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ピーク

自分の人生のピークはいつだっただろうか。

振り返れば自分の人生のピークは中学3年ごろだったかもしれない。
かといって、モテていたわけではなく。
お金がたくさんあったわけではなく。

じゃぁ、何か。それは、希望。
これからの人生に対して希望があった。

田舎の小童が中学に入って猛者達に揉まれる。
負けたらいけない、負けたら怒られる。
その一心で歯を食いしばって頑張った。
中学3年生になる頃には部活のおかげか体も大きくなって
満員電車でも自分の場所を踏ん張れるようになっていた。
勉強は学年トップ!とはいかないが、前の方になっていた。

頑張ればなんとかなった、もうおいてけぼりにはならない。
その数年の頑張りは経験として自信にもなったし、希望が見えた。
中高一貫だったので高校受験がなかったのも
この中学3年生という時期を輝かしいものにした。

鎌倉の山奥のテニスコートで球を追いかけ、
ランニングは山か海を走る。
由比ヶ浜の花火大会には友達と友達の友達の女子校の子たちとでかける。
そこでドリカムの話がきっかけで彼女というものもできる。

こうやって生きていけば大人になっても
きっと楽しいことが待っている。
そう信じながら生きていた。

高校に入って一緒に花火大会に行く彼女は変わったけれど
目の前にある勉強と部活を日々こなすことで
充実した生活を送っていた。
だってこのまま頑張って大学に入れば、
きっと楽しい人生が続いていくんだ。

振り返れば、
そう思いたくて自分に暗示をかけていた
だけだったのかも知れない。

高校2年くらいから希望に陰りがではじめる。

ひとつ上の仲のいい先輩が夏に部活を引退した。
自分が一番上の学年になってさらに充実していく
…はずだった。でも違った。

それなりに充実はしていた。
部活はレギュラーだったし、
学校の成績はそこそこだったし、
受験勉強も高2の段階ではちゃんとやっていた。

でも、なにか物足りなかった。
それに気づいたのは部活の新体制がはじまって
しばらくして慣れた秋頃だった。

仲の良かったひとつ上の先輩が体を動かしたいと部活に出た。
夏のはじめに引退をして予備校の夏期講習に出た先輩は
真っ黒に焼けた自分たちと比べると明らかに白かった。
そんな先輩を見て
自分も来年はこうなるのか今年中にやれることをやろう。
と決意をしながら、また、こう思った。

先輩と一緒に部活できてうれしい。
次はいつ来てくれるんだろう。
普通のことだけど、自分にはそれは普通じゃなかった。

先輩に対する恋だった。

本当は気づいていたんだと思う。
けど押し殺していたんだとも思う。
そこからその感情は溢れ出して止まらなくなった。

否定をする。
男が男を好きだなんて普通じゃない。
ホモだ。保毛尾田保毛男だ。オカマかな。
いやオカマじゃない。女言葉は使わない。
男だ。彼女だっている。

頭で普通を考えても普通じゃない方が止まらない。
会いたい。話したい。
夏前までのように駅まで一緒に帰りたい。
先輩の好きなCDをもっと借りたい。
ふざけたふりして肩を組みたい。

止めようとすればするほど止まらなかった。
明らかに
今まで付き合っていた彼女に対する気持ち
とは違っていたし、
それが偽りだったということも確信した。

とは言え、その思いは先輩に伝えることはできるわけもなく。
学年が違えば教室も違う。
いつ部活に来るかわからない。
だったら朝学校に行く時に
偶然を装って会おうと頑張った。
当然、毎日会えるわけもない。
それがまた自分に燃料を加えた。

その気持ちが燃えれば燃えるほど、
自分の罪悪感も燃えあがる。
人を好きになる感情のあの高ぶりと、
それをおさえようという気持ちが交互に、
いや、同時に起こる。

結局その先輩への思いを告げることもなく、
先輩は卒業してしまう。
第二ボタンでももらっておけばよかった。

そして、気づいてしまった。
もしかして自分はこういうことが続いていくんじゃないか?
結婚できないのではないか?
普通の人生を生きることができないんじゃないか?

とりあえず目の前のことをこなせば問題なかったのに。
このまま頑張ればきっと楽しいことが起こるはずだったのに。

漠然と持っていた希望は、薄ぼんやりし始めた。

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