気になり、聞いてみる。

奥さんが笑顔で以下の内容を語る。

・出会ったのは高校の文化祭で、その当時旦那さんには彼女がいたので、奥さんが浮気相手だった。

・本命と別れ、私と正式に付き合ってからも旦那はよく浮気をした。

・この10年浮気して、許してを繰り返しているが、気がついたら結婚していた。

・結婚直前にも浮気をしたが許した。

「もぉ~こいつは上手に浮気をするんですよぉー♪このツラで。全然イケメンでもないのに、口がうまいんですよぉ〜」

僕も思わず「そのツラで?浮気をしまくる?けしからん!」と思うようなツラだった。

その話を旦那さんは無表情で、タバコをぷかぷか吹かせながら話を聞いているのをみて確信する。

「こいつ絶対、現在進行系で浮気している!悪いとも思ってない。そして奥さんが毎回気がついてる時点で上手に浮気していない。」

不思議な奴だったが、ひどい旦那だ。そしてやっぱり「そのツラで?けしからん!」と思ってしまう。

浮気をされることを、どこか奥さんもしょうがないと思ってあっけらかんとしている。

僕は心の中で「目を覚ませ!いや、覚めないほうがいいのか。でも絶対旦那は今も浮気しているし、これからもするぞ!」と思っている内に酔いが覚める。

凄まじい腐れ縁だった。腐れ縁としかいいようがな出会いだと思った。

僕は、そのお店にまた行こうとは思えなかった。 

後味の悪い出会いで酔いが回らなかった。
  


ちゃんとした行きつけの店もある。

そのお店は、経営者の方針で、「どんな肩書の人もカウンター席に座れば平等」という考えが好きで、僕も隣にどこかの社長や会長が座ろうが、企業の偉い人が座ろうが、フレンドリーなおっちゃん、おばちゃんと思って関わっている。

常連さんも立場は違えど客層が良くて、あたたかい雰囲気が好きだ。

そんなお店に先日、60才前後の女性、30才程度の女性、20代前後のイカツイ兄ちゃんが入店する。

特にその兄ちゃんはクラブでウェイウェイやってそうなツイストパーマとグラサンで、この店には珍しい客だなと思った。

3人の関係性で驚いたのが、なんと31才の奥さん(以下奥さん)と20才の旦那(以下兄ちゃん)という歳の差11才の夫婦だった。

60才前後の女性(以下母親らしき人)は、記憶が曖昧だが、確か仕事関係で娘のように31才の奥さんをかわいがっているとのこと。

奥さんが席を外している間に母親らしき人が、兄ちゃんは奥さんについてどう思っているかを語る。  

・母親が物心つくときから、男をとっかえひっかえする家庭で育つ。

・ひどい母親で刃物で刺されたこともある。

・自分に集まる人が打算的なやつが多い。

・そんな中で出会った奥さんは、どうして人の為にそこまでしてあげられるのかと思うほど、一生懸命な人だった。

・気がついたら結婚していた。


隣で聞いていた全然関係のない自分が泣きそうになる。胸を熱くさせるようないい話を聞けた。

この兄ちゃんには、この奥さんが必要だったのだろうなと確信する。

必然的な出会いだった。

兄ちゃんが今度は席を外す間に、母親らしき人が先程の内容を伝え、奥さんが嬉しそうに涙ぐむ。

素敵な夫婦だなと思う。

その涙をみて、僕の心があたたかくなる。

その兄ちゃんも見た目はいかつく、つっぱらずにはいられない境遇があったのかもしれないが、心のやさしい人なんだろうなと感じる。

グラサンを外すと思っていたよりも可愛い目をしていた。なんでグラサンにしたのか理解した。

二度と会えない一期一会の出会いかもしれないが、どうかこの夫婦がこれからも幸せであって欲しいと思わずにはいられない。

そんなことを思いながら飲むハイボールがやけに染みる。

素敵な話を聞けて、家まで帰る僕の心があたたかくなるのを感じる。


気分がいい。

今宵は酔いがよく回る。


ちなみに、その兄ちゃんに奥さんとどこで出会ったのか聞くと、クラブで出会ったらしい。




僕もクラブに行こうかと思った。

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