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怪談|土手から見える部屋

 ドライブが趣味のKさんが、茨城県へ行ったときの話だ。
 その日は秋晴れのとても良い天気だったので、土手沿いにある公園に車を止めて散歩しようとなった。自販機で飲み物を買い、しばらく土手沿いを歩いた。スマホで風景を撮影したり、次の目的地を検索したりしてから公園に戻る。そこで、ふと違和感に気づいた。
 自分以外に人気が全く無い。平日の午前中とはいえ、晴れているし、住宅地も近い。公園で遊んでいる親子や、犬の散歩をしている老人がいてもおかしくないはずである。しかし、辺りには人の気配が全くなかった。公園や、そこから左右に伸びる土手はきれいに手入れされており、放置されているような印象は無い。穏やかな場所であるのに、ごっそりと人の気配だけが感じられなかった。
 ところが、川の向こう側には幾人かが散歩をしているのが見えた。それを見て、偶然こちらには人がいないだけなのだろうと思った。本当にただの偶然。そう思いながら、土手下の国道沿いにある住宅地に目をやった。
 ほど近い住宅の二階部分が、土手に立つKさんと同じ高さにある。その二階の部屋が丸見えになっている。カーテンすらも無く、部屋の中にはひとつも家具が無い。空き家かと思ったが、一階を見れば曇りガラスの向こうに生活感が濃く浮き出ている。庭先には洗濯物もあり、空き家に見えるのは二階だけのようだった。
 おかしな家だ、そんな風に見ていると、その隣の家も二階の部分だけが空っぽだった。もしかするとその隣も、と思ったが全ての家がそうではなかった。周辺の家々を見渡してみると、二階の部屋が土手よりも下になる家は、ごく普通に使用されており、部屋が土手よりも上になると、カーテンも引かれずに空き家のように空っぽになっていた。
 一部屋を潰してまでも、この土手を見たくない理由があるというのだろうか。
 そう思った途端怖くなり、慌てて車まで戻った、という。

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