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祖父が亡くなる3日前のハイタッチ

祖父が今朝亡くなった。東京へ出張に来ていて、ホテルの部屋で一報を聞いた。いま飛行機で家に帰ろうしている。

3日前、老人ホームにいる祖父に会いにいった。チアノーゼになったからもうそろそろ...ひ孫の顔を見せてあげて、と父から連絡を受けたからだ。子どもたち2人と妻と一緒に、会いにいった。

何ヶ月かに一度会いにいっていたけれど、もう喋れなくなっていった。部屋に入っても目をつむって眠っている。耳はよく聞こえていた祖父だったから、おじいちゃん、と声をかけると目を覚ました。じっとこちらを見ている。ボケてはいないから、ゆっくりと目を合わせてうなづいてくれた。

3歳の息子をベッドに近づける。もうほとんど体は動かないけど、腕はすこしだけ上がるようで、祖父は息子の方に手を伸ばした。息子がその手にゆっくりと触れる。それを見て1歳の娘もトコトコと駆け寄る。祖父に笑顔はない。でも、その手はゆっくりと開いて、大きなパーをつくった。そして、娘がケラケラと笑ってハイタッチした。

95歳の大往生だった。

2日前、東京行きの飛行機で『さざなみのよる』という小説を読んだ。ジャケ買いしたその本をわたしは1ヶ月ほど読まなかった。荷造りをしている際、ふとこの本が目に留まり、リュックに詰めて持ってきた。

物語の内容は、1人の女性の死を、妹・姉・祖母・夫たちがどう受け止めたかが、それぞれの視点で書かれたものだった。そしてその死が、残された人たちの人生のどんな始まりになったのかを丁寧に描いていた。

そして今日、偶然にも、わたしも祖父を亡くした。

本を読んでいると、こういうことがある。
物語と自分の人生が重なる。意味を持つ。

小説の推薦の言葉として、女優の片桐はいりさんが、こんなコメントを寄せている。

死後の世界、ってあの世のことじゃなくて、この世こそ、たくさんの人の死後の世界なんだ。

父と母はもう高齢だ。大変なのも悲しいのも、ひとつ解放されたのも、全部父と母だ。息子として、できるだけ、寄り添ってあげたいと思う。

そして、これからまた始まる父と母の人生に、できるかぎりの親孝行をしたいと思う。


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