歌集「遠ざかる情景」#4
人生には、断片的に悲劇が転がっている。目を背けて生きようとも、人が感覚というものを頼って生きる限り、それは私たちの前に現れ、心をかき乱していく。突然降る雨のように心を濡らし、閉ざされた悲しみの世界に引きずり落とす。
生きるとは、幸福を感じながらも、その裏側にある残酷を乗り越えていかなければならない……。それが、人生なのか?
朝の市 仔を孕みたる 鮫の母 血を流したる コンクリの床
仔を孕み 膨れたる腹の 母鮫血流し 横たわる床
仔をなせど 網にかかりて 母ざめが コンクリの