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それは弾けて消える泡のように『LAMUNATION!』

いま30代のオタクたちは皆エロゲにあこがれていた。
主語が大きいと思われるだろうが、それほどまでにエロゲは2000年代オタク文化の一大巨頭だった。
毎月、毎週のように発売されるフルプライスタイトル。全年齢版のPS2/DCへの移植。有名原画家による独立ブランド立ち上げ。アニメ化。
オタクたちはキラキラとゴージャスに輝くタイトル群に熱狂し、あるものはエロゲ原画家を目指し絵を描き始め、あるものはエロゲライターを目指し文を書き始めた。
時代は流れ、スマホの普及とともにPCの所有率は下がり、全体としての熱は失われ、いつしかあの時代をエロゲバブルと呼ぶように―――。

※注意※
本稿で指す『エロゲ』とは『PC用成人向け美少女ゲーム』のうち、性行為に焦点を当てた『抜きゲー』や単純にゲーム性の高いゲームにエロを乗せた(ex.脱衣麻雀)ものを除いた、ビジュアルノベルや美少女ADVと言われるタイプのうち、家庭用全年齢版が制作されたもしくは制作されてもおかしくないだろ(フワッフワ)という狭義なエロゲです。要するに性的な意味はなくサブカルチャーとしてのね?まあいいやめんどくさい!次!

はじめに

LAMUNATION!は2016年にリリースされたタイトルだが、なぜ2019年も年の瀬が押し迫ったいま話題にするのかというと、このSteam版「LAMUNATION!-international-」がつい先日リリースされたからだ。
もちろんSteamなので全年齢版。いつもの例のアレがアレされているが。

元々6800円のタイトルなので1320円は破格だ。買おう。

『LAMUNATION-international-』は
炭酸飲料、エキゾチックなスポーツカー、優しくて可愛い女の子との恋愛、80年代のレトロなサウンドトラックと最新のEDMポップス、爽快なサクセスストーリー、ゴムのアヒル、沢山のミーム……
この世に必要なモノが全て詰まった、Extreme Happy!!なコメディビジュアルノベルです。
―LAMUNATION-international-Steamストアページより

この看板に偽りなし。この作品は非常に完成度が高い(ベタ褒め)。絵、文、音楽そのどれもがビビッドの一点集中で作られている。見るドラッグ、読むドラッグ、聴くドラッグの合成麻薬だ。楽しい気持ちになる炭酸飲料を飲みながらどうぞ。

エロゲのテキスト

特筆すべきはテキストだ。
ほぼすべてのシーンに何かしらのパロディとミームと楽屋ネタとシモネタが入り、メインキャラ5人(主人公+ヒロイン4人)は訳知り顔の身内トークで盛り上がる。OPからゲロを口移しするな。しろ。あとなんか突然シリアスな雰囲気になったとおもったらそのシーン自体がパロディだったなんてことも。
船を占拠したテロリストを、常に羽織っているコートに仕込んだ瓶コーラをライトセーバーにして薙ぎ払っていく最強コックとかそういう感じ(これはほんとうのことです。わたしはうそをついていない)。
物語自体に深みはない。伏線回収やトリックのようなものもない。創作物になにか得るものを求めるような人にとっては批判点となるだろう。だがなぜかこれが思い切りぶっ刺さるおじさんたちがいる。

そう!エロゲおじさん!君だよ!(僕だよ)

この軽薄さはまちがいなく計算された演出だ。展開されるシーンは常にハッピー。いつまでもハッピー。必死に乗り越えるためのつらい事件は起きない。次の日のために覚えておかなきゃいけないことなど一つもない。ヒロインたちの言葉を疑う必要もない。エロゲのルート確定前の日常がずーっと続く。ゲームはプレイ中が一番幸せであるべきだ。そうだ、それだよブレイド。ブレイドーっ!
まるであの頃あこがれたエロゲのキラキラした世界の上澄みだけを集めたようなテキストにエロゲおじさんの心は少年に戻る……。
シュワッと来てパッと消え、後にはなにも残らない読む炭酸。
ん?泡が…?パッと消え…?うっあたまが。

軽薄さに軽薄さを貼り重ねた先にメタフィクションの深淵が待ってるのすごいとおもった(中学2年生並みの感想)。

オープンワールドのテキスト

巨大な邸宅のジャグジーから一日が始まり、幼馴染とラムネを飲み、妹の運転するスーパーカーで登校し、双子姉妹のダイナーで夕食を取る。毎日舞台のリゾート島「セントアリア」を縦横無尽に駆け巡り、遊び回って事件を起こして解決する。というのが日々の大まかな流れだ。事件って起きないんだよね起こすんだよねー。
実際は物語上メインクエストにあたる目標もあるのだが、メインキャラたちはそれ以外のところで、前述の軽妙なテキストでワチャワチャし続ける……そうそれって寄り道ばっかりして進まないオープンワールドゲームだ!
ネオンギラギラ箱庭都市型シモネタパロディまみれなセインツロウ3だ!あのThe Game of the Centuryを受賞したあの!

ところで本作にくっそ激烈に感動したことを酔っ払いながらTwitterに垂れ流していたら、ライターさんに補足されて答え合わせをいただいた。

GTA5だった。まあでも特にってかいてあるからセインツもたぶん。うん。

要するに、洋ゲーとエロゲのツープラトンになってると言いたかった。
エロゲは今も前に前に進んでるんだ。

Youtuberのテキスト

物語後半で主人公たちはweb番組の作成を始める。そこで気づくのだが本作は全編通してナレーション(地の文ではない)が喋る。ボイスつきで。
ということは、もしかして俺たちが見せられていたのは最初から主人公たちが編集した番組だった…!?おい!あるじゃないか叙述トリック!伏線もトリックもないって言ったやつ誰だ!俺ですごめんなさい。伏線もじつはある。盛りましたごめんなさい。盛ってないか減らしました。
つまり本作、読み物ではなく見るものなんだな。オート機能ONにしてお楽しみください。おしむらくは主人公にボイスがないこと…ま、まあしょうがないか…。
Steamレビューでも書かれていたがシーンの軽薄さは高校生の自主制作番組という表現でもあるかもしれない。軽薄を貼り重ねた先の深淵…(気に入ったフレーズ)。

総評

LAMUNATION!はエロゲバブル時代の楽しさと、今の時代の楽しさを組み合わせた最強の超人タッグだ。
あのときは楽しかったなあと懐かしむばかりでなく、あのときの楽しさを握りしめて今を未来に向けて進んでいくんだぞ。という勇気をもらえました。なんだよプレイ後に残るものしっかりあるじゃんか!これらをテキストではなくテキストのあり方で示してるのすごくない?すごい。
そしてあわよくば海外市場であの輝かしい時代をもう一度…!

ところで

このLAMUNATION!の洋ゲーテイストハッピーエロゲのコンセプトを受け継ぎつつ最初から全年齢の新作キラキラモンスターズが製作中なんですって!
発売は来年?楽しみー!!


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