見出し画像

「『童貞なの?』と会社で何度もからかわれて…」アラサー男性を救った「アセクシャルじゃない?」のひとこと|case.0 前編

「会社に入ってから『童貞、童貞』とからかわれることが多くて、自分っておかしいのかなと悩み続けて……、その中で出会ったのが『アセクシャル』という単語でした」
そう振り返るのは、れいすいきさん。一般企業に勤めるれいすいきさんにとって、アセクシャルという単語との出会いはどのようなものだったのか。
前編では「Aro/Ace」というラベリングに出会うまでの話を聞いた。

れいすいきさん ※画像はAIイラスト化した写真

プロフィール
年齢:アラサー
出身地:埼玉
性自認:男性
恋愛的指向:クワロマンティック
性的指向:アセクシャル
好きな食べ物:麻婆豆腐
特技:東京メトロ全駅の乗り入れ路線を言える(たぶん)
苦手なこと:片付け

Q1 どんな子どもでしたか?

――小さい頃はどんな子どもでしたか?

北関東の田舎に生まれて、ちょっと恥ずかしがりで、でも見栄っ張りな“普通の男の子”だったと思います。
あまり家に父親がいなくて、たまに会えたりすると、かまってほしくて騒いで、父親から「うるせえ!」って怒られてました(笑)。
普段は母、祖母、姉となんだか仲良く過ごしていたと思います。

――「恋愛」みたいなものは当時どう捉えていたか、ご記憶はありますか? 差し支えなければ教えてください。

小学校に入る前に「気になる子はいるの?」って母親に聞かれて、なんとなく言った女の子の名前が、家族の中で恋愛的な話題にされ「嫌だな」と思いました。小さい子どもながらに「言うんじゃなかった」と後悔した憶えがあります。
これは、「恥ずかしい」から「嫌」だったかなと思っていたのですが、最近は「気になる」ことがイコール「恋愛のそういう相手」として解釈されることに自分の認識と違うという違和感があったからかなとも感じています。
いずれにしても「嫌だな」という気持ちだけは間違いなくて、その後恋愛的な話、そのように解釈されそうな話を一切家族にはしなくなりました。自分は男性なので、つまりは女性に関する話を一切しなくなりました。
仲いい子いないの?みたいなふうに聞かれても、「いない」と答えるか、名前を出すとしても男の友達しか出さないし、いろいろ聞いてきても女の子の名前だけは出すまいと、身内なのにすごく警戒して喋っていましたね(笑)

Q2 アセクシャル、アロマンティックにはどのように出会ったんですか?

――アセクシャル、アロマンティックという単語に出会うきっかけは?

大学を卒業して、企業に就職してから知りました。友達から教えてもらってという感じでしたね。

――より詳しく知った時の状況や知ってどんな風に感じたか教えてもらっていいですか?

たまたま知り合いにゲイの子がいて、その子から教えてもらったんです。「アセクシャルなんじゃない?」って。
その子は良くも悪くも、諧謔的に笑いに変えるので、「この男、アセクである」とかいじってくるんです。でも相手もセクシャルマイノリティだからか、嫌な感じがなかった。
最初に知った時は「そんな単語があるんだ」と、たしかに自分の中で引っかかって、改めて調べて、noteで「夜のそら」さんの投稿を見ていくうちに、「あ、これ、自分かも」と思って自認に至るという感じですね。

Q3 Aro/Aceに出会うまで感じた生きづらさはありますか? 

――「嫌な感じ」というお話がありましたけど、それまで他の人とのコミュニケーションで嫌な体験をすることもあったのでしょうか?

ありました。会社に入ってから、立て続けに聞かれた「君、童貞なの?」はキツかったですね。
大学までそんなことを聞かれてこなかったんです。
中学は途中までいじめや暴力事件が日常茶飯事だった北関東の学校にいました。
でも親の仕事の関係で私立の中学に転校し、その後大学まで、平和な空間に身をおいていて、学校でそういった性交渉に関する話になることもなかったんです。
もちろん恋愛話は少なからず、持ち出されることもあって、男の子同士の会話の中や、女の子から「誰がタイプ?」とか聞かれることはありましたが、「特にない」とか言うと、みんな「あっ」って察してそれ以上のこと聞いてこない、そんな感じでした。

――会社に入るとまったく違う感じだったんですね

古い会社なのでしょうがないのかもしれませんが、1・2年上の女性や男性の先輩から「童貞なの?」と聞かれ、「なんでそうなのか?」「童貞だからこういうことも知らない」とか言われました。
僕自身、わざわざ口にするものではないけど、その事実は「恥ずべきものではない」という感覚だったので、正直に答えていました。
なんというか「プロ野球の試合、見に行ったことないの?」みたいな経験の有無を聞かれている感覚で、その有無で人格を疑われたり、人としての欠点を探されたり、からかわれたりすることになるとは当時、想像していなかったんだと思います。

――男性社会は異性関係、特に性経験の有無のマウンティングがありそうです

「童貞」がバカにされる、ということはそうなんでしょうね。
僕自身、「だから童貞卒業しなきゃ」とは思わなかったですが、「おかしなやつ」とか「童貞だからダメなんだ」とか言われたくなくて、それに変わる何か、周囲に「ダメではない、ちゃんとしている」ことを証明できる何かとして必死に仕事を頑張った気がします。
コミュニケーションをとったりする仕事なので、「童貞で仕事できるわけねえよ」とか「恋愛知らないやつは“口説けない”」とか何度も言われて、それでも意地になって歯を食いしばって目の前の業務に取り組んでいましたね。
それも今考えれば、過度に「認められたい」という“他者からの承認”にベクトルが向かっていたと思います。「自分がこういう仕事をしたい」より「あいつらに認めさせたい、認められたい」みたいなほうを優先していました。
コロナ禍で少し時間ができた時に、ふと気づいたんです。これまでの会社入った直後にさんざん浴びせられた恋愛や性経験のなさを揶揄する言葉が、自分の中で過剰なビジネス上の承認欲求を産む呪いの言葉になっていたのかなと。
だからあれだけ必死に仕事ができた、その意味では感謝しています。
これは皮肉ではありますし、そう結論づけることで過去苦しんだ経験を自分で納得させようとしているところがあると思います。

――他に感じた生きづらさはありますか?

Aro/Aceという単語に出会うまでは、自分自身の感覚に自信が持てない状態ではありました。「恋愛とか今あまり興味無いけどおかしいのかな?」って周囲と比較してしまって、やっぱり自分で自分を信じられない感覚でしたね。

取材に応えるれいすいきさん

Q4 Aro/Aceに出会ってからどのような変化がありましたか?

――そういう中でAro/Aceを知りました。単語を知った時の印象、感覚は?

あ、この感覚のままでもいいんだと思わされました。もっというと「俺じゃん!」って感じですよね。
自分の身の回りの男性と話していると、自分以上に異性に興味があったり、性的欲求があるという話を聞くことが多かったんです。
昔だったら比較して、「自分は…」とか考えていたけど、知ってからは「他人は他人、自分は自分」ってそういう話を自分と切り離して聞けるようになりました。

――Aro/Aceを知ってよかったことはなんでしょうか?

自分の定義を知れたこと、それによって説明可能となり、同じ単語を目印に自分以外にも同じような性質の方がいることを知れたこと、でしょうか。
もちろん他人へ説明するためだけに人生を生きているわけではありません。
ただ、やはり言葉として定義されている事実を知ることで、自分だけではないことを知り、それを使って検索することで同じように感じている、もしくは、考えている存在を知る、確認することができる。
その「存在」と「存在している」ことを知れたのは、やはり定義されたキーワードがあってこそだと思っています。

――逆にAro/Aceを知って辛かったことはありますか?

いままでモヤモヤとしたまま、自分が「他の人と違うかな…」と感じていたのが、はっきり「あなたは違います」と言い渡された、現実をつきつけられたことでしょうか。
単語を知った直後は、何をやっても、何を言われても「僕は他人と違うんだ…」みたいにちょっと中二病っぽくアンニュイな気持ちになっていたりもしたんです。右目なんて疼かない20代なかばなのに(笑)。でも、そういう「なんとなく違う」じゃなく、しっかり言葉として、「この部分は他人と違う」と教わった気がします。
でも、それは別に悪いことばかりではなく、よくよく考えたら、そもそもセクシュアリティー以外のところで、みんなそれぞれ違っているんですよね。
自民党支持の人もいれば、野党支持の人もいるし、マンガ好きな人もいれば、小説しか読まない人もいる。麻婆豆腐が好きな人もいれば、辛いのがダメでタピオカミルクティーを主食にしている人もいる……かもしれない。
何が言いたいかというと、「人と違う」こと、それ自体は別にネガティブなことじゃない、ということなんです。
さきほど言ったように、自分も人と違うことをAro/Aceという単語によって突きつけられてつらく思う時期もあったんですが、それを今は「他の人にない個性」としてポジティブに捉えています。

Q5 ラベリングについてどう感じていますか? 

――Aro/Aceだからこうじゃなきゃ、みたいなラベリングに苦しむことはなかったですか?

とっても苦しむということはなかったです。でもやはり悩むというか、考えることはあって。
自分の場合は、アロマンティックであることはアセクシャルであることほど強固ではありません。
つまり、自分の中でもAroは?(クエスチョン)の割合がAceよりも大きい。現状、クワロマンティック?というのが当てはまるのかな、くらいに考えています。
これ、言葉にするのは難しいんですが、端的に言えば
「自分はどうやらアセクシャルらしい」
「自分はアロマンティックなのかもしれないし、クワロマンティックかもしれない」
という状態です。

でもこう言葉で定義すると、後々違う自分が顔を出した時に「あれ?」って悩んだりしますね。

――その感覚は自認当初から変わらずですか?

いや、自認当初は「アセクシャルです!」みたいな宣言ボーイでしたね。宣言ボーイっていう表現は変か?(笑) 最初は胸を張って、堂々とアセクシャルを名乗っていましたね。
でも、Aro/Aceに関する本や、SNSでさまざまなラベリングをされている方の存在を知っていって、「Aスペクトラムの中でも色んな人がいるんだ」とわかって、自分の中で徐々に、自分の中での「ゆらぎ」を認められるようになりました。
それまではAro/Ace頑固オヤジみたいなのが自分の脳内にいて、自分の行動や感情、考えを「Aro/Aceなんだからこうだー!」みたいに規定していました。
「おい、れいすいき!、こうしろー!」って

――ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじみたいな(笑)

そうです! まさに。
で、恋愛に興味あるって勘違いされないように、とか、どことなく中性的な出で立ちにしようとか、ラベリングによって必要以上に自分を縛っていた時期もあったように思います。

――それはどれくらいの時期あったんですか?

単語を知った2018年から、4年間くらいですね。結構最近まで。
今もアセクシャルだろうとどこかで確信を持っていますが、これまでもその中でいろんな思いが頭をよぎり、考えが変化していきました。なので、これからどこかで変わりうる自分も認められるような自分でいよう、とは思っています。「アロマンティックでない自分」を認められなくて、自分の湧き上がった感情に無理やりフタをする……とかはする必要ない、と今は考えています。

※誤字についての指摘があり修正しております(恋愛的志向→恋愛的指向)。ミスリードする記述をして、申し訳ありません。

後編へ続く)

(後編)
Q6 今、幸せですか?
Q7 パートナー、家族についてどう思うか?
Q8 おすすめのコンテンツ、アカウントなど
Q9 理想とするロールモデル、今後どんなふうに生きていきたいか?
Q10  メッセージ&追加の質問

サポートも受け付けています!