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大海原でハゼが死ぬ

こんにちは。つれづれつづりシーズン2、恋愛観の最終回です。大海原に出たハゼが、あまりに異なる価値観に触れてボロボロになり、浅瀬に打ち上げられる話です。今となっては笑い話ですが、日本近海に出たつもりが、聞いたことのない熱帯の海に出てしまったかのようでした。


初めてお付き合いした方と別れたのち、二丁目で様々なキャラクターのお店に行ってみたり、どんなところか疑問だらけだった発展場(有料)に行ってみたり、当時は合法だったらしいものを経験したり、フリーセックスにチャレンジしてみたり、ゲイサークルに参加してみたりと、「この世界ならではのもの」への好奇心を満たすために、積極的に行動した。
けど、どれもつまらなかった。すべて、何らかの不足を一時的に満たす手段のように映り、自分に不足している部分とは、パズルのピースがどうも合わないような違和感があったからだ。自分に何が不足しているのか、きちんと理解しないまま暴走していたのだろう。やっぱりバカだのう。

そんなことをしているうちに、自然と他のゲイとの繋がりも増え、浅瀬出身のハゼが、クロマグロやバショウカジキと接する機会も増えていった。今思えば、露骨なヒエラルキーに満ちているこの世界、ハゼなのに、それなりに接してくれる人たちがいたのは、運が良かったのかもしれない。

余談だが、ゴーゴーボーイが何かを知ったのもこの頃。それまでの「ゴーゴー」の知識といえば、実家にあった畑正憲の本に載っていた、「ゴーゴー」を踊ったムツゴロウさんが、娘に「きちがいゴリラ」「毒薬を飲んだムツゴロウ」と酷評された、という文脈のみ。彼らに初めて会うにあたり、偏見は準備万端だった。
そして、実際に彼らにお会いしてみると、なんだ、もう、眩しくて目が潰れるかのよう。体型維持のためなのか、一緒にランチに行っても、セットでついてきた、デザートのアイスクリームは食べずに残す意識の高さ。だらしなく溶けていくアイスクリームを目にして、もらって食べようかと思ったくらいだ。だらしないのは俺か。
蛇足ですが、今年、健康診断で初めて脂肪肝って診断がつきました。やったね。

さて、そんな世界を泳いでいたら、なぜかクロマグロとお付き合いすることになった。見目麗しさには圧倒的な差があり、彼がなぜ自分を選んだのか本当に理解不能だった。どこか引っかかるものを感じつつも、申し出を受けたのだ。
そして、数週間も経たぬうちに、相手が期待していたものが異なっていたのか、自分にとっては衝撃的な発言が飛んでくるようになる。一番驚いたのは、
「お前が彼氏だと知られると困る」「自分の価値が下がるから」というもの。
誇示的恋愛の事例は知っていたが、まさか自分がその特定危険区域に入ってしまっていたとは。きっぱりお別れした。

やめておけばいいのに、その後に、バショウカジキともお付き合いする機会があった。というか、正直なところ、まさかそこまでモテる人だと当時は思っていなかった。「一般的には魅力的とされないが、ゲイのヒエラルキーでは上位の方」だったのだと、今ならちゃんと分かる。この時は、周囲が嘘か本当か分からないマイナス情報を伝えてくることが多く、結構ボロボロになった。結局は、ご本人も人の気持ちや身体に関してルーズだったのだが。長く続くはずもなかった。
このお二人とお付き合いした時に、一生分の嫉妬を受けたと思うので、もう大丈夫です。一体何が大丈夫なんだ。

大海原は、のんびりチャプチャプと波打つ浅瀬で育った自分にはとても泳ぎきれず、気がつくと再び浅瀬に打ち上げられていた。いま思えば、経験したのが大海原だったのかも怪しい。
そんな中で常に感じていたのは、自己像が誤解されがちだったこと。過去の傷から身勝手になってしまった相手を、一方的に癒し続けるほどの余裕はないのだ。この世界、傷を抱えた人の多さを感じているのは、俺だけではないだろう。

理想を言えば、人の心が荒れ果てていくこの世の中で、冷めることも自暴自棄になることもなく、一緒に心の温かさを守れるパートナーが居てくれたら、と思う。
そんな綺麗事を言ってるもんだから、今も連れがいないのか。へへへ。
そして「いなくても何とか生きてみようかな」とも、思ってしまうのだ。


パッとしない俺にいつも優しく接してくれたゴーゴーボーイの彼、
初対面の客にひどく絡まれた時に、ぴしゃりと相手を叱ってくれたママ、
発展場で「お前みたいなのが来るところじゃない」と言って俺を連れ出し、すずやでとんかつ茶漬けをご馳走してくれた、めっちゃ素敵なお兄さん(この方には、本当にまた会いたい。いま、どちらにいらっしゃいますか)。
バカだった自分を通りすがりに助けてくれた人たち、どうしてるだろうか。
俺も相変わらずですが、ぼちぼち、本当にぼちぼちやっています。

ありゃ、恋愛観の話でしたよね。だいぶズレましたが、ご容赦を。
いよいよ、世の中めちゃくちゃですね。大丈夫かな。

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