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紀行文「大濱熊野大神社」

 中日新聞の広告は断っているからチラシは入ってこない。日曜日のサンデー版と金曜日の地域広報誌「たんぽぽ」だけが入ってくる。
「たんぽぽ」を見て、動画を使った地域広報活動をしてみようと思った。
「大浜の熊野大神社の藤を見に行こうか?」
名鉄三河線で碧南駅まで行く。そこから約2km歩く。藤を見て、弁当を食べる。来た道を帰る。その行程を動画にして、私の作文を読むだけでなく、字幕にして表示する。Youtubeにアップすればいい。
遠くまで旅行する気はない。
人混みの中で花見なんてしたくはない。
観光地でなくても身近に手頃な場所がある。
これが、この動画シリーズの主題である。
 我々は凸凹である。
高浜港駅で乗車して、撮り鉄よろしく、運転手と線路の風景はバッチリ撮影した。
 次は碧南駅で私がApple Watchで改札を通過するところを動画で撮ってほしいとMさんに頼んだ。彼女が先に改札を通過して、振り向いた時、私は改札を通り抜けていた。
「何やってるの、まだカメラ構えてないでしょう。」
「ごめん」
動画撮影を頼んだことを忘れて通過してしまった。これには失敗を恥じて、ただ笑うしかない。それだけではなく大浜まで歩く途中で何度も声を出して笑った。
 途中、コンビニでビールとおつまみとおにぎりとデザートを仕入れて約2kmを歩いて熊野大神社に到着した。
「何よ、これ」
藤の花が咲いていない。藤まつりの時期を読まなかった。しかし、穏やかな天気で心地いい。人混みはない。妻と二人、ビールを飲みながらの藤見は限りなく心地よい。いい時間を過ごして満足である。ただ、見るものがなかった。
 負け惜しみに聞こえるけれども、観光とはきれいな景色を見学したり、名物を食べることではない。静かで楽しいひと時を好きな人と一緒に過ごすことで十分である。
 作文をiPhoneに読み上げさせたら、Mさん曰く。
美味しいものを食べ、きれいな景色を見るのは立派な観光です。
しばらく1分咲きの藤を見上げて、言った。
「うちの庭の方が綺麗だったな。」
Mさんには不評だったらしい。

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