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装画『君がくれた最後のピース』-メイキング

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『君がくれた最後のピース』
著:菊川あすか 氏
刊:実業之日本社GROW
発売日:2021/08/06
デザイン: 西村弘美

装画を担当いたしました。

最愛の母を亡くし2年。嘆き悲しむ暇もなく、遺された家族のため気丈に頑張ってきた大学生の智子。
だが、新しい恋人を作る父、バイトもせず家にこもる兄…と報われない毎日が嫌になり、智子は母の故郷・秋田へ「家出」という名の旅に出る――
謎の少女「よっちゃん」と出会い、衝撃的な母の過去の秘密に触れる中、
人との絆や愛される奇跡に気づいていく。

1:ご依頼

今回の作品は新レーベル「実業之日本社文庫GROW」の創刊第3弾。
ご依頼のきっかけは『この本を盗む者は』だそうで、あんなかんじの雰囲気で〜とのオーダーでした。

「家族愛」「心の成長」「命の奇跡」を内包したハートウォーミングストーリー。
タイトルにもあるような、巨大な〝パズルのピース〟が浮遊する不思議だけど懐かしいような世界に、主人公女子が身を置いている(迷い込んでいる?)、イメージ

・サイズ:文庫版
・納期:ラフまで約2週間、納品まで約1ヶ月

主な読者ターゲットは、10代後半~20代の男女。
ピュアな心で自分らしい生き方や居場所を求め、「自分探し」を続ける若者たちへ、希望や共感を分かち合える小説を贈ります。

…とのことなので、既刊の装画を見たかんじでも、クリアなカラーリングやキラキラ光が舞うような演出がいいのかな〜と考えながらゲラを読み、ざっくりアイディアスケッチを描きます。

2:アイディアスケッチ/オンライン打ち合わせ(約1週間後)

zoomにて、アイディアスケッチを提出。
本編を読んで、「主人公と謎の少女よっちゃんが出会う夕暮れの河原」が印象的だったのでそれを基本に2パターン。
・河原(自然物だけでなく工事中の機材も見える)に佇む主人公を描いたもの
・主人公の顔(表情)を大きく見せるもの

君がくれた最後のピース_アイディアスケッチ

全面をパズルのピースで埋めて、ところどころ剥がれ落ちた先に青空の層があったりピースが舞っていたり…現実世界にもう一層「何か」が重なっているようなイメージ。
『この本を盗む者は』はファンタジーが現実を勢いよく喰らい尽くそうとするような物語でしたが、『君がくれた最後のピース』は現実世界を旅する中でなんだか不思議な出来事が起こる…という印象だったので、絵面もあまり奇抜にしすぎず穏やかなイメージ。
ファンタジー要素が一切ないわけではないのですが、「装画ではいかにもファンタジー小説!という雰囲気にはしないほうがいいのでは」という思いがありました。が

現実の風景に引きずられるのではなく、主人公の心象風景を描いてほしい

というご要望をいただきました。
そして「タイトルも長いのでこれくらい引きの構図がいいですかね〜」などと通話しながら、画面共有で描いていったのがこちら。

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・ゆらぐ水面の向こうに広がるパズル面
・浮遊するピースたち(物語に登場する人や場面が映っている?)
・俯瞰で、ピースに手を伸ばそうとしているような、眩しがっているような主人公(自分探しの家出中なので、暗くなりすぎない程度に惑いのある表情?)

スケッチというか構成要素のメモみたいな。
今回はこちらからアイディアを出して提案するというよりは、素直に先方のご要望に添う方向で定まりました。
通話をしながらだとリアクションが直に伝わるので「あ、こっちのほうが求められているんだな(先に出した案は見当違いだったな)」というのがよくわかり、おもしろかったです。

3:ラフ①(約10日)

君がくれた最後のピース_ラフ-web1

優しい青とピンク、夕焼けのオレンジ…で構成。
(女性の服は心象風景に馴染むようシンプルな白ワンピースなので、それが映えるようバックに色を入れるかんじ)
文庫サイズであんまりゴチャゴチャさせたくないので色数は少なめ、アンニュイな雰囲気と希望の光が共存するイメージ。
ピースにはまだ風景などは描き込んでいません。
波紋も本番はもっと派手に入れるつもり。

3:フィードバック/デザインラフ(約3日)

提出したラフを使用したデザインラフとともに、具体的な指示をいただきます。

基本的な構図はとてもいい感じ
心象風景らしく、ふわっとした優しさ・懐かしさが漂いながらも
愛と希望感があり、女の子もピュアな魅力にあふれていて素敵

・女の子の存在感をもう少し増してほしい

・もっと全体的に描き込んでほしい
 「混沌とした不可思議な心象風景」を表現するには、今のままではシンプルで物足りない感あり。

・大きめのピースは位置の微調整ができるようレイヤー分け

この時点では基本的な構図の確認としてあっさりめにしてあるというのもありますが、自分が思っていた以上に盛り盛りな絵面を求められているんだな〜と再認識しました。

4:ラフ②(約2日)

君がくれた最後のピース_ラフ-web2

・波紋を増やし、画面の右半分を青っぽく落とす。
(まだ全体の波紋の形が定まっていないので、ハイライトやパズル模様のゆらぎは仮置き)

・ピースに映るのは風景でなく人物をメインに。
自分でもいろいろ試してみたのですが、やはりこのサイズのピースに「風景」を描き込むとごちゃつくだけでうまくいきませんでした。
なので大きめのピース5つほどに人物(よっちゃん、兄、父と恋人…など)を描き、小さいピースを影っぽくしたりぼやかしたりして散りばめる方向で。
完成品にはピースの厚みや反射光っぽいものも入れるつもりです。

・主人公が背景から浮き上がるよう色味を調整
特に肌の色が背後の水面となじみ過ぎてしまうので、青い波紋をプラス。
本番はさらに影やハイライトを入れて浮き上がらせるつもり。
(全体のバランスを見ながら調節しますが、髪色が濃くなるだけでもけっこう変わりそう)

6:フィードバック/デザインラフ②(即日)

さらなるデザインラフもいただけました。

パズルのピースの盤面に描き込むだけでなく、
パズルのピース以外にも浮遊物(オブジェやモチーフ)を少しちりばめられないか
(クドく窮屈になってしまう?)

との打診があったので

パズルのピース以外のものをこれ以上盛り込むと、単にゴチャついてわけがわからなくなりそうです。
まずタイトルが長いので
浮遊するピースの表面に描かれた人物や風景が、背景にまぎれないようにすると自然とピースそのものが大きくなり
ピースが大きくなれば背景の波紋が隠れてしまうので、悩ましいです。
(水面にはよっちゃんとの河原のイメージだけでなく、
 三途の川や異世界・心の奥底のイメージもあるので隠れたらもったいないなと)
どちらかというと配色でアクセントをつけて調整をしたいです。

とご説明して、「とりあえず現状のラフをブラッシュアップし、全体のバランスを見ながら、もし他に何か盛り込めそうだったら試してみる」ということで落ち着きました。

見る側からしたら言葉だけで説明されてもわかりにくいよ…ってなりますよね。
今回のイラストは全体を少しずつ描き込みながらバランスを見て調整して…という進め方でないと崩壊しそうだったので、最初にバシッとわかりやすいラフをお出しできなかったのです。もっと早く描けるようにならねば…

5:納品(約3日/ご依頼から約3週間)

君がくれた最後のピース_webクレジット

全体をブラッシュアップし、雨と水滴を描き足しました。
タイトルに合わせてパズルのピースなど移動するかも…というのも踏まえると、新たに浮遊物を増やすのは悩ましかったのですが
水滴や光の粒子ならそんなに邪魔にはならないだろうということで。
青い水面の上にピンクの飛沫、ピンクの水面の上に青い飛沫が散ることで適度に華やかにできたんじゃないかと思います。

テクスチャや色調整、光の効果を入れる前はこんなかんじ↓

君がくれた最後のピース_webクレジット-過程

個人的にはこれくらいのアッサリぺったりな塗りも見やすくて嫌いじゃないです。
人物の目や髪にどれだけハイライトを入れるか〜もけっこう悩みました。描き込みすぎてもつぶれるだけなので。
右上のピースには「花輪ねぷた」、右下にはカフェオレを淹れたカップ
特にねぷたの方はこれじゃ何だか伝わらんやろな〜ここだけ描き込んでも浮くやろな〜と思いつつ…完成品は影に落としました。
これらが物語の中でどういう意味を持つのかは、どうぞ小説をお読みください。

6:完成

君がくれた最後のピース_書影webクレジット

ブックカバーでは四方がけっこうトリミングされています。
(最終的にどんな配置になるかわからなかったので、特に大きなピースは全体を描かねばだったので)
タイトルの文字も雨のように降ってくるような配置で、なるほどこうなったか〜と。実物は濁りのない綺麗な発色で、原画のデータよりあたたかみを感じました。

もともと毒っぽい絵を描くほうが多かったのでこういうお仕事をいただくと「私でいいのかな?」なんて思ったりもしちゃいますが
最近はこういうご依頼も増えてきました。ありがたいです。

お手にとっていただけると幸いです。



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