スクリーンショット_2015-03-25_21.42.38

「カンコレ」 第三話「アニメ鎮守府の秘密」

(陸奥が一人、報告書を書きながら語り始める)
 

 あらかじめお断りしておかなくてはなりませんが、私がこれからお話する物語は紛れもない事実でありながら、しかしどのような公文書にも記載されておりません。


 謎多き鎮守府の歴史の中にあっても、決して語ることを許されなかったある事実。今私が語らなければ闇の奥深くに隠され、決して日の目を見ることはなかったであろう物語。

 鎮守府の最重要機密事項でありアニメはもちろん、あのいい加減な二次創作においてですら語られることのなかった艦むす達の公然の秘密。それを語ることで、あの愛すべき人々を裏切ることになっても私は語らなければならないのでしょう。このシリーズが終幕を迎えようとしている今こそ。


 深海棲艦との戦闘とその駆逐を主な任務とする鎮守府においても、特に燃費の悪い第一航空戦隊の赤木、加賀を要するアニメ鎮守府は、平時においてはその装備の維持・運用にケタ違いの予算を必要とする特殊な集団であると言えるでしょう。

 なんならそれを某提督の言を借りて「金食い虫」とよんでも差し支えないかもしれません。正直なところ私と秘書艦である長門の仕事といえば、いかにしてこの大所帯の維持運用を賄うに足る予算を獲得するか。その一点にあったといっても言い過ぎではありません。

 艦装の整備に関しては、その部品調達からメンテナンスにいたるまで遠征による資源調達で賄うものの、自称「鎮守府のアイドル」によるゲリラライブや、金剛型四姉妹の暴走なのどで、計上された予備費は直ちに底を尽き、部隊の要というべき艦むすの運用に関する予算措置は常に先送りせざるを得ませんでした。

 普通の女性に見えるとは言うものの、ほぼすべての月の大半を鎮守府内で過ごし、飢えた狼の連日の合コン失敗によって限りなく緊張を強いられる艦むす達。

 わずか一軒の甘味処によって年間のデザートを規定される彼女らにとっては、そのデザートの幅こそが中心的な命題とならざるを得ず、そして皮肉なことに、正にその課題こそが、アニメ鎮守府の経済的破綻を救うことになるのでした。


そう、羊羹です。


 当時、補給艦である間宮さんに、一体いつだれが羊羹を作ってもらおうと思いついたのか、今となっては定かではありませんが、その手作りの羊羹こそ、アニメ鎮守府が自立への道を踏み出した第一歩だったのです。

 羊羹は一息つきたいとき、おいしいお茶といただきたいものであり、戦闘の最前線で補給艦が供するに値しない、いわば贅沢品にすぎない。しかしその通念に反し、最前線で食べる羊羹は非常に美味であり、そしてここからが重要なのですが、甘味処間宮謹製のそれ、最高の材料を使って間宮さんが丹精込めて作ったそれは、強い習慣性を持っており、鎮守府内の大多数が羊羹中毒になるのにはたいして歳月を要しませんでした。


 その習慣性の虜となるや、羊羹なしで生きることは難しく、間宮さんが多忙で製造が追いつかななくなるやいなや、鎮守府内の士気は乱れ、冗談でなく羊羹禁止令が取りざたされようとしていたその時、正にそこに目をつけたのが、当の間宮さんでした。

 彼女の参入は、事態を思わぬ方向に向かわせることになりました。そう、それまで家内手工業的に生産され、鎮守府内の自給レベルに抑えられていた羊羹の大量生産・販売体制への移行がそれでした。彼女はその商魂を奮い立たせ、エプロンで覆ったボディーを惜しげもなく動員して、断固として商品化の道を開いたのでした。

 需要の確保と供給に向け、待機の艦むすは無論のこと、手すきの者には根こそぎの動員がかけられましたが、従来の手作りによる量的な問題はもちろんのこと、なりよりアニメ鎮守府内だけという狭い商圏は需要の発掘に限界があり、量産化体制への移行を阻む大きな要因となりました。アニメ鎮守府だけという地理的要因に左右されることなく、安定した需要の確保に向けて、彼女は最後の境界を踏み越えます。


 そう、通信設備の敷設運用による、本格的ネット課金ビジネスへの進出です。一体どうやってあのようなサーバーと通信設備を手に入れたのか、それは今に至るも不明のままですが、ともかくネットは繋がり、夕張が技術力を絞り尽くしたウェブサイトは、通産省や公安委員会、さらにはDMMの著作権が錯綜するネットビジネスへ、時代科学考証を完璧に無視したまま、満艦飾を施しサービスインしていったのです。


 始めはにこやかに。そしてやがては事態を急速にエスカレートさせ、気がつけば関わる人々に本来のありようなど、どうでもよかったかのように思わせる、間宮さんという笑顔が素敵で腹が読めない人物は、補給艦でなければ間違いなく、天才的な政商として名を馳せたに違いないでしょう。

 その後、間宮さんは課金方法の開発にも熱心で、アニメ鎮守府の間宮羊羹はネットを使ったさまざまな課金方法で販売され、鎮守府としての独立を掌中にしたのです。

 提督の認識がキャラを規定するのだとすれば、深夜アニメ枠という辺境にあって、その露出効果を最大限に生かし、課金アイテムを武器に中央とわたりあってこれに勝利した間宮さんの機知は、キャラよって提督の認識を再規定して見せた快挙である、と言うべきなのかもしれません。

 ただ、私はこうして語り終えた今も、一抹の不安を打ち消すことができずにいるのです。間宮さん、いえ、やっぱり間宮さんはアニメ鎮守府をどこへ連れていこうとしているのか。そして私の長門をどうしたいのでしょうか。最近、長門は羊羹の食べ過ぎで、お腹まわりが結構タプタプしてきているのです。タプタプのお腹の先に私たちをどんな運命を待ち受けているのか。その新たな物語を語る機会は、おそらくやって来ることはないのでしょう。

(いつの間にか陸奥の後ろで、長門が顔を真赤にして巨大な羊羹を振り上げている) 

(おわり)


—備考— この投稿とトップのロゴは「ゆーき (のんこ提督 (ง ˘ω˘ )ว @yuuki999」さんのツイートから思いついて書きました。