『 怒りながら木を植えるおじさんの話 』  作/森下オーク

 むかしむかしあるところに、美しい木々に囲まれた、美しい川がありました。村人たちは、その川を大切にし、楽しく暮らしていました。
 
 その隣の村にも、昔は美しい川がありました。だけれどもその村は、とても多くの人々が集まる賑やかな村だったので、川の周りの木々を倒し、燃料とし、また、川のそばまで多くの家を建て、いつしか川には水が流れなくなりました。
 
 そんな水のない川の村に、木を植えるおじさんがいました。木を植えるおじさんは、みんなが村を大きくしようと働いたり、楽しく遊んだり食事をしているときにも、木を植えてばかりいたので、とても変わり者扱いをされてましたし、いつも何かに怒っているようだったので、村人からはとても煙たがられていました。
 
 ある春の日、突然、嵐が村々を襲いました。黒々とした雲は空を覆い、何日も雨は降り続け、あの美しい川も、あの水のない川さえも、濁流となりました。
 
 嵐が過ぎ、一週間ほどたったある日、政府の役人が村々を見て回りました。美しい川は、たぷぷと水をたたえ、悠々と流れていました。その周りの木々も光に照らされ、美しいほどでした。一方、水のない川は泥水で埋まり、周りの家屋の被害もとてもひどいものでした。
 
 役人は、村人たちの話をきき、木々を切り倒しすぎたこと、また、逃げ場所がないぐらいに人が増え、家屋が建ちすぎたことで、被害が大きくなったのだと思いました。
 
 役人は、さっそく王様に報告しました。王様は、水のない川の村を、美しい川のある村のように、木々に囲まれた美しい村にしようと思い、その村に苗木を植えるものに、たくさんの褒美を与えることにしました。
 
 それを聞いて、村人たちは喜びました。それよりも喜んだのは、大きな街のお金持ちの商人たちでした。あの、木を植えるおじさんだけが、大変怒っていました。けれども、だれも気に留めるものはいませんでした。
 
 お金持ちの商人たちは、村の多くの土地を買い漁り、そこに苗木を植えました。また、村の外れの森の木々を切り倒し、そこにも苗木を植えました。
 
 お金持ちの商人たちには、王様からたくさんの褒美が与えられ、ますますお金持ちになりました。
 
 だけれども、水のない川の村には、とうとう大きな木はほとんどなくなってしいました。王様の話を聞いて、初めは喜んでいた村人たちも、あっという間に変わってしまった村の様子を見て、とてもがっかりしました。
 
 そして、わずかに残された大きな木を見たときに、その大きな木の全てが、木を植えるおじさんが植えて、育てたものだと気がつきました。
 
 木を植えるおじさんは、今日も、怒りながら木を植えています。村人たちは、ぼっーと、その姿を眺めているだけでした。

(おしまい)

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