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辛き楽しき入試監督〜待機時間はトークタイム

 入試シーズンもほぼ終了、今年から各大学が試験後に正解や出題意図を公表せねばならないということになってしまい、例年になくピリピリしたムードである。ところで、試験監督をしているうだつの上がらない人々の本職は何だかご存知だろうか?彼らは入試の裏方であり、決して目立ってはいけない。受験生が普段の実力を発揮できるよう、あれこれ気を配っている(はずの)彼らは、大学の事務職員ではなく、普段は研究(と教育)をしている大学教員なのである(そうでない大学もあるかもしれないが、少なくとも各試験室で一番責任ある仕事をさせられているのは、おそらく大学教員だろう)。だから、問題冊子や解答用紙を配るのが遅かったり、枚数を数えるのが下手だったり、開始前の注意がよく聞き取れなかったりしてもイライラしてはいけません、彼らは慣れない仕事をしているのです。

 ところで、試験監督は試験時間中何をし、何を考えているのだろう?試験には不正行為があってはいけないから、常に監視をしなければならないし(入試は公平でなければならない!)、困っている受験生がいれば駆けつけてあげるし、・・・トラブルがあると一大事なので、試験監督は始まった瞬間から残り時間を数えつつ、無事終わることだけをひたすら念じている。試験時間中にできることと言えば、試験室毎の受験生一覧表の情報をチラ見して、出身高校や出身都道府県、卒業年、などをチェックすることくらい。同郷の子や苦労人を見つけると応援したい気持ちが芽生え、巡回のときにその解答内容が気になってしまうなんて場合も。しかし、楽しみといってもその程度のささやかなもの。

 さて、入学試験では各科目試験の開始、終了時間が厳密に決まっているので、問題冊子や解答用紙をたとえ早く配り終えたとしても、試験室の判断で勝手に試験を開始することは許されない。したがって、時間調整を間違えると、試験開始まで長い時には15分程も、何もせずに受験生とにらめっこの沈黙の辛い時間を過ごさねばならない場合もあったりする。試験開始前の緊張の時間のため、受験生を動揺させるような言動は慎まねばならず、余計なことは何も言わずただ無言で待つ。リラックスさせようと冗談を言ったりするのも厳禁である

 一方、すべての試験が終了した後であれば、試験監督に多少の自由は許される。我が所属では、各試験室から集められた全部の答案(の枚数)が試験実施本部で確認されるまでは、試験を終えた受験生たちが各部屋で待機させられる。その間、およそ15分から20分。私が密かに楽しみにしているのは、この「すべての試験が終了した後の待機時間」。受験生の半分以上とは、おそらくこの先二度と会わないわけで、この時間を使って彼らに向けて大学、学科、あるいは自分自身の宣伝活動をすべきなのではないかとある時気づいたのである。入試の結果残念ながら本学とは縁がなかった受験生たちに、我が大学の良い印象を少しでも残せれば、その積み重ねは決してバカにしたものではないだろう。そもそも受験生たちは、大学ってどんなところだろう、この大学に入ったらどんな勉強ができるだろう、とこれからの生活に興味津々、意欲満々なわけで、この待ち時間に名も知らぬ試験監督が意気揚々と話す、「私はこんなことが知りたくて、そのためにこんなことをやってきて、今こんなところまでわかってきたのです」という類の話を、それこそ目を輝かせて聞いてくれる。言っては何だが、大学の普段の講義に比べて圧倒的に手応えが良い(笑)。待機が終わり解散許可が出た後に、わざわざ質問に来てくれる子が毎回必ずいるし、あの時話を聞いたと入学後も覚えてくれている学生も結構いたりする。一度この経験をするとこの「待機時間トーク」は止められない、が、一方でその日の試験を瑕疵なく遂行せねばならぬというプレッシャーは何度やっても嫌なものなので・・・

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