見出し画像

装丁の想定『飛ぶ教室』

「装丁の想定」
実在する本の表紙に使われるイラストをイメージして、個人的に制作した絵のシリーズ。2010年くらいから細々と描き続けています。

個性ゆたかな少年たちがわちゃわちゃしてるのを描きたかった。
自己満足だけど前書きに出てきた「軸が緑の鉛筆」をヨナタンに。

『飛ぶ教室』 著:エーリヒ・ケストナー

ドイツの寄宿学校(ギムナジウム)で生活する5年生(高等科1年生)の少年たちの物語。
「飛ぶ教室」とは、作中で彼らが演じるクリスマス劇のタイトル。
劇の脚本担当ジョニー、貧しくも秀才のマルティン、ボクサー志望のマッツ、臆病なウーリ、クールなゼバスティアーン。
個性ゆたかな少年たちそれぞれの悩み、悲しみ、そしてあこがれ。
劇やそのほかの様々な出来事を通し、多感な少年時代が描かれます。

今回は岩波少年文庫の2013年版(第10刷)を読みながら制作しました。

登場人物紹介
文章だけだとマティアスとマルティンがごっちゃになったのでイラスト付きの紹介ページがほしい…。訳によってはヨーナタンの愛称がドイツ語読みの「ヨーニー」になるそうですが、アメリカで呼ばれていたであろう「ジョニー」の方が背景が伝わる気がします。

ケストナーがこの小説を書いたのは1933年。
『アンネの日記』のアンネが日記帳を手にしたのが1942年なので、だいたいそれくらい昔っぽく見えるビジュアルにしたいなと。
ドイツの学校は基本的に制服がないらしい(日本では「ギムナジウム」ときくと『ポーの一族』みたいな制服を思い浮かべるかもだけど)ので、1920〜1930年ごろのトラッドスタイルを参考にしたり、船長に引き取られたジョニーにセーラー服を着せてみたりしました。男子が普段着で着るセーラー服、好きです。

「飛ぶ教室」とはドイツ語で「移動教室」のこと。
クリスマス劇『飛ぶ教室』はその言葉遊びで、先生と生徒が飛行機に乗って世界各地を飛び回ります。
ヴェスヴィオ火山の火口、ギゼのピラミッド、北極…とさまざまな地を表す舞台美術と、クリスマスの装飾を組み合わせて、見た人に「これはどんな物語なんだろう?」と思わせるようにしたいと思いました。
物語自体は劇についてのエピソードばかりではないのですが、パッと見で楽しくわくわくするかんじにしたいと。

夏休みの少女たちの『ふたりのロッテ』
クリスマスの少年たちの『飛ぶ教室』

エーリヒ・ケストナーは、以前描いた『ふたりのロッテ』と同じ著者です。
同じレーベルの作品っぽく見せたかったのですが、さすがに5人をひとつの枠に収めるのは難しかった…
『飛ぶ教室』の方がゴチャつきすぎてしまったかも。

舞台となる寄宿学校には10〜18歳くらいの少年が在籍。
最年長が9年生で、メインキャラクターの「マルティン」たちが5年生(14歳?)なので、だいたい小6〜中2くらいに見えればいいのかな〜と思うのですが

9歳のロッテたちの身長をちょっと高く描きすぎてしまった(リアル体型のこどもは意外と大きいんですが)のでバランスを取るのが地味に難しかった。
ちびのウーリがロッテたちと同じくらいの体型、他の少年たちがそれより頭半分〜ひとつくらい大きいかんじです。

「禁煙さん」ことローベルト・ウトホフト(左)と、「正義先生」ことヨーハン・ベク(右)。
かつて少年だった大人たちの友情も語られる。

今回は挿画としてモノクロイラストも描いてみたり。
やっぱりモノクロなら輪郭線ありのほうが見やすいだろうか…といろいろ試しつつ。
『飛ぶ教室』には印象的な大人のキャラクターも登場します。
市民農園に置かれた禁煙客車に住んでいる「禁煙さん(本人は「吸いすぎるほど吸う」らしい)」と、少年たちに大人気の「正義先生」。
1930年代くらいの太いズボンを履かせて、髪型などもその頃を参考にちょっと古めかしいかんじにしたつもり。
著者のケストナーが脚本を書き本人役で出演もした1954年のモノクロ実写映画では、正義先生は恰幅のいいメガネのおじさん(あれはあれで好き)というかんじでしたが、役どころとしては少年たちの憧れるカッコイイ大人枠なのでふたりともそこはかとなくイケメンぽく見えればいいなと。

『飛ぶ教室』は何度も映画化されています。
比較的見やすいのは2003年映画版かな。こちらは現代アレンジされています…が、それでも20年前。
しかし少年たちがわちゃわちゃしてるのがとてもかわいい。
禁煙車を秘密基地にしてる光景とか、とてもワクワクします。

2003年版はヨーナタンとマティアスの設定がところどころまざっていたり、ゼバスティアーンとルーディ(国語(ドイツ語)の先生の息子)が統合されていたり、女子キャラとの淡い恋愛要素があったり。全体的にキャラが濃くなってます。かわいい犬もいる。
寄宿学校が「聖トーマス教会合唱団」で有名な聖トーマス校になり、聖歌隊の制服にもときめきます。あの上品な制服でしっかり抗争するのも笑える。
個人的に印象に残った違いは、
「正義先生」と「禁煙さん」の離別の理由が、「禁煙さんが冷戦時にベルリンの壁を超えたから(そしてその影響で正義先生も辛い境遇に追いやられた)」になっていたこと。つまりそのまま死別してもおかしくなかったし、たぶん正義先生は禁煙さんがまず死んでいたと思っていただろうな…と。ふたりの再会と、会えなかった間の複雑な感情がより重いものになっていました。

ケストナーが『飛ぶ教室』を書いた1933年。
この年にドイツはナチス政権の手に落ち、ケストナーは第二次世界大戦やユダヤ人の虐殺に反対したことで、児童文学以外を書くのを禁じられました。
政権批判がしたくてもできなかった当時のケストナーの思いを、映画版の正義先生と禁煙さんのエピソードにこめたのではないかと思います。
ケストナーはのちにゲシュタポに捕まったり焚書されたりもしています。自分の本が焼かれているところをわざわざ見物しに行ったというエピソードもあって流石…

「平和を乱すことがなされたら、それをした者だけでなく、止めなかった者にも責任はある」

国語(ドイツ語)のクロイツカム先生の言葉

全体としては少年たちのわちゃわちゃ賑やかな青春群像劇なのですが、そこここに含蓄のある言葉があらわれます。
クロイツカム先生も、ここだけ抜き出すと厳格な人っぽいし実際そうではあるんだろうけど、すごくユーモラスでいい味出てます。


児童文学っぽいものもいろいろ描いているのでよかったら他のも見てくださるとありがたいです〜


サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!