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学校図書館

 かなり直截なタイトルで我ながら正直引き加減である。しかし、学校現場では管理職でさえ未だに「図書室」と呼ぶほど学校司書が研鑽を重ねても現場での認識にはズレが生じている。教職を生業とされていない方々にとっては「学校図書館」も「図書室」も同じだろうという背景でこのダイレクトなタイトルを敢えて択ぶ。
 だが、決して大仰な話をするつもりはない。最近noteにスキをつけてくださったある方へのこれはお返事。

 小、中学校のどちらの図書館でも仕事をしてきたが、「児童・生徒」の観点からでは司書の関わり方が変わってくる。情報発信センターとしての学習支援や図書指導では内容や提供方法の差に留まるが生身の児童・生徒に関しては発達段階が小学校一年生と中学校三年生が違うことでも理解してもらえるだろう。幼稚園・保育園を出たばかり子から義務教育最終学年までが図書館での対応だった。

 教育委員会からの指名でかなり荒れた中学校へ赴任した。事前引継ぎでは半年間ロックアウトせざるを得なかった時期があった事例からでも、壁の注意書きからでもその様子は想像に難くない。
 蔵書を見るとシリーズ物の補完が止まっていることに始まり、極端に少ない9類蔵書から授業だけに使われていたことも解った。つまり、趣味としての読書がほぼなかったようだ。
 ゼロというべきかマイナスというべきか、「先生、普通の図書館にしたいね」と赴任挨拶した際に教頭から云われた言葉の意味はとても重かった。

 1年生だけはなく全学年オリエンテーションを最低でも年に一回実施し、「勉強のためではない」本を手に取る機会を設けた。図書委員会との地味な活動のお陰で読書する生徒は増え、その貸出冊数は前年比1.5倍を6年間継続した事にも表れる。
 雨の日はグランドに出られない元気な男子生徒が文字通り走って昼休み図書館に押し寄せる。当初は一人で対応が困難で生徒指導教諭の力をお借りした。この時の教頭の言葉も忘れられない「追い返すのは勿体ないじゃないか。折角来館したんだ本を読ませろ」。

 校長に開館時間変更とこれまでの用がない場合(貸出)のほか立ち入り禁止の撤回をお願いした。試験前勉強の場にしたいとも申し出た際は「先生の仕事が増えますよ」と云われもしたが、私は「本がある風景」の良さを一人でも生徒に感じてほしかった。手を伸ばすとそこに本がある。

 司書の仕事はその生徒と本の距離を縮める手伝いだ。

*写真はDublinへ行った時に訪ねた「トリニティカレッジ図書館」

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