『女の子のお花屋さん!』 作/森下オーク

 むかしむかし、ある小さな街の小高い丘に、花屋を夢見る女の子がいました。

 女の子は、街を一望できる小高い丘が大好きで、ここに色とりどりのお花を並べられたら、どんなに素敵だろうと考えていました。

 ある日、友だちにその話をすると、友だちは野の花を摘んできて、女の子にプレゼントをしました。

 女の子は嬉しくて、お礼にと、丘の上で歌を歌いました。その歌声は、街中に響き渡り、驚いた街の人が、ぞろぞろと丘まで上がり、女の子の歌を聴きました。

 「素晴らしい!明日も、聴かせてね!」と、街の人は大喜び。女の子は次の日も丘の上で歌を歌いました。昨日よりもたくさんの人が来て、女の子にたくさんの拍手をおくりました。

 そうして、女の子は毎日のように歌い、そのうちに女の子の花屋の夢を知った街の人は、たくさんの花束を用意しましたし、花をつくる農家さんまでやってきて、たくさんの花をプレゼントしました。

 たくさんの花たちに囲まれて、女の子は大変喜びましたが、集まった花たちをどうすればよいのか、少し困ってしまいました。
 
 するとそこへ、ケーキ屋の子どもがやって来て、歌のお礼にと、可愛らしいケーキをプレゼントしました。女の子は、またお礼にと、みんなが持ってきてくれた花の中から、男の子に似合う青色の花を選び、プレゼントしました。男の子は、嬉しくて、街中の人にそのことを話し、ケーキ屋の玄関に青色の花を飾りました。

 次の日から、みんなは自分の家、自分のお店にある自慢のものを持ってくるようになりました。おばあさんが編んだ可愛らしい毛糸の帽子、料理屋さんの美味しいスープ、食器屋さんの使いやすいお皿と木のスプーン、楽器屋さんは太鼓やギターを持ってきました。

 素敵なものがたくさん集まった小高い丘は、さながら街の宝箱のようでした。それをみんなで分け合って、みんなで喜びを分かち合いました。街は、みんなが持ち帰った花で飾られ、とても明るくなりました。

 そんなある日、いつものように女の子が歌を歌い、街のみんなで楽しんでいると、町の役人が数人やってきて言いました。

「この丘は町のものであるからして、許可なく使うことを禁ずる。これから町のための立派な建物をつくる予定なので、今後、使うことを一切禁ずる」
ぶっきらぼうに、そう言いました。

 楽しんでいた街のみんなは、どっちらけ。口々に文句を言いました。だけれども、役人は知らん顔です。

 次の日から、丘には近づけなくなりました。

 女の子はもちろん悲しみましたし、街の人も大変がっかりしました。何をするにも、やる気がおこりません。

 ある日、町長が街を歩きましたが、誰も挨拶をしません。目もあわせてくれません。みんな怒っているのです。花はしおれたまま、街は暗く沈んでいました。

 丘の上に、町のためになる、なにか立派な建物を建てようと思っていた町長は、不思議に思いましたし、困ってしまいました。

 みんなは何を、怒っているのだろう?

 困った町長は、街の人にアンケートをとりました。
「 Q. 丘の上に、立派な建物を建てようと思います。あなたは何を建てたらよいと思いますか?」

 街のみんなは、答えました。
「 A. 女の子のお花屋さん!」
 
 そうして小高い丘にはまた、たくさんの花と女の子の歌声と、街のみんなの宝物と笑顔が溢れ、いつまでも賑わいました。もちろんその輪のなかには、町長もいましたとさ。

おしまい。

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