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コールセンターで得た“人に寄り添う”という感覚

私は以前、短期派遣の仕事で家庭向けプリンターのテクニカルサポートとしてコールセンターで働いたことがある。
たった2ヶ月の間だったが、素敵な人に出会えた。

その人は佐々木さんと言って、北海道出身の少し体の大きな男性だ。

私が仕事をしたこのコールセンターの会社は、テレフォンオペレーターを10人ずつくらいのチームに分けて、チームごとにリーダーとサブリーダーをつけて業務を行っていた。
佐々木さんはリーダーだ。
リーダーは基本的に電話を取らないが、各チームのオペレーターのサポートやスケジュール管理、クレーム処理なんかをする。

私がいたこの2ヶ月の期間というのは、11,12月でプリンター業界にとっては一年で一番の繁忙期だ。
この期間、日本人は年賀状を印刷するのに忙しい。
しかも、年賀状を自宅プリントするためにプリンターを購入したという人も多いので、しばらく使っていなかったプリンターを再起動させるのでトラブルが多い。
2ヶ月間だけでも猫の手も借りたい忙しさなのだ。

そして、テクニカルサポートはトラブルシューティングが得意でなくてはならない。なぜなら、顧客は“今”使えないと困るという場合が多いからだ。
できることなら修理なんてしたくないのである。修理となると時間がかかるからだ。
自分でアレコレ試してどうしてもうまくいかず、故障してるかもしれないが他にできることはないか、と薄い望みを託して電話をかけてくる人は少なくない。
テクニカルサポートは、“今”起こっている問題を解決することを最優先しなければいけないのだ。

実際にこの時期に電話を受けると、ほとんどの人が口を揃えたかのように「年賀状が印刷できない」と言う。年賀状は期日が決まっているので、それまでに出さなければ、と焦っている人のなんと多いことか。可及的速やかに解決しなければならない。

ほとんどの場合、問題は解決しそのまま印刷できるようになることが多い。
だがまれに本当にプリンターが不調で故障診断、修理受付をしなければならない事態に直面する。その時はオペレーターとして胸が痛くなる。


いつだったかの業務終了後、勉強会が開かれた。
オペレーターたちの業務上の疑問に対し、佐々木さんを含むリーダーたちがアドバイスをしていくという質疑応答形式だ。

そこでの佐々木さんの言葉が今でも忘れられない。

疑問は「故障診断をした後の顧客へのフォローをどうしたらいいのか?」という内容だった。

佐々木さんは当たり前のように言う。
「故障は故障で割り切るしかない、それはあなたのせいじゃない。強いて言うなら故障してしまったプリンターが悪い。客には『うちのプリンターが迷惑をかけて申し訳ない』と誠意を持って謝るしかない」

そしてこう続けた。
「謝った上で、俺なら、客の家の近くにコンビニがあるか聞くね。自宅のプリンターで印刷できないなら、コンビニでしたらいい。印刷する方法は何も自宅プリントだけじゃない、他の今できる方法を提案する」

「今できる方法を提案する」

これが一番大事で、これが“人に寄り添う”ってことなのだ。

うちのプリンターは今は使えない、修理の受付はするけど時間がかかる、それなら今は別のこんな方法で印刷できないかやってみたら?

困っている人の悩みの原因を見誤らないこと。
その人が一番望んでいる状態を想像すること。

佐々木さんはそれをシレッと涼しい顔で教えてくれた。


これから先、きっと誰かの力になりたいと思う瞬間が来るだろう。
そのときは、“どういう状態を望んでいるのか”を見極められるようにしたいと思う。

人に寄り添える人間になろう。

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