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ソフトバンクG節税スキームのポイント

最近になってSNSやネットニュースでソフトバンクグループが2018年3月期の連結決算で1兆円超の当期純利益を計上する一方で法人税等の納税がない。という状況を指摘する記事が見られています。


そもそも法人税の申告・納税の基礎となるのは個別(単体)の決算ですので、連結決算の利益と法人税の額を比較することはあまり意味がないことなのですが、ソフトバンクグループの個別決算を見ても2018年3月期で2000億円余りの当期純利益を計上していて、会計上の利益を計上しているけれども法人税等はないということは確かです。


事実関係や税務上の損失が生じたことの詳細についてはheukocpaさんのNOTE記事に詳しいです。


自分の読んだ限りではこちらのNOTE記事がおそらく現段階で一番正確な内容です。ネットニュースや日本経済新聞の記事には事実報道の間違いがありますので本気で検討したいときにはこちらのNOTEは必読です。


とはいえ読み込むのはなかな大変です。一方で新聞等記事ではなぜ税務上の損金が生じているのかも分からないので、「ざっくりしたポイント」だけ挙げます。


✓ 本件のポイントは受取配当金(益金不算入)と株式譲渡損の両建て

事の発端と言いますか、1兆円超の税務上の損失が生じたその損失のおおもとは、2016年にソフトバンクグループが英国の半導体製品の研究、開発企業であるARM Holdings plc(以下「ARM社」)を3.3兆円で買収したことにあります。なお、買収の方法は株式取得で、取得対価は現金です。

IR資料
「当社によるARM買収の提案に関するお知らせ」 
「ARM 買収(子会社化)の完了に関するお知らせ」

これによりソフトバンクグループの(個別)貸借対照表には3.3兆円の子会社株式が計上されることになりました。

ところで、ARM社はARM Holdingsとあるように持株会社で、事業会社の株式を保有していました。

詳細を省略して、ざっくりとまとめるとこの状況から

① ARM社がARM社の子会社である事業会社の株式をソフトバンクグループに配当(株式の現物配当)をした。
② ①の配当後、ソフトバンクグループはARM社株式をソフトバンクビジョンファンドに現物出資した。

という取引がされました。

①について
配当と言えば、通常は現金をイメージするものでしょうが、現金以外の財産を配当するということも、(各国の商事法によりますが)可能です。

この配当によって、ARM社の財産は減少します。一方で、ソフトバンクグループの財産はというと、ARM社の財産は減少するものの、一方で配当により事業会社の株式を受け取り直接の子会社となるため、実質的には変わりません。

税務上の処理は、収益ではあるけれども、所得計算上の収益には計上しない。とします。これは「受取配当金の益金不算入」と言われているものです(正確には、95%を益金不算入)。

益金不算入とするのは二重課税の排除や、事業体選択による課税の中立性を確保するための仕組みと説明されています。日本企業が海外で事業を展開する場合には、海外子会社を設立するか、支店を設置するかという選択がありますが、子会社形式でする場合に、子会社からの配当金に課税すると、支店形式よりも税務上不利になるのは不合理である。という理由ですね。

②について
ARM社は、配当により財産が大きく減少して、ARM社の株式の価値(時価)は下がりました。

ソフトバンクグループは、この下がった後のARM社の株式を、ソフトバンクビジョンファンドに出資して、その時価に基づき算定されるファンド持分を取得しました。

この現物出資について、税務上は、時価による譲渡があったものとみなして、帳簿価額と時価により取得した財産の差額を譲渡損益に計上します。

税務上は、本件の配当によって財産価値が減少しても帳簿価額は変更しませんので、現物出資によって税務上の損失が生じます。


以上を全体としてみると、ARM社→ソフトバンクグループへ、配当として株式という財産を移転した結果として、ソフトバンクグループの決算上

① 受取配当金(益金不算入) と
② 株式譲渡損

が同程度の金額発生しているが、税務計算上、①はノーカウント、②は損失としているので、バランスしない。という結果になります。

金額的影響は、冒頭のNOTE記事で試算されているところでは、

①が2.5兆円、②が2.4兆円程度とされています。


※ 税務上の取り扱いについては本件記事に関する資料や報道などから税務上の規定の適用関係(ないしは、納税者であるソフトバンクグループの適用関係に関する見解)を推測したもので、配当その他の取引についての一般的な課税関係の解説をしているものではありません。また、本件に関する税務上や会計上の評価や意見を含むものではありません。




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