見出し画像

記憶の欠片の物語2

「いた!」とおもった。
「同じ話」を出来るやつをはじめて見つけた。


今まで見つからなかった。
そもそも見つける気もさらさらなかったが。

ひんやりした廊下
シーンとしている。

柱に凭れて懐中時計をもてあそびながら待っていた。


彼が現れた。
すぐに彼の友人たちが追いかけてきている。

「おい!さっきのがいるぞ。」と
友人らしきやつらが囁いてる。


彼と目があった。
意を決したようにわたしの前にたち、彼はいった。


「先ほどはありがとう」彼はいった。


「エクセレント。素晴らしい論文だった。」


会話なんて特に必要じゃない。
見ればわかるし伝わるときは伝わる。
それが出来るやつとしかお互いを知る必要もない。



仰天している彼の友人どもが
わたしをじろじろみている。


無遠慮なやつら。
こういうのを無粋というんだ。


彼の友人は
「ここでいつまでふたり突っ立ってる?今日は論文発表の最終日だ。パブにいくぞ。祝杯だ。君も来るといい。ええと、君の名前はなんだ??」と提案してきた。


名乗らないまま
「提案を歓迎する」と答えた。


彼は嘘だろ?!という表情をしていた。


大学近くの学生が入り浸るビアホール

すでに満杯だ。みな今日の論文のあれこれを批評しながら一杯やっている。


ビールで乾杯した


奴らは早速今日の論文についてあれこれ討論を始めた。

わたしはそれを聞いてるようで聞いてなく

「ふうん、稚拙な論評だな」と思い、特に会話することもなく黙ってビールを飲んでいた。


突然あいつが話しかけてきた。「ああ……ええと。さっきはすまなかった。その……失礼だけど名前を聞いてもいいかな?はじめて見る顔なので」と緊張しながら聞いてきた。


わたしは彼に小声で耳打ちした。
「フレデリックだ。よろしく」握手を交わした。


彼の友人がそれを見て

「お前正気か?そいつと仲良くするなんて!名前も名乗らないどこの階級か出身もわからないやつだぞ。「変人」と仲良くするなんて!お前、出世できないぞ!とはいってもお前の身分じゃたかだか未来は知れてるけどな」と酔っぱらい気が大きくなった友人が喚いた。それに対して周りの友人も爆笑している。


なんだこいつら?

彼は下を向きビールを流し込んでいた。手を膝の上で固く握りしめているのを見逃さなかった。

それなのに笑ってやり過ごそうとしている。

いつもこうやって小馬鹿にされているのか?おまえは


遠い昔どこかで幾度となく見た光景が甦る


彼を侮辱した彼の友人に話かける
「ところで論文だが?君の論文さ。ああそうさ。君の論文はいいじゃないか。素晴らしい出来映えだよ。あれは君が書いたのか?」と満面の笑みで話をした。


「は?何いってる?あほか?俺だよ。俺が書いたに決まってるだろ?」とアホが答えた


「おお、そうか!それは大変すまない。素晴らしい出来映えだとおもったのさ。さすが金を渡しただけあるなって。」


言われた奴らはポカンとしてる

オレはビールを飲み干してテーブルに置いた


「先に結論をいうぞ。お前は落第だ。どこをどうやったらあんなくそみたいなものを発表できるんだ?ああ、論文に値しない。大学に寄付金積み上げてコネで運よく卒業できて、万が一の確率でうっかり官僚にでもなられたらイギリスが滅亡する。なので悪いことはいわない。今すぐ落第したほうがおまえのためだ」と満面の笑みでいってやった。


そして
「お前偉そうなんだよ。身分・身分というがお前の家はそんなに素晴らしい家なのか?おかしいぞ。家系がすばらしいのにお前が能無しなんて。
俺のことも下に見ているようだが、お前の家系なぞたいしたことない。そう。たいてい家系に頼るやつはクズだ。自分の実力がないと言いふらしてるに等しい。
これで意味がわからないならやっぱりおまえはアホだということだ。」といい終わると同時に彼が胸ぐらをつかんできた。

小さな声で「頼むもうやめてくれ。ここにいられなくなる。」



「何だこいつ?名乗りもしない変なやつにコケにされたぞ!おまえ、オレがどこの誰か知らないからそう偉そうにものを言ってるが、お前ごときが俺に偉そうな口を聞くな!おまえオレが誰かわかってそんな口をきくのか!!」



「お前、ほんとにアホだな。どこの誰か知りたければ自分で調べろ。家系、階級ていちいちうるせえんだよ。無能!」


「なんだと!おまえを叩きつぶしてやる!」


「やってみろよ。後悔することになるぞ」



そこからお馴染みのように喧嘩が始まった。


不意にいきなり彼がわたしを殴った。「すまん」といって

意味がわからない


わたしも「すまん」と断りを入れて彼を殴った。目が合うとふたりニヤリとした。



店内は他の客も巻き込んで大乱闘となった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?