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記憶の欠片の物語6

※これは書き下ろし

テーラーで採寸をすませて破れたジャケットを預けてきた。ジャケットは明日の昼には仕上がりますので明日取りに来て下さい。既製品のジャケットは合うサイズがなくてシャツだけ替えた。

店を出るともう夕方でふたりすることもなくなり
パブにいく元気もなくどうしようか考えていた
とりあえず自宅に戻ることにした。
昨日の疲れが今頃押し寄せてきた。眠い。
彼はこれからどうするのかと思い聞いてみる
「きみ、これから何か用事あるの?」
「いや、特別用事はない」
「じゃ、うち来る?うちでいいなら食事の支度してもらうけど」
「いいの?正直助かる。いやそのボクいま手持ちがないから食事どうしようかと考えていたのさ。それに昨日手当てしてもらったお礼すらいってないからトマスさんにありがとうっていいたいし」

こういう時今まで知ってるやつならやんわり辞退するんだけどこいつは素直に「ないものはない」てはっきりいう。好感を持った。

馬車に揺られて自宅まで戻った。
特別話す事もなくふたりともうとうとしていた。

自宅に戻るとトマスが迎えてくれた
昨日の彼がまた玄関口にいるからちょっとびっくりしていた。
「おかえりなさいませ。お客様の食事も用意してよろしいですか?今日もこちらに泊まられますか?」
「あのジャケット明日取りにいくまでうちにいてもらうことにしたから」
「かしこまりました」
「パブには行ってきた?」
「はい。先ほどいって参りました」
「ありがとう。助かった。」
「また、後程詳しい話をいたします。ではわたくしは失礼いたします。食事の準備等を厨房に伝えてからお茶の準備をしますので。では。」
「わかった」

彼をリビングに案内する。
ここがリビング。好きなとこに座って
それからキミの今日の寝る場所はあっちの部屋
呼びにきたら食事だからそれまでお好きにどうぞ
酒が飲みたいならそこにあるやつ好きに飲んで。

彼はリビングを見渡してキョロキョロしている。

「なあ、キミのことなんて呼べばいいの?」
「あー、みんなはフレッドっていってるよ。正確にはフレデリックだけどね。」

そうか
年は?どこの学部?今までみかけたことないけど
僕は今19で、医学部にいる。2回生だ。医者の息子なんだ。
町医者だよ。どこそこの出身で大学は父の悲願でもあったんだ。口添えしてもらってね。僕はほんとうは薬学がしたかったんだ。医者は向いてないってわかってるんだ。

と、自己紹介してくれた。

眠くて回らない頭でそれを聞き
わかった。というと

きみは?キミの学部は?自己紹介してよ。と質問される。

年はキミより2つ上。学部は理工学部
一昨日フランスからかえってきたばかり
一年半間留学してた。
フランスが好きなんだ。学校はボーディングスクールからいるから持ち上がりみたいなもん
出身はサセックス。

まあ、こんなもんかな。これでいい?というと
パリにいたのか?すごいなフランス語話せるの?
まあ、うん。そうだね。
話せる外国語はそれだけ?とかいろいろ聞いてくる
フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ラテン語、古代ギリシャ語とかそこら辺あたり。かな。完璧じゃないやつも多いけど。

「…フレッド、キミ頭いいんだね?」
「フツーだろ」
「…そうなの?」
「いや知らないけど」

「あー、敬語いらないから。めんどくさい。
そんなのどうでもいいから普段しゃべってる言葉遣いにして。肩がこる。こっちもそうするし。しかるべき場所でしかるべき言葉が使えりゃそれでいいし」

「しかるべき場所?しかるべき言葉?そんな場所いったことないし、いくこともないよ」
「なら明日連れてく。しかるべき場所とやらに」
「え。いやでもそれは」

「おまえ。あんな言い方されて腹がたたないのかよ
信じられねえぞ。バカにされて楽しいのかよ」

「あれは…だって事実だし」

「おまえなに時代だよ?アホらしい。時代変わるんだぞ。身分にしがみついてるやつは全員自滅するんだ。自分の腕でのしあがれるやつの時代になるんだ。現に始まっている。チャンスなんだぞ。わからないのか?鉄道が普及して自動車が走り経済活動もかわる。銀行があり、保険会社があって、工業が発展し、輸出入が増えてく。小さな世界でいきるのもいいけど才能があるやつは世界にでないと。国の為でもあり自分の為でもある」

「フレッド…いつもそんなこと考えてるんの?すごいね。僕は…僕は…ほんとうは悔しいさ。正直いうと毎日悔しい。」

「なら変えろ。制度に縛られず自由にどこにでも行けるなら好きな場所にいき、自分の力で掴めよ。…もしおまえが心底願うなら。しかるべき場所でしかるべき言葉遣いで渡り合って戦え。自分で戦える用に自分を高めろ」

「そうはいっても…いろいろあるだろ」

「金か?そんなもんどうにでもなる。いくらでもあるだろ。あいつらがのんびりしてる間に自分でスキル磨いて実力で見返せ、きっとおまえならできる」

「おれ、眠いからちょっとそこで寝るからおまえなんかさっきから本棚気になってるみたいだから勝手に読んどけば?トマス来たら起きる。じゃあな」

言うが早いかソファーに沈むように眠りに落ちた。

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