「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」と「INTERNET YAMERO」

最初に断っておくが、今からしたいのはどちらが優れているかという話ではなく、インターネット的な出自を持つ両者がインターネット的なものを引用しつつも決定的に異なっている点の指摘である。これを読むあなたの「好き」を損なうものではない。また文中の固有名詞の解説はしない。

両者は「平成インターネットをSNSでバズった引用した楽曲」という点で共通している。
先に自分で指摘するが、両者が引用する平成インターネットは同じものではない。粛聖!! ロリ神レクイエム☆が引用するのはニコニコ動画的なものであり、INTERNET YAMEROが引用するのは2ちゃんねる(特にVIPまで)的なものである。
一緒にすると怒られるかもしれないが、両者は同時期に隆盛を極め(00年代後半~10年代前半?)、両者を構成していた層は間違いなく被っていてお互いがお互いを部分的に含んでいたし、詳しくない人々からすれば同じように見えるだろうから、まとめて平成インターネット的なものとして扱うことにする。

以下が今から論じる両者である。見たことない方は動画含めて見てほしい。

いわゆるインターネット老人であれば、一見して懐かしい気持ちになるに違いない。わたしは当時大好きだった電波ソングを思い出した。INTERNET YAMEROのシンガーはKOTOKOだし、粛聖!! ロリ神レクイエム☆の楽曲制作はIOSYSである。それゆえに当時との違いに目を向けずにはいられない。

粛聖!! ロリ神レクイエム☆には背後に物語性がない。この曲からは背後にある物語をほとんど読み込むことができない。せいぜい、しぐれういとその活動で形作られたキャラ性である。そういう意味でこの作品は一次創作であるが、「しぐれうい」というキャラクターのキャラクターソングであることから、同時にしぐれういによるしぐれういの二次創作でもある[*]。

曲自体は歌詞の徹底的な無意味さと、キャッチーで中毒性のある(バズりを意識した)曲調のみで構成されている。
それを作品として成立させているのは、ニコニコ動画的なミームの力と、キャラクターとしての「しぐれうい」と、それらを存分に表現するリッチなアニメーションである。この作品は徹底的に、かわいさとか話題にしやすさといった強度で成り立っている[**]。誤解を恐れずに言えば、楽曲に陰影がない。非常にわかりやすい、強者のつくった陽の作品なのだ。

一方のINTERNET YAMEROでは、背後にあるのはNEEDY GIRL OVERDOSE(以降ニディガ)というゲームの虚構世界であり、ニディガの背後にあるのは、極めて現代的な実存の問題(「わたし」の承認の問題)である。
曲調そのものは、キャッチーで中毒性のある点で見れば共通しているが(曲調は全然違う)、一度聞けば、歌詞からすぐに「わたし」の承認の問題を読み取ることができる。
かわいさとか話題にしやすさという強度はもちろんあるのだが、それを飲み込んで覆いつくさんほどの自意識の問題が前面に出ている。こちらは楽曲に陰影がある、いわば陰の作品と言える。

両者はバズりを志向した作品構成かつ、平成インターネット文化を引用している点は共通しているが(ちなみにポリティカルコレクトネス的な問題を抱えている点も共通している)、その作品の内実は大きく異なる。
粛聖!! ロリ神レクイエム☆が、平成インターネット文化のサンプリングによるパロディ(リスペクト)あるいは懐古趣味に終始しているとすれば、INTERNET YAMEROは表面上は平成インターネットを引用しつつも、内容的には極めて現代的であり、平成インターネットの延長に、いわば令和インターネット的なものに位置付けられるようにおもえるのである。
そして、両者が同等の重さで扱われる現代SNS文化の令和性(?)を感じずにはいられないのである。

再度断っておくが、上でしたのは両者どちらが優れているという話ではない。また、両者が抱えているポリティカルコレクトネス的な問題について言及していない(遠因にはなっているかもしれないが、それは別の問題である)。

[*]:VTuberと二次創作の関係はとても面白いのでいつか記事にしたいと思っている。
[**]:本題からそれるので注釈に書くが、意図的に物語性を排除しているとおもう。VTuberのオリジナルソングは、VTuberという物語に立脚するのだから、普通に考えてそのVTuberのことを歌ったものになる。実際氏の他のオリジナル楽曲はそのような傾向が見られる。この観点からいくと、物語性を排除するために平成インターネットを引用したというのが実情だとおもう。
平成インターネットのエンタメ適正の高さ(脱政治性、ノスタルジー、購買力のあるマス層への訴求力)は、本格的に論じられてもよさそうなものである。


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