特撮オタクとオタク―二次創作作品を通じて

仮面ライダーSPIRITSをご存じですか?

 その名の通り仮面ライダーの漫画です。ファンの間でいわゆる昭和ライダーと呼ばれる、一号からゼクロスが出ます。彼らが協力して、悪の組織バダンと、その首領JUDOと戦います。

 2000年代初期に連載開始され、同名の漫画が16巻。そして続編である新・仮面ライダーSPIRTSが既刊23巻まで出ています。

 ひたすらに素晴らしく、私は何度も泣かされています。
 昭和ライダーはみんな基本的に改造人間で、意に反して改造されてしまった人が多いんですね。でも、人間のために戦うんですよ。同じように改造された、ある意味仲間である怪人たちと。

 タイトルのSPIRITS、つまり魂とは、そんな仮面ライダーに協力する人間の決意です。改造人間になることはできないけど、魂くらいは人のために戦うライダーたちと一緒に居たい。そんな熱く優しい決意がタイトルに込められています。

 巻末には、昭和ライダーの主演俳優、スーツアクター、プロデューサーなどの熱い思いが込められたインタビューもあります。昭和ならではのぶっとんだ撮影エピソードも明らかになります。

 読んでいると、35歳という私の時間がさかのぼります。6歳のころ、夏休みに初めて昭和の仮面ライダーの再放送を見て夢中になったときが蘇ってくるんです。時代は変わったけど、私が好きだったものが、好きだったままに存在する。そういう確信と安心を与えてくれます。

 これだけなら美談です。ですが、最近この美しい私の世界にノイズが現れました。

HYBRID INSECTORという同人二次創作

 おそらく、こちらも二千年代。現在、漫画ULTRAMANを制作している二人組が自らのホームページで連載していた同人二次創作です。SPIRITSと同じで、それぞれの本編終了後の仮面ライダーが出てきます。

 こちらも非常な人気があったようです。実は、私もスピリッツの方を読まずこちらの方ばかり読んでました。当時は漫画を書店で購入して読まないことに決めていたのです。無料で連載されたウェブ漫画ばかり読んでいましたね。

 このHYBRID INSECTORという作品は、とても暗いものです。悪の組織を壊滅させて人類を救ってきたライダーたちに、人類は生物種として混成昆虫(ハイブリッドインセクター)という分類を行います。彼らを人間と認めないんですね。そして特殊部隊を結成して追いかけ殺そうとします。危険だから、もう要らないから。
 ライダーたちもただではやられません。もう見られないから忘れているんですが、特殊部隊の人間たちを殺害して抵抗する場面がありました。

 ただこちらは、商業出版社からの声がかかったものの、ライダーの著作権を持っていた東映との交渉がはかどらず出版がとん挫。連載は停止。現在ウェブ上で見ることもできなくなりました。Pixivの記事を信じるなら、ですが。

連載停止の理由?

 私はHYBRID INSECTOR連載停止の経緯を知りませんでした。なんとなく更新しなくなったんだな、くらいに思ってたんです。プロマンガ家とはいえ個人の二次創作ですし。

 が、この経緯と内容、そしてSPIRITSに込められたものを知った今、大人の都合の中身を予想することができるんです。

 HYBRID INSECTORという作品は、昭和ライダーの魂を守るために消されたんじゃないか、と。

 前述のように、HYBRID INSECTORはとても暗い作品です。ライダー達も自らの生存のために人間と戦っています。異形であることは、昭和ライダーの中でも描かれてきました。人間が異形を排除してしまうことも自明です。

 ですがこれは、SPIRITSにおける、『人のために犠牲になるライダー達』というヒーロー像への賞賛とは結び付きません。もっと言うなら、ライダーを作るため尽力してきた、ただの人間を無力な群衆としてしまうかもしれない。

 人類への脅威となる強大な悪の組織。犠牲になって守ってくれるヒーロー。そして微力でもそんなヒーローに寄り添おうとする人類。HYBRIDINSECTORは、そういう正の方向ではないのです。

 ですが、同人でありながらハイブリッドインセクターは人気の高い作品でした。もし仮に出版が認められ、すい星のごとく現れていたとしましょう。それは現代でいうワンパンマンといかないかも知れません。でも一定の存在感を持ったに違いありません。

 そうなれば、SPIRITSが描きたいヒーロー像に、東映関係者が誉めそやし、作り上げて残したかった伝説のヒーロー像になんらかの影響が出てしまう。そんな配慮で、東映はHYBRID INSECTORを認めるわけにはいかなかった。

 これは仮説です。けれど、私にはこの仮説が胸に浮かんで消えません。SPIRITSの世界にひたりたい私の心のノイズなのです。

特撮オタクとほかのオタク

 私は特撮が好きで、ライトノベルにも活かそうと思っていました。それは私の好きなものだから。そしてライトノベルのターゲットである、若い男性のオタクに訴求できると思ったからです。
 じっさい、平成や令和ライダーのヒロインなんかは、ピクシブのイラストで人気になることがあります。円谷ですが、怪獣女体化の美少女アニメもあります。

 でも、いまいちどかんとは、来ない。ソードアートオンラインとか、オーバーロードとか、この素晴らしい世界に祝福を! ほどのスマッシュヒットとまでは、いかない。俺、ツインテールになります!は意欲作だったと思うんですけどね。

 私の仮説が当たっているとすれば、その理由が分かる気がします。つまり、特撮は決まり切っている。ブランドイメージが固まり切って、それに反するものは認めないところがあって若者から敬遠されてしまうと。

 ある作品に対して愛情と執着を持って、二次創作をするとしましょう。王道以外にいろんな方法があります。たとえ原作にノーマルカップリングしかなくても、どうしても男性キャラ同士の激しいBLが見たいとか。どうしても、ヒロインがこの俺の性嗜好に合ったエロい目に遭わなければ許されないとか。

 上記の作品は、同人の範囲でならばそれらのキメラを許容することでしょう。作品を知らなくてもヒロインや男性キャラのエロは読んだという人は居るかもしれません。ある種ゆるいところがあるということでしょうか。それゆえに同人イナゴなんて存在も現れてしまうのかもしれませんが。

 ここまで極端でなくても、HYBRID INSECTORは作者たちの昭和ライダーへの全力のリスペクトがありました。ちゃんとライダーがかっこよかったです。そして設定には客観的な説得力も持っていました。悪の組織が人類を滅ぼす、よりも敵の居ない人類がライダーにおびえて迫害するほうがリアルに思えるかもしれません。『巧兎死して走狗烹らる』なんて故事すらあるくらいです。より現実に近づける、というのが作者たちのコンセプトだったのではないか。

 でも、許されなかった。ヒーローが壊れてしまうから。

 すべては、想像の領域を出ないんですけどね。

 ただもしそうなら、特撮に敷居が高くなってしまうのも分かる気がするんです。

 それでも、私は特撮が好きです。いつまでも、正義のヒーローが活躍するやつが。

 あと、これらは二千年代の出来事。つまり十年以上前です。現代に近い2019年、仮面ライダージオウの終盤に、『どんなに歴史が壊れても、仮面ライダーは壊れない』という頼もしいセリフがあります。アマゾンズのような異形のライダーも公式から現れるようになりました。自由が生まれつつあるのかもしれません。

 一方私を涙させるのは、SPIRITSにおける尊い自己犠牲者としてのヒーローたちの姿でもあるのです。

 伝統を守るか。崩して変わっていくのか。特撮という長寿の領域でも、作り続ける葛藤はあるのかもしれません。

 ちなみに、私が始めて電撃の新人賞一次選考を突破したのは、もろに変身ヒーローを扱った作品でした。あと一歩を探り続けていきたいと思います。

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