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【読書レポ 論文編】カワイイプロダクトは“不気味”になる直前にある

1.かわいい顔は、非現実的で不気味?

赤ちゃんの顔や萌えキャラの顔は、極端に目―特に黒目―が大きい特徴があります。この顔は、かわいさもある一方で、人間らしい顔のバランスから逸脱しており、不自然さを孕んでいます。たとえば、プリクラの極端な加工や黒目部分を極度に大きく見せるカラコンをつけた顔は、可愛くしようとした結果可愛くないどころか、見る人に恐怖を与える姿になってしまうことがあるかと思います。

今回は、ロボット工学の分野で登場した「不気味の谷」の理論を応用して、不気味になる手前に「カワイイの丘」が存在することを発見した論文を共有します。

共有する論文:『カワイイ概念と「不気味の谷現象について』

2.「カワイイ丘」の提唱

畠山(2014)は、論文中で扱うカワイイについて、以下2つの要素があることを先行研究から分析しました。

⑴不完全、未成熟
⑵過剰な装飾性をもつ p.33

これら2つの要素を「カワイイの丘」理論を使って考察します。

まずベースとなる「不気味の谷」現象は、ロボット工学者の森政弘が提唱しました。

ロボットの見た目や動作が人間に似てくるにつれて、そのロボットに対する好感度や共感度は徐々に上昇していくが、ある時点でそれが強い嫌悪感に変わってしまい、さらに類似度を上昇させ、人間の見た目や動きと見分けがつかなくなるほどまでになると、人間に対するものと同じような親近感・共感を取り戻すであろうという仮説を提案した。
言い換えれば、外観や動きが中途半端に人間に似たロボットやアバターは、人間にとって不気味な存在になってしまうという仮説である。 p.34

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↑論文p.34から引用 (松田佳尚・明和政子 2013 「情動発達と母子関係」)

この人間らしさを大人の人間らしさと理解すると、大人へ向かう成熟度と読み替えができます。上記グラフの横軸を「類似度」から「成熟度」に替えたグラフが以下です。

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↑論文p.35から引用

グラフの左に寄るほど大人とかけ離れた形の未成熟であり、右に寄るほど成熟した大人と近いことを表現します。畠山は、感情的反応が落ち始める左側に注目します。

この「未成熟な」段階においてもっとも親近感・共感度が高い部分こそがカワイイにおける「未成熟・未完成」と重なる部分と考えられる。p.36

さらに畠山は、ロリータ・ファッションを例に過剰に飾ることでカワイイとなる理論を以下のように論じます。

過剰な装飾は、単にカワイイの丘に留まるだけでなく、さらに先鋭化した未成熟指向、言い換えればカワイイの過剰化(excessivization)と解釈できる。すなわち、成熟方向、つまりカワイイの丘から不気味の丘へ進行という成熟化を完全に拒否し、未成熟な位置に留まることを過剰にアピールしていると捉えられる。 p.41

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↑論文p.41から引用

このようにカワイイと不気味さは、強い関係があるのです。

3.キモかわは谷への下り坂?

可愛いと不気味さの関係は、線上にあり、行ったり来たりできるグラフで表現できることが、今回の論文で分かりました。先行研究でみられる、「かわいいは不気味さを内包する」という議論と並べて検討してみたい結論です。

畠山の主張の中にはなかった指摘ですが、「キモかわ(キモいけどかわいい)」も今回のグラフを応用して議論できそうです。「カワイイの丘」から「不気味の谷」までの右下がりになる途中、縦軸の「感情的反応」において高い位置を示したままの部分があります。

「せんとくん」は、当初、キャラクターにしてはリアルで気持ち悪いと批判されました。しかしながら、それが一周まわってネタとして定着し、結果かわいいという評価を得ることに成功しました。おそらくせんとくんのリアルであるがゆえの気持ち悪さは、初めからグラフ上の谷底ではなく、好意的に捉えることができる余地があったのだと思います。

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↑論文p.35掲載の図にyoon-aが赤字で書き加えた

もし上記の部分を名付けるとしたら、“キモかわの坂”なんてどうでしょうか。

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参考・参照文献:畠山真一 2014 「カワイイ概念と「不気味の谷」現象について」『尚絅大学研究紀要 人文・社会科学編』第46号 尚絅大学 pp.29-42 


かわいいと未成熟についてのテーマは、以下の記事でも共有しています。


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