セミダブルのマットレス、1.95メートル

「マスクしてるし、これまでも罹らなかったし、ワクチン接種も始まったし、これからもまあ手洗いうがいしとけば大丈夫だろう」と思っていた矢先、「ドゴッ!!!」と殴り倒されるみたいに罹ってしまった。

ぜんぜん元気だったのに。

全方位に迷惑をかけ、いろいろと途方にくれてしまった。

日にちが経って、すこしずつ元気が戻ってきたので、流行り病に臥せったことのあくまで個人的な記録として(そして半ば行き場のない愚痴として)、書いておく。

発症初日と前触れ

「あ、なんか身体がだるいぞ、筋肉痛…?それにしてもちょっと感じが違うぞ」という、疲労感というか倦怠感と、そこはかとない微熱からスタート。

普段トレーニングをしているので筋肉痛には慣れているものの首筋や、肩のあたりに変なだるさがあった。

家に帰って熱を測ると37.1℃の微熱があり、「このまま熱が上がったら嫌だな」と思いながらかなり早めに就寝。

翌朝、起きてみると明らかに熱があり、測ってみると38.4℃で「ダメだ…」と思う。

オンラインのmtgがあったもののとても身体を起こしていられず欠席。

午後に熱が37.8℃に一旦下がり、夜には37.2℃まで下がる。

この日の午後に東京都の発熱相談センターに電話して、いくつかの医療機関を紹介してもらうも、その日開いていて連絡が取れたそれらの病院の一つに電話してみると「残念だが予約で一杯で受け入れられない」との回答。

熱もしんどく、病院へ行くのは翌日にすることに。

初期症状としては風邪というよりインフルエンザに近い。

3日目、病院の受診

三日目の朝は37.1℃の微熱。

この日は一日通じて37℃台前半の微熱が続いた。

午前中に電話して近くの病院の予約が夕方に取れたのでそれまで寝て過ごす。

病院へ行ってみると「発熱している方はこちらに」ということで発熱者のブロックで待機。

発熱者の方々が、結構多い。家族連れで受診されている方や、鼻水がズビズビ言っている方、みるからに具合が悪そうな方々がそんなに広くない待合室に続々と並ぶ。

待ち時間が結構長く、堪える。

その後診察を受け、血液検査と胸部のレントゲン撮影へ。

結果は血液検査では白血球の減少がみられ、レントゲンを見てみると肺に白いもや(肺炎になりかけているということらしい)があるとのこと。

そのままPCR検査(唾液検査・無償)を受けることになり、結果は明日以降にわかるとのこと。

お医者さんに「今この感染の疑いがある段階で、過去1週間位で近くにいた人たちに連絡した方がいいですか?」と尋ねてみると「結果がはっきりしてからの方がいいと思います」とのこと。

今出ている症状に対しての処方箋をもらい、薬局へ寄って帰宅。

帰り道で「せめてこれだけは」と思って2Lのポカリを2本購入。

帰宅して薬を飲んで就寝。

発症から4日目

朝起きて37.4℃。

「熱上がってんじゃねえか…」と思いながら、PCR検査の結果を待つ。

陽性だったらほんとうにいやだな、と思いながら寝る。

夕方、病院で昨日診察してくれた先生からの電話があり「陽性でした」とのこと。

改めて症状が出た日の確認と、名前、住所等の確認(保健所に繋ぐため)。

「保健所から改めて連絡が行くので、それまで待つように」とのこと。

結局この日のうちには保健所からの連絡はなく、ただ陽性ということだけが分かって途方に暮れてダウン。

引くことなく微熱が続くのでヘロヘロになる。

夜中ほうほうの体で冷蔵庫を開け、飲んだポカリスエットが強烈に美味しかった。

5日目

起きて測って37.0℃。

「ん、症状はこれでちょっと落ち着いたのか?」と少し淡い期待を抱く。

午前中に区の保健所からの電話。

発症日の確認、発症した日から2週間の間の行動の聞き取り(どこへ行ったか、何をしたか、感染の心当たりはあるか、どこで誰と一緒にいたか、マスクはしていたか…)、自宅療養か区内の宿泊施設(病院ではない)での療養かの選択(迎えの車は出してくれるとのこと)、食糧支給の希望の有無、これから療養期間が明けるまでの毎日の体調管理の連絡手段の選択(電話orLINE)など。

解熱剤も飲んでいて熱は微熱なものの身体がしんどく、これから荷造りしてホテルへ移動するような元気はとてもなく、自宅での療養を選ぶ。

聞き取りではかなり詳細に2週間前からの行動をあらためるも、心当たりらしい心当たりがなく感染経路は不明となった。

先ほどの聞き取り内容を踏まえて、濃厚接触者に該当する人がいるかどうかを保健所の人たちで判断するので、折り返し連絡があるとのこと。

結果的に「濃厚接触者はいない」という判断だった(ただ発症直前に出入りしたいくつかの施設については施設名称と住所の確認があった)。

基本的にマスクをしていれば近くで過ごしていても濃厚接触者には当たらないということで、そういう基準ならそうなのかと思いつつ「本当に…?」と思う。

午後、熱を測ると36.1℃。小康状態。

このタイミングで状況を整理して、発症する前に仕事や用事で一緒にいた、個人的に連絡が必要だと思われる方々にメールや電話で状況報告。

保健所としてはそういう方々についても「濃厚接触者ではない」という判断なので、自分から連絡したからといって皆さんに無償でPCR検査を受けてもらえる訳でもなく、無闇に不安にさせるだけのような気がしてただただ申し訳ない。

そう考えると具体的な方策もなしに報告するのも変なのだが、黙って報告しないのも憚られ、如何ともしがたい気持ち。

またこの先に予定している仕事の相手先にも感染してしまった旨連絡。対応を検討してくれるとのこと。

一通り連絡を終えてほっとしたからか、夜にまた熱が38.4℃まで上がる。

熱にうなされながら枕元のポカリを飲んで「あ」と思って、味覚と嗅覚(どちらかというと嗅覚)がなくなったことに気が付く。

この日の夜中、ぐるぐるとうなされるタイプの悪夢で目が覚めて、測ってみると38.9℃で「マジか…」と思う。

6日目

この日の午前中まで解熱剤を飲んでも38℃台の熱が続き、体力的に一番消耗した。

解熱剤も飲んでるのに全然熱が引かず「この熱いつまで続くの…?」という気持ちになってくる。

3日目くらいから背中の皮が一枚剥がれて肉が剥き出しになったような感じになり痛くて(肺炎の症状?)仰向けになれず、寝るのにふさわしいボジションがなかなか見つけられなくてただ寝ているだけでもしんどかった。

東京都の自宅療養者フォローアップセンターなるところから電話がかかってきて、「自然治癒して熱が下がってからの期間次第で自宅療養期間が伸びてしまうので、解熱剤は本当に辛い時以外はなるべく飲まないようにしてくださいね」との指導を受ける。

しかし体温は18:30ごろに37.8℃を計測し、かなりしんどいので解熱剤(カロナール)を飲んだところ、20時ごろには体温が35.8℃になった。

解熱剤の効果は絶大だけれども変温動物になった気分。

一気に身体が冷えるのを感じる。

ここまでほとんど何も食べられておらず、このまま体力が落ちたら洒落にならんと思い、UberEats(初めて使った)で三種のチーズ牛丼を食べるも味がわからない。

布団の上でプラスチックの容器の牛丼を食べながら「グニャグニャしてるな」と思う。

7日目

平熱(36℃台後半)と微熱(37℃台)を行ったり来たり。

1週間も微熱が続き、下がる見通しがないというのが本当に辛い。

熱がずっと続くだけで身体が消耗する。体重が減り、水分も抜けてげっそりしていく。

トイレに立つとクラクラする。

鼻水と痰が出るようになり、深く咳き込むと胸の奥の方に疼痛を感じるようになる。

去年、感染初期のNYで罹患してしまった方の手記に「とにかくしんどかったが『ここで死んでたまるか』という気持ちで映画を観たりして感動して泣き、嗚咽することが効果的だった」と書いてあったのを思い出し、Netflixでスラムダンクの陵南戦を観て泣く。

8日目

区からの食糧(段ボール3箱に水と食糧たくさん)と、パルスオキシメーター(血中酸素濃度を測るもの)が届く。

近くに住む先輩がポカリスエットやゼリーなどを届けてくれたり、チームのボスがポカリスエットを届けてくれたり、心配した友人が物資を届けてくれたり。

外に出られずヘロヘロだったので、ものすごくありがたかった。

コロナウイルスで寝込んだ時に飲んだポカリスウェットの味をわたしは忘れないだろうと思う(味はわからなかったが)。

また保健所経由で区からの支援物資も届く。玄関先に並べられた支援物資の段ボール箱を見て「ああ、これは災害なんだな」と思う。

これの物量が結構あり、水や食糧でパンパンの3箱を部屋の中に運び入れるのにとても骨が折れた(めっちゃ重かった)。

夕方、この夏関わるはずだったイベントの受け入れ先からコロナウイルスの陽性を受けて、受け入れ不可の連絡が入る。

一度コロナウイルスに罹ってしまうと、軽快して他者へ感染させる力がなくなったあとでもPCR検査ではしばらく陰性判定が出なくなってしまう(軽快してからも体内にはコロナウイルスの死骸が残り、精度の高いPCR検査はそれらのウイルスも検出してしまうため)。

自宅療養から10日を経過した際には保健所から就業制限等解除通知書が送付されるのだが、保健所もその業務で圧迫されており、自宅に届くまでにはどうしても2週間ほどかかってしまうとのことだった。

先方の方針として今回の受け入れのためには陰性証明書がどうしても必要であることと、就業制限等解除通知書の到着を待ったとしてもスケジュール的に間に合わないということもあり、残念だけれども今回は受け入れられないとのこと。

陰性証明書がないと行かれない場所がある。

結構長期のスケジュールも空け、色々調整して心から楽しみにしていたものがコロナウイルスに罹ったことで吹っ飛んでしまった。

仕事がなくなったことでそこであてにしていた収入もなくなり、途方に暮れる。

この日は熱がさがり、解熱剤なしで一日中平熱を計測するも、元気はまるで出ず。

9日目〜10日目

熱は再び大きく上がることなく快方へ向かったものの、自宅から出られないことがすこしずつ辛くなってくる。

支援物資の中身を見て、普段自分では選ばない食材が沢山あって実家を思いだす。

レトルト食品やインスタントのカップ焼きそば、チンするご飯などの実用的なものの他にも、息抜きに、ということなのだろうけどスナック菓子やゼリー、コーヒーなどの嗜好品が結構な量入っていたのが面白かった。

行き場のないワンルームの自室で寝たきりが続き体力がとても落ちていて、何をするにも元気がない。

昼間布団で臥せっていると楽しみにしていた仕事が飛んでしまったことが永遠にグルグルし、「俺はなんでコロナなんかに…」と思ってグズグズする。

感染症の症状に加えて療養期間の10日なら10日、加えてその前後の期間の計画や予定が狂ってしまって、みすみす機会を逃す。

「このご時世、みんなそうだものな」と思うけれど、いざ我が身に降りかかるとやりきれない。

いつだってそれは誰かの”Once in a lifettime”だろうと思う。

「どうせ家から出られないのだから、溜まっていた仕事を片付けよう」という淡い望みもあったが、熱が続いたことで体力的にかなり削られてしまい、体を起こして座っているだけでクラクラして結構しんどいのでもうどうにもならず。

洗濯物が溜まるが、溜まり過ぎてしまってかえってどうにもできない。

家から出られない、人と会えないことのしんどさが少しずつ効いてくる。

その後

熱が引いて自宅療養期間が明けてからも数日はまるで本調子に戻らず、かなり苦しかった。

10日間自宅から出られなかったので、体力がとにかく落ちてしまった。

あと単純に外に出るのが怖くなり、いろんなことが億劫になった。

軽快してから数週間経つものの、味覚と嗅覚(特に嗅覚)が全盛期の45パーセントくらいしか戻らない。

先日久しぶりに体を動かそうと思って公園に行ってみると土の匂いも木の匂いもせず、なんとなく現実感がない、書き割りの風景をみているような感じがして不思議だった。

嗅覚がなくなってしまうと身の回りの距離感がうまく掴めず、生活の中の立体感がなくなり、不便だなと思う。

つけ麺や、牛丼や、あるいはパクチーでもアイスでも、試しに食べてみた好きな食べ物の味や風味がよくわからない。

保健所の方や病院の先生に嗅覚・味覚が戻らないことについて相談をしても、「とりあえずそれは重症化につながるような症状ではないので、しばらく様子を見てください。」としか言ってもらえず、現時点では対症療法もないらしい。

味覚や嗅覚は早い人では3日で戻ることもあるらしいが、戻らない人では数ヶ月戻らないこともあるとのこと。

どうしたものかな、と思う。

繰り返し、にはなるけれど10日間+αの自宅療養を経て、びっくりするくらい体力が落ちてしまった。

元々トレーニングをしたりしていて丈夫な方だと思っていたけれど、久しぶりにからだを動かしてみたら少し動くだけで息が切れたりクラクラしたり、手足が痺れてしまったり、足腰が弱ったことをかなり如実に感じた。

「心身ともにかなり削られます、マジで絶対に罹らない方がいいです!!」ということを周りの人へ伝えたいけれど、そのためにどうすれば、ということを考えると言葉に詰まってしまう。

マスクをしていても、手洗いをしていても、消毒していても、ワクチンを打っても、罹りたくないと思って生活していても罹ってしまうし、どうせいっちゅうねん、と思う。

コロナウイルスへ罹ってしまった場合、ワクチン接種を受けるにはどうしたらいいのか、今回受診した病院へ問い合わせると接種当日に発熱がなければ問題ないので受けてくださいとのこと。

加えてワクチン接種後にワクチンがきちんと定着したかどうかを確かめるため、2回目の接種後4週間を目安として抗体検査(6000円)を受けることをオススメされて電話を切った。

地元の自治体ではワクチンの予約はまるで空きがなく、日々リロードしまくっても思うように予約が取れない。

数千という数の人が、今もしんどく臥せっている。

罹ってみると、症状そのものと行動の自由を制限されることの合わせ技一本となり、思ったよりも遥かに辛い。

とはいえこれでわたしは軽症なのだから、体力のない人や持病のある人、高齢者が罹ったらそれは大変なことになるということを実感する。

罹ってみて尚、この流行り病が怖い、と思いながら盛りを迎えた夏を過ごす。

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