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君の夢は、250万円(税別)

どうやっても仕事が見つからないけど、まぁどうにかなるべーと軽く考えながら私は、母方の祖母と母の妹である叔母の3人で墓参りで東京へ向かった。東京のビル群の中でも温かい場所で、八重桜が青空のもとで綺麗に咲いて感動していたが、温かい故にコンクリートジャングルの世界にも雑草が生えて来ていた。逞しい小さな草を抜き、黒い御影石に水をかけて掃除して線香を立てて手を合わせる。安らかにしてるか?元気にしてますか、私は元気です…などなど。

でも、私が思いついたのは…

『すみません、まだ仕事見つかってません。何か知恵を下さい』

本来なら神頼みするものだろうが、京都や東京の偉い神様は1年経っても何一つ叶えてくれなかった。書類で何度も落ちるなら、何か資格をと思っても自動車免許でも3回落ちた事があるといえば結果は大体察しはつくだろう。バイトでもと思っているが、鰹節の様に固い父親が許すはずもなく…ならば、親や祖父母に頼むしかあるまい。藁に縋る様に祈り、浅草を観光案内して祖母たちと別れ、1人で新大久保にあるEスポーツカフェでゲームをしていた。自宅のパソコンが本来ならば3Dゲームなど出来る訳もない物を無理矢理動かしているので、専用パソコンの滑らかさに感動していた。感動するあまり、時間を忘れそうである。実は、我が家の暗黙のルールでは、7時までには地元に戻ればいいが、電話が来たらすぐに帰る事という物がある。

おいおい、こっちは20代だぞ。

しかし一度父親を怒らせると口五月蠅い母型の祖母も閉口する程の怒りっぷりをみせる。昔は、スプーンを持ち上げただけでも怒られてきた。正に龍の逆鱗。しかし今は年も性か突然怒ることもなく、私も馬鹿ではないので怒られない時間に帰ろうと電車の時間や家までの道のりを逆算していた時、父親ではない電話が入ってきたのである。また不合格の電話かと思っていると、それは意外な人物からだった。

「すみません、のりたいさん。貴方の作品が選考会で選ばれまして…」

電話先の名は伏せておくが、数か月前にとあるコンテストに出品した作品が編集部の目に留まったとの連絡だった。しかし、その選考会は、もう終わったので何をいまさらと思いながら翌日に連絡して貰うようにお願いした。最初は嬉しかったが、かつて親戚で本を出したことがある話を思いだし、大抵は自費でと言わされるに決まっている。嫌な予感がしつつも、翌日に電話をしてみたところ。

「実は、のりたいさんの作品が…(褒めたり、目に留まったり…)」

「はぁ…」

「で、担当を付けたいと思っているのですが如何でしょう?」

「それって、自費出版ですか?電子書籍とかで其方が払ってくれるんでしょうか?」

「(色々言うが)自費です」

やっぱりね!

いや、自費の電話かける前にメールで書いた職業欄の所を見てませんか。無職なんですよ。文無しというわけではないけど、2人分の食費と新聞代と雑貨類の費用などを貯金切り崩してやってるのよ(定期的に補てんはして貰ってるけど、経費の全額ではない)。安い食材を美味しくなるように工夫して作って、元の場所を崩さないように掃除して、洗濯物も風呂の湯を……って専業主婦みたいになってるけど無職でもそんなことしてるのよ。お蔭で貯めていた自分専用パソコンの費用が徐々に消し飛んでいくのよ。Eスポーツカフェ代金なんて小銭貯金で払ってんだよ分かっているのか。と言いたくなったが、ぐっと堪えた。

「あの、自費出版のお値段は一体お幾らで?」

「えっと10万ちょっとですかね」

「総額でですか?」

「いえ、諸々込みで大体、250万ですね」

250万あったら、ゲーム用PCを買っているわ!

しかし、相手も商売上手なのかこうも言ってきた。

「夢をかなえるなら一番いい手だと思いますよ?」

夢の為に250万。夢が叶えばあっという間に回収できる…?

いや世間知らずと言われようとも、そんな金あったら買って20年目になる母の愛車を買い替えるかゲーミングPC+今後の活動代金に使うか、小さなゲーム大会でも開くわ。働いたことなくても、それぐらい分かるわ。父親に相談?そんなことしたら、何やってるんだと怒られるに決まっている。(創作活動にも難色示している)とりあえず、相手には前向きに検討すると返して事は終わった。ため息をつき、電話を切ると窓には青い空が広がっていた。

祖父ちゃん、婆ちゃん、そして母さん、一瞬だけいい夢見させてもらったよ。

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