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薬剤師の倫理観について


今回は長いです。しかも過去話から始まります。10年以上前。

読んでいただけるならうれしいし、特に本職の薬剤師さんがいるならご意見伺いたいです。


1,
わたしは派遣薬剤師です。働かせてもらえるなら喜んでどこでも参ります。しかし明らかにわたしの派遣を喜ばない薬局がありました。前置きとして先に書くのは十年以上前の話です。問題となった調剤薬局には常勤薬剤師が一人しかいない。この人をYとします。年齢は私より一,二歳年下の女性。Y以外は調剤補助の医療事務さんがいて三、四名で切り回しています。わたしが入室して、おはようございます、とあいさつしても、たった一人いる薬剤師のYは無視。

 経営者からは事前にYは人の好き嫌いが激しいと聞かされていました。わたしの仕事はすでに出来上がった薬の監査が主で、Yからの指示は事務さん通じてきました。こんなに狭い調剤室でしかも貸与されたデスクもYと隣同士です。無言攻撃自体わたしもよそで過去、場数踏みすぎて苦に思わなかった。それに理由はわかっていました。

 わたしは初日でYに逆らいました。そこは散薬調剤時の監査機器があるにもかかわらず、使わなかったので意見をしました。散薬用監査機器というのは、なにをどれだけ計量したかを記録しておくものです。現在の調剤業務としては不可欠なものでどこの調剤薬局でも病院薬局でも使用されているはずです。そうでないと、色や量だけ見る目視だけではグラム数やとくにはミリグラム単位の正確さがわかりません。

 以下は当時のわたしとYとの会話です。


わたし → それ、散薬の監査機器ですよね、壊れているなら買い替えをしてもらいましょう。使えないままでは監査時にも不安ですし、第一患者にも失礼ですし。

Y → ああそれは、壊れていません。使えないのではなく、使わない。

わたし → ではなぜ使わないのですか。

Y → なんでも

……という感じで話にならない。Yはずっと一人で常勤かつ管理薬剤師として君臨してきた。だからわたしのような派遣ごときに意見されたのが気に食わない、それで嫌われたのかなと思っていました。

 でも小規模の薬局といえども監査機器が入っているなら活用すべきでしょう。なぜだろう、なんど聞いても教えてもらえない。というより、どうしてそこまで自信をもって調剤できるのか。

 通常の薬局ならパートといえども、わたしを入れて二人体制なら、散薬調剤もすべて交代でやるべきなのに、散薬調剤はYだけがして、わたしは監査だけ命じられます。しかも外来調剤は急がないといけないという思いからか、Yが計量して分包すると「監査なしで患者に薬を」交付してしまう。

 施設調剤は個別に患者に交付するのではなく、まとめて施設まで運ぶ時間までに余裕がある。だから散薬監査はさせてもらえるものの、それでも、なにをどれだけ計量したかが不明なまま監査をしないといけません。あきらかにg数がおかしい、もしくは分包紙の中の薬剤が均等に配分されていない場合もあります。これを指摘するとYは黙って調剤のやり直しをしてそのまま無言で渡す。

 わたしは監査機器のチェックなしで包装数を数えたらおしまいという監査のやり方が不満でした。今考えてもおかしいと思う。 

 このままだとわたしは自信をもって患者に粉薬を交付できない。派遣という立場上、Yが考え方を変えない以上は従わざるを得ないがわたしは当時の患者や施設に対して恥ずかしく、いわば薬剤師としての黒歴史となっている。


2,
 調剤は薬剤師の業務では基本中の基本です。患者や施設に交付するときは必ず調剤した人と別の薬剤師が監査という名前の見直しをします。その時に通常の散薬監査機器なら調剤した散薬名と軽量したグラム数が明記されているので、もし調剤ミスを指摘されたら後々の証拠になります。

 Yの仕事のやり方に納得できず悩みました。当時はまだわたしの子は小さかったし、保育園が薬局のすぐ近くで入所したばかりなのに退園したくなかった。

 そのうちYがすごくずるいことに気が付きました。Yは、調剤ミスが発覚しても本店には報告しない。SOAPといって監査や交付時の服薬指導記録をつけますが、そこすら何も書かない。つまり調剤ミスはYにとって都合の悪いことだと考えている。

 調剤ミスはどの薬剤師にとっても、怖いが、どんなに頑張ってもゼロにはならない。よほどのことがない限り査定に響くわけではない。薬剤師同志、調剤ミスの報告があがっても責めたりするわけではなく、注意喚起として次回同じようなミスをしないためにできることを話し合う。それなのにYは本店に報告を絶対にしない。

 こんなことがありました。例えばブロプレス(成分名カンデサルタン)という名前の降圧剤がありますが、1錠あたりの成分が2㎎、4㎎、8㎎、12㎎と4種類あります。箱のパッケージと色こそ変えられているが、mg数を間違えるとアウトです。ある時、Yが投薬窓口で長らく患者と話し合いをしていたので、どうしたのですか?と聞いても、いつものように理由を教えない。

 これはわたしがパートのせいで見下されて教える価値がないからかなと思っていたら、Yがお手洗いで席を外した時に、事務さんがブロプレス2㎎錠を渡すはずが6倍量の12㎎錠を交付した調剤ミスの発覚を告げました。Yのミスです。患者の家族が気づいて交換しにきたと教えてくれました。外来調剤で混んでいるときはYは監査なしで交付したりするので、こういうことがおきてしまうのです。

 Yとてわざと間違えたわけではないし、何度も書くが調剤ミスはいくら気をつけてもゼロにはならない。でも本支店があり、Yも雇用されている立場です。
 調剤ミスがあった以上報告義務はあるし、わたしは派遣で以前は本店勤務もしていたのでおかしいと思いました。何よりもわたしがその薬局にいる間、Yのすぐ隣に座っているというのに、Yからわたしにすらこんなことがあったという報告をしないということは薬剤師はY一人で十分だと思っている表れでしょう。でもそれってYだけが薬剤師であり、他の薬剤師の存在意義がないに等しい。


 Yは人の好き嫌いが激しく気に入りの事務には世間話をするが、わたしやもう一人の事務にはあいさつすらしない。ターゲットにされた若い事務はわたしにYの冷たさに泣きながら相談しますが、Yの性格は変えられないからそれがいやだったら辞めるしかないよというと、本当に辞めちゃいました。

 そしてわたしはこんな狭い調剤薬局の支店で君臨している井の中の蛙のようなYが嫌になり、わたしもやめて県立病院におなじくパートながら転職しました。病院の給料は調剤薬局よりも安いのが定番ですが、学ぶことは多く後のキャリアアップにもつながり転職してよかったと思います。しかし大雪のある日、車の事故を起こして休職しました。車の破損だけですみ、けがこそなかったのは幸いですが、凍結した道路を運転すると手が震えて出勤どころでなく、どうにもならなくなりました。

 それで休職になり、在宅していると春先になんと例の調剤薬局から声がかかりました。しかも本店からです。冬の運転が不可なら、春夏秋だけの勤務OK,そのうえYのいる支店には二度と行かせないという好条件でした。

 というよりも、Yまだそこに勤務しているのか……本店にいる性格の穏やかな常勤が手伝いに行っている状況でした。その人に聞いてみると、意見を持たないことで続けられるという。監査のみでラッキーじゃんともいう。わたしは昔気質すぎなのかもしれません。あっけらかんとした若い薬剤師さんの考えにはついていけません。

 まあ、わたしの人生にYのような薬剤師とかかわってしまい不快だが、経営者がクビにしないなら仕方がありません。

 Yとすごした期間は短いながら、処方箋に忠実に調剤できたか不明なまま交付したという意味ではわたしの黒歴史ですが、忘れようと思いました。

 またわたしがいない間に、本店の管理薬剤師が変更になったのも大きいです。前の本店の管理薬剤師はYと仲がよく、わたしがYに逆らったというスタンスで罵倒された経験がありましたので、今なお恨んでいます。あいつがもういないなら大丈夫だろうと本店の勤務に戻り現在にいたります。


3,
 ところが……晴天の霹靂なことが起こりました。

 わたしが本店勤務を続けていると、なんと本年四月一日付で、Yが支店の「管理薬剤師を降板され本店勤務に異動」 となりました。

 わたしはそれを聞いて本店管理薬剤師と社長(非薬剤師)に前回理由も言わず黙って退職したがYが薬剤師として不向きであることを訴えました。社長たちはわたしの話を最後まで聞いてくれました。思い当たることは多々あったようです。

 支店の管理薬剤師を降板して本店のヒラにすることにYは納得せず、あと二年で定年なのにひどいとずいぶんとごねたようですが、社長が世代交代だから従えと告げたようです。(本意は多分別のところにあるとは思いますが)

 現在の本店の管理薬剤師は以前Yと一緒に働いていたこともあるが、Yのおかしさに気づいても、年下ということと、Yの支店での勤務が数十年にわたるので経験が浅い立場からは意見を言えなかったという人です。

 わたしは社長たちに重ねて、Yは医療者たる根本的な資質を欠いていること、Yに都合が悪いことがあれば例えば調剤ミスでも平気で糊塗するだろうことを訴えました。懲戒免職すべきだともいいました。ここまで他の薬剤師の資質にかんすることを断罪するのは初めての経験ですが社長たちは怒りませんでした。多分それはわたしが元公務員薬学職で医薬分業の黎明期に調剤薬局の指導にかかわっていた経歴を知っていたからだと思います。

 でも、社長は一言だけ返答します。

「Yを当社から免職させるに至る証拠を提出できるか」

 わたしも黙りました。そういや、全然ないわぁ……。第三者を納得させることができねば、ただの悪口ですね。がっくりしているわたしに社長は言いました。

「でもまあパワハラでやめた職員や逆セクハラのことがあるので、それもゆっくりと聴取はするつもりだ」

 逆セクハラの話がでたので、ぎょっとします。

 実はYはEという卸の若い子が好きで彼が来ると狭い控室に招き入れ長時間こもっていました。あれから十数年たっているのにまだやっていたのか……彼は次の職場の病院でも会いましたがわたしの顔を見るとバツが悪そうに下を向いていたので、Yに迫られてイヤだったのだろうな、かわいそうにと思っています。Yは年のわりに若くは見えますが若い男性患者が薬を取りに来ると張り切って接客するので気持ちが悪い女だとは思っていました。でも卸相手に密室にこもるなら、ホストクラブに行けばいいのに。その方が相手も接客のプロだし双方とも割り切れるだろうに。卸なら確かに無料だし勤務時間でも休み時間でもお手軽でいいけどそれって立派な逆パワハラにならないか?

 今も調剤薬局に勤務する全員が、ウエストの絞りがない、だぼんとした通常の白衣を着て仕事をしているのに、Y一人だけ医師が着るような緑や青のすその短いKC型白衣を着て仕事をしている。容姿に自信があるのは間違いない。しかし三月までYがいた支店の人によく聞いてみると現在のEの担当者は50歳代の男性で、その人もYの気に入りで来ると支店の控室に呼び入れていたというので狂っているとしか思えない。わたしは言いました。

「控室に鍵をかけて他人が入れないようにしてまで、こもっていることはお互い成人で合意の上で人に言えぬことを仮にしたとしても、職場で、ですよ? 休憩時間中でもおかしくないですか? E卸にしたら取引先の支店長たるYから言われたら部屋に招かれても断りにくいだろうし」

 あの若い子からEの代々の担当者に因果を含めていたとしたら恐ろしすぎる。これを少なくとも数十年続けていたというのが単純に気持ちが悪い。パワハラと無視でやめた事務さんの顔を思い出して、Yはやはり他人の意向を無視して己本位の感情で動く人間かと思いました。

 というわけで社長の判断待ちですが、確たる証拠がないのと大学薬剤部がない県にいるので、万年薬剤師不足なこともあり懲戒免職まで至らぬだろうと思っています。

 4月からこっちYの様子をみていますが何事もなく本店の散薬調剤監査機器も文句も言わず素直に使い、わたしを見て笑顔でよろしくねと平然と言ってのける神経に驚きます。こういう人の方が病んで辞めた人を押しのけ、かつ憮然としているわたしを無視して平然と仕事ができるのかと思う。

 以上、今回も文章で長々と綴りましたが、医療従事者たる根本的な資格がないと責めてもYが反省しないだろうし、被害者が明確に存在せず証拠もない以上、どうにもなりません。わたしは逆に名誉棄損を言われる立場になったわけです。

 というわけで連休の晴れ間に愚痴な文面を綴り、アップして結局何もならないでしょうが、わたしの薬剤師としての黒歴史を彩るYを記録として残しておきます。

 わたしは結局、人の感情に鈍い図太い人間が得をする世の中なのだと、諦めました。そう割り切らないとわたしのほうが精神を病んでしまうからです。

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


※ これの続編を追加しておきます。これは令和5年度に開催されたクリエイターフェスの一環で薬剤師日記で書かれたものです。

都合の悪いことは覚えていないというのは、最強の言葉、都合の良い呪文になるのだろうねっということを強く感じた話です。


ありがとうございます。