【1$とカタチ】その7「グリーンバックブロー」

立体造形作家の長野です。

1ドル紙幣を眺めていて今更ながら思いました。


「なぜ裏一面はこの(変な)緑で印刷されているのか?」


これを解明しようと資料を探したのですが、使用されているインクに関するものがまったく見つかりませんでした。

それもそのはず、紙幣とはインクと紙でできており、その二つの詳細を明かすとそれはそのまま、偽札製造マニュアルになってしまうのです。

偽札の歴史は古く、展示会ラッシュで疲弊している今の僕には手にあまるので、ここでは紙幣のインクについて軽く触れるのみにしたい。


前々回あたりで触れたが、一ドル札の歴史は古いようで新しい。


現在の流通紙幣(連邦準備券)の直接の祖先は合衆国紙幣。
1862年に発行が開始されたこの紙幣の愛称はグリーンバックだった。

グリーンバック

合衆国紙幣(グリーンバック)

その愛称が示すとおり、統一紙幣たる連邦準備券(1929年)が発行される以前はさまざまな紙幣が存在、流通し、その色もさまざまだった。


いくつか実例を見てみよう。


画像1

1864年。まさかの50セント札。「This is ビンテージ」なルックス。


画像2

1889年、紙幣の由来が証明書だったことが実感できる。あとなんかデカい。


画像3

1898年。両面に記されたサインが、これまた証明書感を浮き立たせる。額面の表記がえらく小さいのがなにやら良い。


銀証券

1900年代。紙幣っぽくなってきたこちらは銀証券。なんだか重厚。


金証券

同じく1900年代の金証券。現在の紙幣と同じセンスのデザインだが、表に書かれた「GOLD CERTIFICATE(金証券)」の文字に通貨統一前夜を感じる。


さて、ざっと見ただけでもこのように、紙の違いはあれど、印刷は黒で行われていた。


ではなぜ合衆国紙幣の裏は緑で印刷されたのか?

資料からそのまま引用すると


This ink was an anti-counterfeiting measure used to prevent photographic knockoffs, since the cameras of the time could only take pictures in black and white.


このインクは写真での複製を防ぐために使用された。当時のカメラでは白黒でしか印刷できなかったため、これが有効だった。

(History.comより)


とある。

現代のセンスで考えてはいけない。

発行が始まった1860年当時、カメラは最新技術であり、紙幣の印刷技術は途上だった。

「写真ヤベー、超そっくりじゃん!」

と焦ったであろう造幣職員たちが「緑にしよう」と決めたの分からんでもない。


画像7

参考までに。1860年撮影の写真(エイブラハム・リンカーン)。


そしてこの配色は、1929年の連邦準備券でも引き継がれる。

資料ではさらにこう続く


according to the U.S. Bureau of Printing and Engraving, the ink was plentiful and durable and the color green was associated with stability.

(アメリカ造幣局によると)当時このインクは在庫が沢山あり印刷が長く続けられた。さらに緑は色あせしにくかった。

(History.comより 太字筆者)


覚えてますか、当時のアメリカは紙幣のサイズを小さくしてまで、コストカットを図ったことを。

ロマンもへったくれもない理由にあふれた紙幣の来歴。
最後はこうなる。


Today, our money is green because the government has no real reason to change the color.

現在でも紙幣は緑で印刷されていますが、理由は「政府には色を変える理由が特に無いから」です。

(Curious Kids.comより 太字筆者)




ちなみに1ドル札一枚にかかる印刷コストは5セントだそう。
ふーん。

また次回

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