魅惑のカプセルトイ「無鵺」

物欲旺盛

 私という生き物は大変欲深いもので、
 ロクな蓄えも稼ぎもないが、
 食欲と物欲だけは旺盛である。

 食欲の方については
 「料理をすることは好き」であるので、
 ある程度費用を浮かせることができるのだが、
 物欲の方はそうはいかない。

 私が欲しいものは大抵、
 書物やら文具やら玩具やら
 鉱物やら植物やら装飾品やらと、
 いわば「娯楽のための品」である。

 一部については
 粗悪であれ自ら作り上げることも可能ではある。
 が、私が欲しいものは自らが作ったものではない。

 「誰それの作ったアレ」が欲しいのである。

 正当な対価を支払い
 それらを手に入れることは
 「経済活動」としてみれば
 極めて健全
なことであるが、
 己の「経済状況」を加味すれば
 不健全であると言わざるを得ない
こともある。

 早い話が無駄遣いだ。

 否、私からすれば投資であるが。

 この主観と客観がせめぎあい、
 ここ一週間ほど
 非常に頭を悩ませた。

カプセルトイ華胥奇譚録「無鵺」

 とりあえず、こちらの写真を見てほしい。

カプセルトイ版華胥奇譚録『無鵺』第2弾
左上『御伽雪』右上『天涯』
左下『叢雲』右下『紫苑』

 株式会社SO-TAから発売されている
 カプセルトイ版
 「華胥奇譚録(かしょきたんろく)」シリーズ
 「無鵺(むや) 第二弾」である。

 架空の国「華胥」にまつわる異形
 「無鵺」というモノをイメージして作られた
 稼働式フィギュアである。

 この無鵺というものは

「華胥」と呼ばれる国の特殊な樹の樹液が溜まることにより、二体一対の「有鵺」「無鵺」が生まれる。

この樹液は、特殊なインクへと変容し、ヒトの世へ紛れ込んだ。

そしてそのインクでヒトが感情のこもった文章を書いたとき、偶発的に「有鵺」「無鵺」が生まれることがある。

しかし、本来なら二体一対として生まれるはずがインクが変容してしまったがために、ヒトの世ではどちらか片方しか生まれない。

生まれた「有鵺」「無鵺」はその感情の元となったヒトと共存することもあれば離れていくこともある。

ここでは「無鵺」が生まれるきっかけとなった文章の一部を抜粋する。

華胥奇譚録『無鵺』付属ブックレットより

 という、何ともエモい設定が付いている。

 文字という言霊から生まれる異形……。
 ヒトと共存する可能性のある異形……。
 そしてブックレット内で紹介されている文章と、
 そこから生まれた無鵺の設定の考察……。
 どこがどういいとかはおいておいて、
 個人的には造形まで完璧……。

 俗っぽく言えば
 私の性癖ストライクゾーンど真ん中である。

 そして稼働式フィギュアの
 カプセルトイとしてもとても出来がいい。

 鱗の一枚、牙の一本、皮膚のシワまで
 丁寧に作り込まれ
 ボールジョイント仕様で22ヶ所稼働する。

 なお、この造形は、
 「ガレージキットの聖地」
 『ワンダーフェスティバル(通称:ワンフェス)』常連の
 造形師集団『FrogTree』様によるものである。

 ワンフェス行きてえなあ……。

 ちなみに、
 作り込まれているのは造形だけではなく、
 先ほど引用したブックレットも作り込まれている。

 各無鵺が生まれた文章を紹介する
 フォントが無鵺ごとに違ったり、
 ブックレットを無鵺の図鑑ミニブックとして
 保管することもできる。

 ゲームの説明書が好きだった
 私みたいなものには、
 そういった細やかな作り込みが刺さる。

 なお、
 カプセルトイ版と
 ブラインドボックス版があり、
 ラインナップは各4種ずつ。
 その他に予約限定品やイベント限定品、
 ソフビ版などもある。
 私はそれらを全て把握しているわけではないが、
 おそらく全20種類近くあるのではなかろうか。

 私が所持しているものは
 全てカプセルトイ版である。

 第二弾が発売されたのは
 2023年、今年の4月であるが、
 今も時々実機を見かけるので、
 場所によってはまだあるかもしれない。

 見かけたら
 是非回してほしい。

 このクオリティで500円
 カプセルトイである。

 雄々しく咆哮するようなポージングも、
 何かを導くような見返りポージングも、
 お座りも寝そべりもできる。
 尻尾の作りがしっかりしているので、
 後ろ足だけで立たせることもできてしまう。

 こんなに動いて
 こんなに遊べて
 造形も設定も最高なフィギュアが
 カプセルトイ版なら
 ひとつ500円である。

 ちなみに、
 ブラインドボックス版は
 ひとつ660円と価格が違うことに
 留意されたい。
 その分彩色はグラデーション有りなど
 非常に凝っているようだ。

 ワンコインで召喚できる
 美しく愛らしい玩具一つで
 生活が潤うこと間違いなしである。

 というか、
 少なくとも私の生活はめっちゃ潤った。

出会いの思い出

 私が初めて
 この無鵺を発見したのは、
 昨年12月頃。
 複合商業施設のカプセルトイコーナーである。

 無鵺の第一弾が発売されたのが、
 2022年9月頃であるので、
 まあ、妥当なところである。

 まず、
 台紙の商品写真に目を引かれた。

 造形があまりにも美しすぎた。

 しかし、全長150mm
 大きめのフィギュアであるので、
 場所を取る。

 私の「物欲」は
 文字通り「物質」に対する欲であるので
 基本何を買っても場所を取る。

 場所を取るということは、
 部屋を片付けて、
 物を置くスペースを作らなければならない。

 毎度、
 これが結構面倒くさい。

 だから、
 衝動で回すのは一旦やめにした。

 まず用事を済ませて、
 帰る頃までに、
 それがまだ頭にこびりついて
 離れないようなら
 回そうと決めた。

 結果は、
 言うまでもない。

 二回回した。

カプセルトイ版華胥奇譚録『無鵺』第1弾
『光明』2匹

 そうして
 私が初めて入手した無鵺は
 第一弾「光明」2匹である。
 普通に被りなので、
 当初はやや落ち込んだが
 それを払拭するほどの出来のいい玩具。

 被りすら乙と思わせる魅力。
 
半端じゃねぇ…。

 そういうわけで、
 無鵺に魅せられた私は
 今年4月に二弾が出た時には
 入荷情報の出たカプセルトイ専門店に行き、
 フラゲした。

 私の物欲を察したか、
 カプセルトイの女神が微笑み
 被りなし一発フルコンプ。
 
そしてやって来たのが
 先の写真の4匹である。
 愛しい。

 私の今年の運は、
 その時に半分使い切った気がする。

 しかし、
 第一弾はあれきりで
 どこに行っても見かけることがなく、
 そのまま半年以上が過ぎた。

 はずだった。

 私は見つけてしまったのだ。

 カプセルトイ卸店のネットショップで、
 第一弾の在庫が定価で残っているのを。

そして彼らは増殖する。

 己の物欲旺盛さは自覚しているものの、
 だからと言って、
 のべつ幕なし衝動買いしているわけではない。

 はずである。

 なので今回も、
 一週間ほど頭を悩ませた。

 ただでさえ
 現在6匹の無鵺がいる。

 現在でもかなり場所を取っている。

 これ以上増えたら、
 私の居場所はどうなる。
 作業スペースはどうなる。

 無鵺たちの居場所は、
 どこに作る。

 他にも欲しいものはある。

 だが、
 カプセルトイと食玩はナマモノ
 
という。

 一度発売されたものは、
 再版されるかどうかも怪しいのが、
 カプセルトイと食玩なのである。

 これを逃せば、
 二度とカプセルトイ第一弾の無鵺と暮らす生活を
 送れなくなるかもしれない。

 迷った。
 迷った挙句、
 「私に無鵺は本当に必要か」を
 占いすらした。

 占いが趣味なのは、
 こういうときに非常に便利である。

 占いでは、
 「無鵺が私を新たな世界に連れて行ってくれる」
 
と出た。

 すでに6匹いるのに、だ。

 占いの結果は更に私を混乱させ、
 しかし、最終的には、

 これである。

カプセルトイ版華胥奇譚録『無鵺』第1弾
左上『一縷』右上『光明』(3匹目)
左下『水天』右下『空夢』

 増えた。
 
我が家の無鵺はこれで10匹である。

 置き場は……、
 そこそこ困っているので、とりあえず、
 作業スペースの端っこで
 おしくらまんじゅうしてもらっているが……。
 その姿すらまた愛しい。

 たまに邪魔なときがないわけではないが、
 別にそれほど邪魔じゃない。

 むしろ「ごめんねーちょっとどけてねー」とか
 イタい独り言をかけながら、
 そっと場所を移動するこの感覚プライスレス。

 人形やぬいぐるみに
 声を掛けるイタい類の人間で申し訳ない。

 ただあまりにも、
 無鵺が良すぎて、つい。

 別に私が書いた文章から
 生まれたわけではない(設定)が、
 「ヒトと共存して」くれている(設定)幻覚。

 限界オタクになっちまう……。

多分また増殖する。

 無鵺1弾が発売されたのが昨年9月、
 2弾の発売が今年4月となれば、
 半年スパンで新商品が出るはずである。

 そうしたら私は、
 新たな無鵺との出会いを求めて、
 500円玉を握りしめ、
 カプセルトイを探しに行くだろう。

 私の作業スペースは更に狭くなるが、
 その分この乾いた生活が潤うなら、
 それくらい安い代償である。

 第3弾……いつまでも待ってます……。


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