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「30代独身、低賃金、ボロアパートでも幸せ」ぽにおさんが語る“独り身Aro/Ace”の幸福論|case.1 後編

「傍(はた)から見たら、私たぶんあんまり幸せな状況ではないと思うんですよ。給料も正社員としては最安値、家もボロアパートで家賃は4万円台、30代独身……でも、人生の中で今が一番幸せですね」

 そう力強く言い切るのは、ぽにおさん。会社員のかたわら、ほのぼの系タッチのイラストでアセクシャルについての漫画を描くアラサーだ。
 自認してからTwitterのアカウントを作り、漫画、ポッドキャストなどさまざまな形で情報発信をする謎多き「ぽにおさん」に話を聞いてみた。(この記事は後編。前編は
こちら

プロフィール
年齢:33
出身地:埼玉
性自認:女性
恋愛的指向:アロマンティック
性的指向:アセクシャル
好きな食べ物:うどん(武蔵野うどん)
特技:雑談、おいしいものを見つけること
苦手なこと:徹夜

以下は、ぽにおさんのTwitterアカウント


前編ではこんな質問をしました
Q1 どんな子どもでしたか?
Q2 アセクシャル、アロマンティックにはどのように出会ったんですか?
Q3 Aro/Aceに出会うまで感じた生きづらさはありますか? 
Q4 Aro/Aceに出会ってからどのような変化がありましたか?
Q5 ラベリングについてどう感じていますか?

後編では以下目次の順に話を聞いています

Q6 今、幸せですか?

前からずっと、こういう暮らしがしたかった

――今、幸せですか?

 ふふ、それは……幸せですね(力強く)。大人になってから毎年、過去最高を更新しているので。生きてきた中で今が一番幸せなのは確かですね。
 傍(はた)から見たら、私たぶんあんまり幸せな状況ではないと思うんですよ。というのも、給料も正社員にしてもらってありがたくはあるんですが、高くはない。どれくらいかというと、正社員としての最安値くらいの年収なんです。今住んでいるところも実家から離れて一人暮らしでボロアパートなので、家賃は45000円くらいで、髪も1000円カットのQBハウスで切ったり、服もGU・ユニクロ・無印ばかりで、「いい暮らし」をしているわけではない。

――たしかに、たくさんお金を使える状況=幸せとするなら、幸せな状況とは言えないかもしれないですね。

 で、この年で独身、という外形的なステータスのデータだけ見るとだいたいの人が「不幸認定」するんですよ。でも、私は前からずっと、こういう暮らしがしたかったんです。

現在、理想に近い暮らしを実現していると語るぽにおさん

――こういう暮らし?

 ひとりで、自分で選んだ場所で、自分で選んだ仕事で、お金の内訳を全部自分で決めて、これからこういう仕事で生きていこう、というのも自分の一存で決めて、要るもの要らないもの、食べもの全部自分で管理するっていうのをやりたい、と実家にいる時から思っていて。そういう理想の生活が叶っているから、今生きている中で一番幸せ、なんです。学生時代の友達とも今でもやりとりしますし、SNSを通じてアロマンティック・アセクシャル(以下、Aro/Ace)界隈の人たちとも交流があって……。でも、幸せで満ち足りると人間って欲が出ちゃうもので(笑)、「もう少し稼ぎたいな」と思って今は資格の勉強をしています。

Q7 パートナー、家族についてどう思うか?

「恋愛」と「幸せ」の関係

――幸せになる前提として、「恋人がいる」「恋愛をする」を置いている人が多い印象があります。こういった恋愛と幸福の関係をどう見ていますか?

 結構、恋愛をする人たちも“気づき始めて”いますよね。Aro/Ace以外の人でも「恋愛したから、結婚したから、幸せになるわけじゃない」と考える人が身のまわりにいたりして。田中みな実さんとか男性からモテる女性も「恋愛、結婚がすべてじゃないよね」って言い出していたりもします。逆に「恋愛or結婚=幸せ」の図式に囚われすぎてしまっている人は、これからどんどん不幸になっていってしまうんじゃないかなと思いますね。

――変化を感じているということですかね。

 認識がここ10年とかで変わってきていると思います。彼氏、彼女がいるほうが“勝ち組”みたいな空気感が昔はあったじゃないですか。早く結婚した人がヒエラルキーが上になる……みたいな。でも周りの彼氏彼女がいる人が幸せかというと、必ずしもそうとは言えないし。自分の親が結婚して幸せそうにしているかというと、そうでもない。
 例えば、ずっとゲームやることが幸せという人がいるとして、結婚したらゲームできる時間が確実に減るじゃないですか。それを犠牲にしてでも、パートナーを得るのが「幸せ」につながるのかというと、どうなんだろうな、となるじゃないですか。「誰かといたい」が優先順位高い人はパートナーを得ることで幸せになるんだろうし、自分が何をしている時に幸せなのか、その自己認識と噛み合わないとやっぱり必ずしも幸せになるわけではないですよね。

パートナー、家族は「今はいらない」

――パートナー、家族についてはどう考えていますか?

 個人的には今は要らないなと思っています。定期的に会って近況報告をする友達が5人から10人いた方が私は幸せだなと思っていて。それって何かというと、人と「近く」なるのが怖いんですよね、自分は。たぶん、両親があんまり信頼できなかったところから人間関係スタートしているので。
 友達よりも密接な人間関係の必要性がいまだにわからないというのがあって。なので、パートナーは欲しいという感覚は、今の自分にはまったくないんです。

――阿佐ヶ谷姉妹のような「半共同生活」、同じマンションに住むということについてはどう思いますか?

 それはちょっといいなと思っているんですよね。実は勉強している資格というのが不動産鑑定士で、それを取得してフリーで仕事をしながら一財が築けたりしたら、6部屋くらいの小さなアパートのオーナーになりたいな、と。そして、ミニ集住計画みたいに、単身の人で定期的に集めたり、近所付き合いがうっすらあるという関係性を築いて生きていきたいなと思っているんです。
 生活空間は分けたいんですけど、ご近所付き合いは安定して持ちたいという願望はあります。家事の分担が生じる関係性はキツくて、シェアハウスはギリアウトかな、という感じです。年寄りになって、自分で身の回りのことをやるのが難しいとなったら、お金で解決できるような資産を蓄えておきたいなと思っています。

「◯◯荘の管理人さん」キャラになりたい

――今後思い描く理想の人生のイメージとしてはご近所付き合いのある不動産オーナー的な?

 ◯◯荘の管理人さんって、ドラマとかマンガとかにいるじゃないですか。ああいうポジションになりたい(笑)。常に顔を合わせてくれる住人はいるけど、深くは干渉しない……みたいな、それが理想ですね。

Q8 おすすめのコンテンツ、アカウントなど

『ヒロアカ』が好き

――オススメのコンテンツは何かありますか?

 一番何回も見たり、「いいなあ」となるのは『僕のヒーローアカデミア』かもしれません。この作品の中で、それぞれのキャラクターの特徴を「能力」とか「パワー」ではなく、「個性」としているのが好きなんです。単なる「能力」の優劣ではなく、多様性みたいなものも描かれているのかなと思ったり。
 最初に見始めた時は、「美容師目指すぜ」と思っていたので、ヒーローを目指す主人公のデク(緑谷出久)に感情移入して、「私も頑張るぜ」ってなって。その後、私が「自分の幸せと身の安全が一番だ」とより広い視野を獲得してから、デクも「ヴィラン(悪役)も救うべき存在だったんだ」と思い始め……と、どこか自分とリンクしている感覚があり、感情移入が止まらないんです。

マジョリティーを敵に回していいことはない

――ロマセク(ロマンティック・セクシャル、恋愛をしたいと思い、性的指向もある人)に対して、ぽにおさんは一方的に敵視したり、突き放したりせず、理解しようとする姿勢がうかがえます。これは「ヴィランは本当に敵なのか?」と考えるデクに通じる印象です。

 言っても相手はマジョリティーじゃないですか。だから敵に回していいことなんてひとつもないんですよ。だって9割ですよ(その割合としてざっくり言えば)。
 それを全員否定して、敵に回して日本社会で生きていけるのかっていうと、生きづらいことになるわけじゃないですか。だったら、この人たちはこういう思考でこういうものと理解して、自分のことも理解して、「こういう時は衝突して、こういう時は食い違う」というのを理解していたほうが生きやすいかな、と。

Aro/Aceだから不幸と思ったことはない

――Aro/Aceな方の中には「私は被害者である」という意識が強く、「いいよね、ロマセクの人は悩みがなくて…」というようなつぶやきをされる方をTwitterで見たりします。こういった「自分たちはどこか不幸な存在なんだ」と捉えている人も一定数いる印象ですが、どう思いますか?

 不幸ではないと思うんですよ。そう捉えているとしたら、自分から不幸に「なりに行っている」。その人の問題であって、セクシュアリティ全体の問題ではないと思います。
 私自身も恋人がいないから不幸とか、Aro/Aceだから不幸と思ったことはないですね。

Q9 理想とするロールモデル、今後どんなふうに生きていきたいか?

お文具さん

――ぽにおさんの中で生き方や考え方のモデルケース、お手本みたいなものってありますか?

 ないんですよ。だから作っていかないとな、と思っていますね。
 でも「どういう感じになりたいか」で思い描いているキャラクターはいて、『お文具さん』ですね。

――お文具さん? 調べてみるとTwitter投稿で生まれた、癒やしのあるイラスト作品みたいですね。

 お文具さんのキャラは性別がないんですよね。恋仲になるとかもなく、ウマがあうキャラたちが日常を暮らしていく。そして、お文具さんは誰の否定もしないし、強いリーダーシップもない。でもお文具さんと話すとホッとするから、そんな仲間が集まっているんだろうな、という世界線の話なんですよね。
 こういう感じでアパートの住人と集まって、生きていけたらいいなというイメージで今います。複数人と、その時々で連絡取ったり、ご飯食べたりして……ってふんわりしてますけど、そのイメージとして近いのがお文具さんですね。うどんが好きなタイプのドラえもんみたいな。

オフ会で複数人と「ひとりカラオケ」

――ぽにおさんはTwitterなどで知り合った方とのオフ会にも参加していますよね。どんなことをやっているんですか?

 集合して、カラオケに行ったりします。といっても、私と一緒で「ひとり」が好きな方たちなので、それぞれ別の個室で「ひとりカラオケ」をして、その後、鳥貴族とかに集合して、「どんな曲を歌ったか」というのを話し合う、みたいな。それも誘ってもらって参加させてもらっています。このアカウントで知り合ったからならではの、そんな交流をしていますね。

40度の発熱も胃痛も1人で対処できた

――そういった仲間と繋がりながらの人生、いいですね。よく将来について「孤独死が嫌だ」という方もいますが、結婚したらこういう不安はなくなるものなのか、ぽにおさんの意見を聞かせてください。

 結局、結婚してようが、人間性として「どうなんだろう?」というところがある人は離れていくものだと思います。実際、私は親から離れようとしていて、老後の面倒も見ないつもりでいるし。そう考えると、結婚して、子どもがいたら、老後も安心かというとそうでもないんです。
 逆に結婚、出産もしていなくても、よく交流をしている友達、仲間がいたらいざという時、助けてもらえて幸せな人生を送るという生き方もあると思うんです。ある程度の人間性があって、人への敬意があれば、老後寂しくなるということは多分ないと思います。
 一人暮らしをしてから、40度を超える熱が出たことがあったんですけど、なんやかんや自力でいろいろ用意して、寝ていたら熱が下がって、PCR検査のキットを郵送して…って自分で対処できてしまったんですよね。胃がおかしくなったときもタクシーで夜間外来に行って診てもらって……というのをこなして。今のところ、緊急時もひとりで対処できてしまっているんですよね。

Q10 メッセージ 

自分の幸せだけを考えて生きていきましょう

――Aro/Aceな方、生きづらさを感じている人に向けてメッセージを。

 メッセージか……とりあえずみんな、自分の幸せだけを考えて生きていきましょう。ですかね。結局そこなんですよね。他人にケチつけ始めたら、キリがない。
 最近、YouTubeの『FIRST TAKE』(有名アーティストの“一発撮り”を収録するチャンネル)で藤井隆さんが『ナンダカンダ』を歌っていて、その歌い出しが「自分よりツイてない 誰か見て安心かい?」という歌詞から始まるんですよ。それを聞いて、「たしかに!」と思わされて。そういう他人にばかり意識を向けるのではなく、自分に向けて、自分のことを考えようよと思うんです。

 それは自己中心的とかそういうことではなく、自分あっての幸せであり、他者との関係であると思うんです。
『僕のヒーローアカデミア』でも人を救うヒーローとなった主人公が「(救われた人に)大丈夫と安心してもらうためにはまず、自分が大丈夫でなくてはいけない」と気づくんですよ。それと同じで、やはり自分が幸せでないと他人を助けられないものだと思うんです。まずは自分。それがあって、初めて他人の幸せを考えられる。なので、心が荒んだら、うどんを食べて、自分に向き合って、ハッピー野郎になろうっていうまとめになりますかね(笑)」

<前編もあわせてお読みください→前編へ

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