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ほんのしょうかい:和合亮一『詩の礫(つぶて)』〈『思想の科学研究会 年報 Ars Longa Vita Brevis』より〉

和合亮一『詩の礫つぶて』(徳間書店)

二〇一一年三月、福島で被災した詩人·和合亮一は、両親や職場があることから福島に残ることを決意する。放射能の恐怖。食料·水·ガソリンは手に入る見込みがなく、気力が失われたときに詩を書く欲望だけが浮かんだという。彼は「死と滅亡が傍らにある時を、言葉に残したい」とツイッターに投稿し続けた。「放射能が降っています。静かな夜です。」「父と母に避難を申し出ましたが、故郷を離れたくないといいました。お前たちだけで行けと言います。私は両親を選びます。」「どんな理由があって命は生まれ、死にゆくのか。何の権利があって、誕生と死滅はあるのか。破壊と再生はもたらされるのか。」「私は震災の福島を言葉で埋め尽くしてやる。コンドハ負ケネエゾ。」「明けない夜はない。」

詩と呼ぶにはあまりにも短いツイッターの文字たち。しかし怒涛のように噴き出してくる言葉の迫力に、読む者は曳き込まれ圧倒される。そして一歩を踏み出そうと感情が伝染する。 時に怒り、時におびえ、哀しみ、絶望しながらも書き続けるということ。絶望の中で、人間らしさを失わない営みには、ただただ敬意を示したい。(橘正博)






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