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人工知能は佐野研二郎の夢を見るか?

この文章の要旨は、佐野研二郎氏らアートディレクターと呼ばれる人たちの仕事がごく近い将来、人工知能に取って代わられるのではないかということです。

 佐野研二郎氏の「今日から始める思考のダイエット」という本を読んで見ました。Amazonでのあまりに評価が散々だったのが、とても気になったからです。手にとって読んでみると、書かれている内容は非常にまっとうです。仕事で評価されないと悩んでいる若手の人などには特に参考になるのではないでしょうか。

この本の内容はいかに仕事の効率を上げるかですが、その中で私が気になったのは、いかに効率よく答えを見つけるか、と言う点です。これに関するところを引用します。

 クリエイターは、ゼロから物を生み出すとか、今までなかったものをデザインするとか、ものすごく崇高なイメージを抱かれるのですが、実際は、前述のグループインタビューなどの多くの声を束ねながら、どのように無駄をそぎ落としていくかを考えて実践していくことが、アートディレクターのしごとだと思っています。(p.40)
 ディレクターに求められているのは、最終的にどれが問題点を一番クリアしているかを判断する力であり、そこに対価が支払われているのです(p.64)

 佐野氏は問題に対する明確な答えを見つけることによって、チームから上がってくる提案などにドンドン可否の判断を下していきます。つまり、佐野氏の仕事は何かを作り出すことではなくて、問題点と答えを見出すことにあります。問題点と答えがはっきりすれば、あとはそれを満足する素材を作れる人と協業すれば問題解決となります。

このようなアートディレクターの仕事のあり方を、佐野氏の博報堂時代の先輩にあたる佐藤可士和氏も「診療医」という言葉を使って同じようなことを書いていました。

人工知能がアートディレクターに取って代わる仕組み

 では、なぜ私はアートディレクターの仕事が人工知能に取って代わられると考えているのかというと、アートディレクターは何かを新しく作る必要がないからです。問題と答えを見つけ、答えに必要な素材を用意することができればいいのであれば、同じことは人工知能にもできます。

 人工知能が得意とすることは、問題を与えれたらとりあえず答えを出し、正解とのズレを修正しどんどん答えの精度を高めることです。

例えば人工知能がビールの広告デザインを行うとしたらどうでしょうか。
人工知能が取り組む問題はビールの売上げがアップする広告を作ることです。

 まず、人工知能にこれまでのビールの広告のパターンを学習させます。色あい、構図、水滴などの効果、ビールを手にしている美女のタイプ、もしくは高倉健のような俳優かもしれませんが、ビール広告を構成要素ごとに学習させます。また同時に現在他の商品で用いられている広告のパターンと、それらの商品がターゲットとしている顧客情報も学習させます。

 これらのパターンを組み合わせを変えて合成し、いくつかの広告案を作り、実際に店頭や看板などに展開させます。この時、広告案ごとに展開された地域の情報や売上情報などのビッグデータが出てきますので、これを人工知能にフィードバックさせます。こうすることによって、人工知能は広告の構成要素をどのように組み合わせたら、どのように売上に作用するかを学習することができます。

 この作業を繰り返すことで、人工知能はビールの売上げがアップする広告を作るという問題に対して、ほぼ力ずくで答えを見つけ出すことができます。人工知能はアートディレクターと同じことをやってのけ、かつコストはアートディレクターを起用するよりずっと安く済むでしょう。

 アートディレクターの仕事は問題に対する答えを見つけ出すことで、これは人工知能でも出来る仕事、というよりも人工知能のほうが得意な仕事でしょう。実際ビッグデータの活用方法が進歩したことによって、いろんな分野で、いままでプロが気が付かなかった顧客の特性を計算で導くことができています。

 この文章のうえのほうで、佐野氏の本が仕事で評価されないと悩んでいる若手の人などには特に参考になると書きました。しかし、これは現在のビジネスのルールでの話です。現在のビジネスのルールとは、答えがあるなら自分で作るよりほかから持ってきたほうがいいという、水平分業的なことを言っています。しかし水平分業による最適化は人工知能が得意とする分野であり、早晩人間は太刀打ちできなくなるでしょう。

というわけで、「今日から始める思考のダイエット」という本は、これからどのような仕事していくかを考えるきっかけを与えてくれると思います。(終)