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桜回線 (バレエショートショート)


 今藍たちは、バレエクラス全員でピンクのチュチュを着て桜の花輪をつけて、桜の精に扮している。最初は硬いツボミなので皆でゆったりと踊り、開花すると華やかに、去り際には春風にあおられ狂乱の程で激しく舞う。
 こういった踊りごたえのある振り付けはうれしい。

 ところが肝心の本番で、藍の隣で踊っている子が足をくじいたらしい。異変を察知しても藍は笑顔を崩さなかった。その子の手を取り舞台袖に導く。友人たちも振り付けを変えず、その子を囲んだままで移動しながら踊り続ける。
 言葉を交わさずとも、皆、同じ想いだった。先生が袖の奥で手招きしている。その子も舞台の観客に笑顔を見せて去る。

 よし、無事送り届けたぞ。あとは先生にお任せだ。桜の精の藍たちは、言葉を交わさずとも気持ちは通じている。舞台の途中から姿を消す羽目になった子は、さぞ悔しかろう。
 そして終幕。幕が降りると藍たちは、顔色を変えて楽屋に駆け込み、その子の安否を聞いた。


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たらはかにさまの企画に参加中です。
今週のお題は「桜回線」 です。


ありがとうございます。