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読書ノートと小説を。 背骨にひっかかるような言葉を紡げたらとおもいます。 支持いただけ…

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読書ノートと小説を。 背骨にひっかかるような言葉を紡げたらとおもいます。 支持いただければ幸いです。

マガジン

  • 連載小説【揺動と希望】

    北朝鮮からミサイルが飛んできて、南海トラフ大震災が起こった日本がどう右往左往するか、そしてそのなかから新たな世界構築へ向かう思想が生まれるまでの物語。崩れゆく世界で根拠なき希望を語ることについて、ゆっくり思考しながら試行するつもりでいきます。長丁場になりますがお付き合いください。

  • 極私的読書ノート

    偏らないように読んでいるつもりがやっぱり偏ってますね。 理解と感想を入り混じらせて、新たなヒントや読もう!という気持ちを導き出せていればいいな。基本姿勢は感想より原文重視です。

  • プロティノスについて知りたい!

    エネアデスからプロティノスの思考を追いかけ、理解を広げたい人向け。 知ったかぶりできます。 取り上げている書物は、プロティノス全集(中央公論社)1〜4巻+別巻、『善なるもの一なるもの』などです。

  • 井筒俊彦についての読書ノート!

    井筒俊彦の思想に触れたい!と言う人のためのマガジン。何かしらのヒントになれば幸いです。

  • 極私的小説【扉(仮)】

    面白いと思っていただけるか、あんまり自信がありません。一読すれば分かる通り、これは私の言語阿頼耶識の報告書、能動的創造法によるナラティブのようなもの、ですね。

最近の記事

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連載小説【夢幻世界へ】 1−1 石化した彼女

【1‐1】  どうやってもうまく歩くことができない泥濘みの勾配に辟易しながら前を仰ぎ見ると、鬱蒼とした竹藪の隙間から目的地の白い建物が現れた。  コンクリートむき出しの壁から、小さな両開きの窓がいくつも均等に並んでいるその建物には、あと十数分で到着できるであろう。  重い足取りの中、なぜいまここにいるのかといった問いがやってくる。  シダ類の葉の中に妖精蛾が3匹、包まるようにして留まっている。妖精蛾というのはこの地域の呼び名で、頭部が人間の女性の顔に酷似していることか

有料
100〜
割引あり
    • 連載小説【揺動と希望】 1−4

      【1-4】  私だけの世界はここにある。暮らし、楽しみ、哀しみ、退屈、静けさ、法螺、絹の肌触り、お日さま、水道の蛇口、深爪、苦悩の吐息、みんな私のもの。そう、赤ちゃんも三毛猫も仏頂面の彼も。  私は難民キャンプで生まれた。イランの西部の街、ホラムシャハルは爆撃の焼け野原だった。私は長いあいだ一人ぼっちだった。ジャスミンが来てくれなかったら私はあのままあそこでのたれ死んでいただろう。テヘランに移ったときはこれでお腹いっぱい食べれるのだという喜びしかなかった。  孤児院での

      • 読書ノート 「レンマ学」① 中沢新一

         近年の最重要書物のひとつと確信している『レンマ学』。思いつくまま取り出していく。すでに私の血となり肉となる部分もあるが、まだまだ、そんなに甘いものではない。ゆっくりいきましょ。 目次 序 第1章  レンマ学の礎石を置く      レンマ学の発端/源泉としての南方熊楠書簡/大乗仏教に希望あり      生命の中のレンマ的知性 第二章  縁起の論理      大乗仏教と縁起思想/プラジュニャーと縁起/レンマ的論理      空論から縁起へ/レンマ学は否定神学ではない 第三章 

        • 連載小説【揺動と希望】 1−3

          【1-3】   ミサキは夢を見ている。  スマホを見ると〇〇さんからLINE。  「もへとしねへらむとなんて」  「はるこなすめんとをしんども」  「たぶおむしからべできのるです」 などとかかれており、ああ、もう限界超えたんだ、と愕然とする。  へとへとなんだ、と思う。                 *  宗教団体の集会にいる。集合者の最前列にいる。教祖と言うよりは司祭、であろう黒人の男性がやってくる。彼の服はクリムト『接吻』の男が着ているような煌びやかな

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        連載小説【夢幻世界へ】 1−1 石化した彼女

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        • 連載小説【揺動と希望】
          4本
        • 極私的読書ノート
          195本
        • プロティノスについて知りたい!
          8本
          ¥300
        • 井筒俊彦についての読書ノート!
          21本
          ¥300
        • 極私的小説【扉(仮)】
          12本
        • 極私的小説【夢幻世界へ】
          43本

        記事

          読書ノート 「世界をわからないものに育てること  文学・思想論集」  加藤典洋

           2016年の作品。  この三年後に加藤は肺炎のためこの世を去る。  幾つかの章について、個人的感想を述べる。 『「理論」と「構築」──文学理論と「可能空間」』…  面白いかなあと思って読んでみたが、テクスト論と学校の先生方の内向き理論の話が噛み合わず、そもそもこれはどういった立ち位置の話なのかという疑問が湧き、読めません。「ナンデモアリ」の価値相対論、〈第三項〉の理論と、好みのキーワードではあるが、ううん、なんか違う、経緯ばかりの説明で、それも大事なのだろうが、本論がな

          読書ノート 「世界をわからないものに育てること  文学・思想論集」  加藤典洋

          読書ノート 「クララとお日さま」 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳

           これはエスエフです。子供の成長を手助けするAF(人口親友)として開発されたロボット・クララのおはなし。ノーベル文学賞受賞第一作。  雇い主の少女ジェシーは何の病気なのだろう。姉のサリーの病気はジェシーとなにか関係があるのだろうか(あります)…と、読み出すと疑問符が頻出する。  「性格が変わる」ことは人間にとっては普通のことだが、クララには学習しなければならないことなのだ。ジェシーの母親が言う「懐かしがらなくてすむって、きっとすばらしいことだと思う。何かに戻りたいなんて思

          読書ノート 「クララとお日さま」 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳

          連載小説【揺動と希望】 1−2

          【1-2】 「そもそも戦争はどうして起こるか、皆さんはどう思いますか。戦争にはそれぞれ個別の特殊事情があります。これらひとつひとつを一括にし、一般化することは困難だと言えるでしょう。しかし、個々の戦争に特有の事情があるからといって、それらが外部環境から切り離されているわけではないのです。地政学的、もしくはグローバルな経済学的な観点からの関係性を検討する必要があるのです…」  講堂の教壇に立ち、三隅正和は十数人の学生に向かって話し続ける。  「例えばウォーラーステインの世

          連載小説【揺動と希望】 1−2

          連載小説【揺動と希望】 1−1

          【1-1】  爆発。  極限にまで我慢したエネルギーがもうどうしようもなくなって一気に吹き出す。充満することに我慢しきれず、現実界を構成する誰かがその一歩を踏み出す。そこには一種のあきらめがあり、その後に開ける青空を見ることを渇望する意思がある。爆発という幸運がすべてに重なり合う瞬間。すべて望んだことが形になる。そう、世界は昔、そうして出来上がったのだ。  痛い、けど心地良いとミサキは思った。粉塵とコンクリートの破片が身体を叩く。防護服は引きちぎられ、ヘルメットからは休

          連載小説【揺動と希望】 1−1

          読書ノート 「アーレント 政治思想集成1」ハンナ・アーレント 齋藤純一他訳

           副題は「組織的な罪と普遍的な責任」。 「禍福は自ら求むもの」とシニカルに呟くアーレント。    フラグメントを置く。  アウグスティヌスの『告白』には「わたしだけの神」を希求する欲望が見える。 「公共領域への冒険の意味するところは、私にははっきりしています。一つの人格を持った存在者として、公共的な領域の光に自分の姿を晒すことです」  カール・マンハイム『イデオロギーとユートピア』  セーレン・キルケゴールは、「ロマン主義が当たり障りのない奔放さによってため込んだ負

          読書ノート 「アーレント 政治思想集成1」ハンナ・アーレント 齋藤純一他訳

          読書ノート 「プロティノス『美について』」プロティノス 斎藤忍随・左近司祥子訳

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          読書ノート 「プロティノス『美について』」プロティノス 斎藤忍随・左近司祥子訳

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          読書ノート 「〈世界史〉の哲学2 中世編」 大沢真幸

           トマス・アクィナスは、神の存在を証明しようとした。神は経験的な世界から絶対的に断絶(超越)していなくてはならない。そこで「存在の類比」というアイディアを編み出した。それは、「神の存在」は「リンゴの存在」と同じ意味ではないが、後者からの類推、後者のあり方をもとにした隠喩によって語ることができる、とする考え方。  しかし、「存在の類比」はやはり曖昧なアイディアであると言わざるをえない。  この曖昧さに断固として拒否を示したのが、トマスより半世紀弱ほど後に生まれた、中世哲学のも

          読書ノート 「〈世界史〉の哲学2 中世編」 大沢真幸

          読書ノート 「エクリチュールの零度」 ロラン・バルト 森本和夫・林好雄訳 

           心身とも疲れているなか、癒しのひとつとして、この著作の訳注を書き記す。復活の契機になるんだなあこれが。 【エクリチュール】 書く(エクリール)という動詞に対する名詞で、一般的には、書かれたもの(文字)、書き方(書法)、書くという行為を意味する。ソシュールにおいては、言語体(ラング)を表記する記号体系。  バルトはこの著作では、文学的現実を解読する新たな概念装置としてこの語を用いている。すなわち、同時代作家に共通する規則や監修の集合体である言語体(ラング)と、著作家の身体

          読書ノート 「エクリチュールの零度」 ロラン・バルト 森本和夫・林好雄訳 

          読書ノート 「一冊でわかる プラトン」 ジュリア・アナス 大草輝政訳

           「本書は、対話篇という形式がもつ意味を丁寧に解きほぐし、プラトンの著作を読むさいの注意点をわかりやすく示す」とされる。  ジュリア・アナスはアリゾナ大学古典哲学教授。解説の中畑正志がアナスのことを「彼女」と読んでいるので女性であろう。  『ソクラテスの弁明』を皮切りに、我々はプラトンの著作を読み進めるとき、至極素朴な疑問にぶつかる。それは「何故、プラトンは対話という形式を取り続けるのだろう」ということだ。思想を説明するならもっと効果的な形式があるのだが、プラトンは一貫と

          読書ノート 「一冊でわかる プラトン」 ジュリア・アナス 大草輝政訳

          読書ノート 「赦しへの四つの道」 アーシュラ・K・ル・グイン 小野芙佐他訳

           巨匠ル・グインの最新翻訳著作。四つの短編は、『闇の左手』『所有せざるもの』などの宇宙年代記に属する物語。この世界は人種差別・奴隷制、性差別が存在する世界。その中で人々が苦悩しながら生きていく。と書くとシリアスな内容かと思いきや、どちらかと言うとファンタジーの語りなのでさらっと読み飛ばすかもしれない。ここでは、少し趣を変え、「セクシャルな表現」を集めてみる。というのも、そうした表現がさらっとうまくできないかと考えているからなのだ。「セクシャルな表現」次第で、その物語がきれいに

          読書ノート 「赦しへの四つの道」 アーシュラ・K・ル・グイン 小野芙佐他訳

          読書ノート 「木のぼり男爵」 イタロ・カルヴィーノ 米川良夫訳

           イタロ・カルヴィーノ『われわれの祖先』三部作の一冊。『まっぷたつの子爵』(1952年)、『不在の騎士』(1960年)の間である1957年に刊行された。主人公のコジモ・ピオヴィスコ・ディ・ロンドーは叔父の持ってきたカタツムリ料理を固辞し、樫の木に登って食事を強制されることに異議申し立てをする。父は「疲れて気の変わるまで、そうしていなさい!」と言い放ったのに対し、「気はけっして変えません!」と返し、さらに「おりる時は、覚悟をしておきなさい!」と畳み掛けたのに対し、「じゃあ、ぼく

          読書ノート 「木のぼり男爵」 イタロ・カルヴィーノ 米川良夫訳

          読書ノート 『変容の象徴』 C・G・ユング 野村美紀子訳 

           解説のユング派分析家である秋山さと子はこう言う。  「かつて私は、本書を前にして呆然と立ちすくんでしまったことがある。スイスのチューリッヒでユング心理学を学びはじめた頃、なんとかして本書にとりつこうと、毎日のようにチューリッヒ湖を見下ろす景色の良い庭に出てメージを繰ってみるのだが、何回目を通しても、なじみの少ない世界各地の神々や英雄の名が次々にあらわれるだけで、その背景にある意味がつかめずに、ただ本を抱えたままあたりの風景を眺めているだけの時も多かった。それにもかかわらず、

          読書ノート 『変容の象徴』 C・G・ユング 野村美紀子訳