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【画廊探訪 No.019】着物の襟を少し緩めて――Ciel.w 作品によせて―――

着物の襟を少し緩めて
―――Drado Gallery 企画 Art Essence Exhibition Ciel.w 出展作品によせて――――
襾漫敏彦
 人が成熟する過程には、節目ともなるべきいろいろなこともある。まっすぐに進んだ人生を、一度たち止まり、辺りを見まわす折もあろう。

 しえる氏も、おのずと振り返らねばならぬ機会があったようである。元来、彼女は、オイルパステルを置き重ねて塗り、画布の上に基体をつくる。それを削ることで、色の断層を持つ線で表現を加える。そして、その上に煌めきの粒子を振り掛けていく。その仕草は、砂を重ねる砂絵のようでもあり、重ねた漆を削る堆朱の如くでもある。煌めきは、襖に散らされた銀や金の箔か。そうして組みあげられた作品は、見方をかえれば、多層構造の基板の上に回路を印刷しパーツを配置する電子機器の集積回路に比すこともできよう。また、様々な意匠を集めて飾りあげる花魁を思ってもいいだろう。

 しかし、ある時、彼女は握力を失い、これまでの技法が続けらない時期があった。偶然にも、彼女は水彩と出会う。色は、水に潜(ひそ)んで、紙の中に浸み込み、広がっていく。そこには集める力でなく解(ほど)ける技法があった。

 彼女は花や原初生命体の如きものを描く。それは、意図や目的をもたずに、そこに存在(ある)だけのものである。感情の小舟の浮かぶ無意識の湖(うみ)ともいえるものに通じるのでもあろう。

 練りあげた化粧を小指の爪で傷つけた花魁が、今、湯からあがり薄化粧して夜風にあたっている。二つの姿の間で求めたものは何か、覗いてみたいものである。

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