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ある1人の女の手紙 -2-

拝啓 和彦 様

ごきげんよう。
この茹だるような暑さの中ですが、いかがおすごしですか。

先日、和彦様に御手紙をしたためた後、私は今まで書き溜めていた散文、と申すのにはおこがましい駄文を初めて人前に出しました。

そこに至るまでには、本当に本当に時間がかかりました。なんて恥ずかしい、私なんかのこんな陳腐な文章が人様の目に触れるなんて。
そう思うと堪らない気持ちになって、何度も何度も書き綴った紙を破り捨てました。やめようと思いました。こんなことしたって、笑い物になるだけだわ、みっともない。

でも、それでもやはりという下らない気持ちも捨てきれず、結局二、三時間ほど問答を繰り返して、えいと、外に出してしまいました。

人というのは、浅ましいものですね。
あれほど悩んでうじうじしていたのに、出して仕舞えばもう、なんともないんですから。
それより今度は、誰か見てくださったかしら、いつか和彦様のお目に留まることが一度でもあるのかしらと、卑しい気持ちばかりが先立つのです。
私は、私のその意地汚さにほとほと呆れてしまいました。

ただ、それもこれも和彦様に出会うことができたから。
そう思うと、自然と頬が緩んでしまいました。あなた様が私の肩をそっと押して下さったのだと。

そのように考えるたび、貧相なこの胸が柔らかく締め付けられるような気持ちになるのです。大変薄気味悪いお話でしょうが、私はこれを受け止めるしかございませんでした。

和彦様は、私の人生を変えてくださいました。
私があなたの人生を変えることなど、とても有り得ない事なのでしょうが。
ではどうか、ご自愛下さいませ。


真子

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