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金利平価説と実際の外国為替相場


前回、「金利平価説(その内容)」として、先物為替レートは直物為替レートと2国間の金利差でレートが決まる。なぜなら、理論上のレートと異なるレートになっている場合には、金利裁定取引が働くから。という内容を紹介しました。


今回は前回に引き続き、実際の外国為替相場が金利平価説の理論のとおりに動いているのかを確かめてます。


■ 実際の外国為替相場の状況

結論から示すと実際の外国為替相場では、先物為替レートは、金利平価説による決まるとされている理論上のレートとは差異があります。

実際の外国為替相場の状況についての解説等をいくつか挙げてみます。

このような先物相場の決まり方を金利裁定取引といい、先物相場(スプレッド)は基本的には2国間通貨の金利差を反映して決まりますが、上記の例はあくまでも理論であり、実際にはその他の要因がスプレッドに影響を及ぼすこともあり得ます。(たとえば、米ドルの先安感が強まれば、先物で米ドルを売っておこうとする人が増え、ディスカウントは拡大します。)

JETRO『為替レートの決定方法』(https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010719.html)

近年のドル調達コストの増加は、学術的には「カバー付き金利平価」(Covered Interest Parity:CIP)からの乖離として解釈できるが、多くの国際金融のテキストにおいてCIPは成立していると説明される*2。それゆえ、その背後にあるメカニズムについて研究が進んでおり、2015年以降、BISなどの国際機関や中央銀行を中心に矢継ぎ早に論文がだされている*

財務総合政策研究所「ファイナンス」2,017年10月号『ドル調達コストの高まりとカバー付き金利平価』(https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2017_10.pdf

本稿は2015年を中心に観察されたドル/円スワップ・スプレッドの理論値からの乖離(ベーシス, またはジャパン・プレミアム)の要因として, ドル調達の構造的な不均衡と市場リスクに着目し分析を行った。アベノミクス下で量的・質的金融緩和が推し進められた同期には, 円からドルへの交換ニーズが平均的なスワップ取引の出来高や海外勢のドル供給余力に対して過大となり, 需給バランスがドル不足に偏り, 結果としてベーシスが拡大した可能性がある。またドル/円相場の円安方向へのボラティリティ上昇は円資金の担保価値を低下させベーシスの拡大を招きやすい。

(鈴木佳子2016)「2015年のジャパン・プレミアム::円投/ドル転スワップを利用したドル調達の構造的脆弱性に関する考察」(https://ci.nii.ac.jp/naid/130005268467/


2つめと3つめの引用論文では具体的な理論値からの乖離の表も見られます。つまり、金利平価説の理論値との乖離が生じている状況を踏まえて、それがどのような要因によって起こっているものかという研究がされている段階ということですね。

「2015年以降、BISなどの国際機関や中央銀行を中心に矢継ぎ早に論文がだされている」とありますが、2018年以降に限っても多くの研究論文(英文)が出ています。ここでそれらの総括を出せればよいのですが、数本のABSTRACT(要旨)を読んだだけでもさまざまな解釈が出ているようで、一筋縄ではいかないだろう。ということだけは分かったので、少しずつ読むことにして今まとめることは諦めます。


比較的長めの時系列での、金利平価説による理論値と実際の先物為替の乖離状況は以下のとおりです。2016年までの状況で、赤が米ドル/円、緑がユーロ/米ドルの、3か月先の先物(先渡)相場の理論値からの乖離です。

(日本銀行2018「Deviations from Covered Interest Rate Parity and the Dollar Funding of Global Banks」)

乖離が大きくなっている時期(グレーの部分)は、日本における金融危機(1997~1998)、世界金融危機(2007~2009)、欧州債務危機(2011~)と重なっていることが分かります。したがって、過去の大きな乖離は、リスクプレミアムと関係する可能性が高そうです。金利平価説は、信用リスクが存在しない仮定によっているため、銀行間市場や国レベルでの信用リスクが考慮されるべき場合は理論の修正(拡張)が必要になるからです。直近の乖離については先述の通りです。またよく見ると1999年から2006年のあたりは大きな乖離は無く、理論そのものが役に立たないというわけでもないのかも知れないですね。


次回は、直近の相場状況をチェックして、当初のきっかけであった、「世界的に債券の利回りが低下したのでマイナス金利の日本国債が多く買われるようになった。」という現象の検討に進みたいと思います。








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