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読書ノート 「9条の戦後史」 加藤典洋

 「9条入門」を遺作として上梓し、加藤典洋は亡くなった。「9条の戦後史」はその後、続編として刊行を予定されていた未定稿を整理し、まとめたものである。

 「可誤性」である。とりあえず、項目を書き出してみる。


それが僕らの夢だ。君らはどう思う? 「はじめに」に代えて(野口良平)

第1部 日米安保条約と拳法9条ー1950年代
第1章 改憲論の登場
1 吉田茂と憲法9条
2 改憲論の創始者たちー重光、鳩山、岸
3 重光外交と「相互防衛条約」
4 「押しつけ憲法論」についてー石橋と中曽根のあいだ
5 存在した脅威ー安保改定とキューバ危機

第2部 安保闘争と日米安定期ー1960~80年代
第2章 さまざまな護憲論
1 ユルくてずぼらな護憲論
2 丸山眞男の護憲論
3 理念的把握と国際的文脈
4 坂本義和の非武装中立論

第3章 折り返し地点ー保守系ハト派の護憲型政治
1 日米安保と9条の結婚
2 吉田ドクトリンと「解釈合憲」システム
3 「護憲体制」への懐疑ー清水幾太郎と江藤淳
4 森嶋通夫の「ソフトウェア国防論」

第3部 冷戦終結から日本の閉塞へー1990年代以降
第4章 冷戦以後の日米安保
1 なぜ日本の対応は遅れるのか
2 久保卓也の「積極的平和主義」
3 「見直し」の攻防ージョセフ・ナイ対都留重人
4 新日米安保と日本社会の変容

第5章 21世紀と凋落のはじまり
1 護憲派の安全保障論ー平和基本法に欠けているもの
2 自民党の従米改憲論ーなぜ戦前回帰が必要か
3 徹底従来と明治憲法復元ー安倍晋三と日本会議
4 「正しさ」のゆくえー九条の会
5 「正しさ」からの離脱ー立憲デモクラシーの会、SEALDs

第6章 歴史像の改定ー捨象される経験の核心
1 護憲的な歴史像の改定ー和田春樹の「平和国家論」
2 アメリカ国体論ー日米同盟は永遠なり

おわりに 憲法9条/使用法
1 対案について
2 2009年の蹉跌と新しい展開
3 憲法9条の使用法ー私の対案

この本の位置ー「あとがき」に代えて(野口良平)



  • 『9条入門』で辿られているのは、敗戦後の連合国による占領開始から、天皇条項と戦争放棄条項を抱き合わせにした憲法の制定、再軍備・親米・単独講和論と非武装・永世中立・全面講和論の対立、そして吉田茂のダレスとの独立交渉の失敗と、サンフランシスコ平和条約及び日米安全保障条約締結までの、憲法9条をめぐる最初期のー一九四五年から五一年までのー精神史。

  • そこで加藤はこう述べている。たしかに日本人は、敗戦後、戦争放棄の理想を掲げる平和憲法を手にすることになった。だがその制定には、敗戦後の日本の占領をめぐる国際政治を背景とした、マッカーサー、米国本国、連合国という三者の力と意図のせめぎあいが強固に関係していたのであって、自分たちがそれを自力で作ったと語ることには嘘がある。その嘘が、平和思想の足腰を弱くし、平和憲法に拠らなければ戦争に反対できないという本末転倒をも生み出すことにもなる。

  • 「ただの戦争放棄」(国際法のいう)でなく「特別の戦争放棄」(武力の永久放棄という理想)に目を奪われるのは、9条が信仰の対象であった天皇の位置に無意識的に滑り込んだから(補償作用)である。

  • このような9条の制定過程と9条観のあり方に顔を出しているものこそが、日本社会における法の感覚の弱さであると、加藤は考える。

  • 改憲派と護憲派の二項対立は不毛。どちらの発想も短絡的。状況洞察を欠くものであるというほかない。

  • 憲法制定における矯正の事実を相対化すること、そして自発的な選択に作り変えること。ちょうど明治初期、フランスでルソーを学んで帰国する途中のサイゴンで、西欧人がアジア人を蹂躙する光景に触れて、人民の権利という考え方を生んだのは西欧人かもしれないが、そのことを理解して実行できるのは、われわれ非西欧人なのではないかと考えた、中江兆民のように。

  • 法の感覚が弱いということは、私たち一人一人の「生きること」の基底をなす、自己中心性への信が弱いということに等しい。法は、自己中心性を基底につくられることによって、はじめて信じるに足るものとなる。別の見方をすれは、自己中心性は、しばしば静的で固定的なものとみなされ、理性による一方的制御の対象として貶価されてきたのだが、実はその自己中心性には、法の感覚の土台をなすものにまで変態しうる、動的でダイナミックな輝きが秘められている。

  • この自己中心性を加藤は「公共性」に対する「私利私欲」と呼び、またビオス(政治的な人間の生)に対するゾーエ-(生き物としての人間の生)とも呼ぶようになる。

  • 公共性は私利私欲からつくられなければならない。

  • ゾーエ-はビオスよりも広く深い。


  • 現実的護憲論:吉田茂の「解釈合憲」→矛盾を抱えたまま経済繁栄を実現した叡智を評価する(高坂正堯、永井陽之助)

  • 積極的平和主義:9条の理念とは無縁に、非軍事的なソフトウェアの国防論(森嶋通夫)、ソフトウェアの拡充を重視する国防構想(久保卓也)

  • 「失われた三十年」ジョセフ・ナイの恫喝

  • 対米従属からの離脱を試みた民主党政権は準備不足、思慮不足が祟り挫折(米国および国内親米派の抵抗・反対)、その反動がやがて、対米従属の徹底と空虚なナショナリズムを同居させた安倍政権を誕生させるに至る。

  • 問題状況のなかでの理想と現実、自己と他者のせめぎあいをとらえる感度の喪失ー歴史像、社会像の平板化ーという形で私たち自身の内部にも影を落としている。

  • 敗戦後、ゼロから物事を考えようとする思考の系譜ー吉本隆明、吉田満、鶴見俊輔 

  • ルソーはこう考えた。人間とは、自己保存への留意と自己への配慮を不可欠とする存在。

  • 当初人間は自然状態のなかでそこそこやっていくが、やがて各人がその自己保存のために払っている努力がそれを妨げる障害に凌駕される時点が来る。

  • そのとき、人は生活様式を変え、協力するということを行わない限り、滅亡するしかない。

  • 力の集合によってその総和を増やすことだけが、この破滅を逃れる道である。

  • 自然的自由の道を歩むのではなく、約束を通した社会的自由の獲得のほうがベターと考える、社会契約の考えに踏み出していく。


ここから先は稿を変えて。語り足りない。

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