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『セクシー田中さん』ドラマ脚本に思う、原作者第一主義を今一度徹底すべきということ


記事作成において

作品(漫画・ドラマ)概要

『セクシー田中さん』という作品をご存じだろうか。
昼は派遣のOL、夜はベリーダンサーの顔を持つ主人公『田中さん』と、その周囲の人物を描く、芦原妃名子氏による漫画(出版:小学館)である。

この作品、日テレ系にて2023年10~12月に連続ドラマが放送された。
ドラマは全10話放送されたのだが、脚本担当が8話まではシナリオライターが、9~10話は原作者が携わっている。

記事について

記事において、芦原氏のX投稿から参照している。
これを絶対ベースとして記事を作成しているため、日テレ及び制作陣より『事実に反している』という発表と裏付けが無い限りは、今回の原作者の発信を正とする。
正確にはご本人のXないしブログをご参照いただきたい。

また、本記事を書くにあたり、当方は原作の漫画は読了済、ドラマは未視聴であることを予めお伝えしておく。
面白い漫画なので、読んだことが無い方は、是非読んでいただきたい。
本来ならば、ドラマも全話視聴した上で書くのがベストではあると考えるが、『原作者にリスペクトが無いドラマ』という時点で観たいという気持ちが消え失せたので、何卒ご容赦いただきたい。

芦原氏のブログ、Xへの投稿内容まとめ

前提

今回、話題となったきっかけは原作者・芦原氏からの発信である。
記載の通り、ドラマの脚本担当は8話まではシナリオライターが、9~10話は原作者が携わっている。
これに至った経緯や事情について発信されている。
また原作者と小学館で事実関係、文章内容を確認した上で投稿されているとのこと。

※1 ドラマ放送終了まで、芦原氏と脚本家は会ったことが無かった。
※2 製作スタッフ陣(監督、演出など)とドラマ内容について直接話す機会は無かった。

①ドラマ化に至るまでの経緯

ドラマ化における条件として、芦原氏より小学館を通してドラマ制作陣に下記を伝えた。

ドラマ化は『必ず漫画に忠実に』行うこと。
→忠実でない場合は、加筆修正をさせてもらう。

・漫画が完結していないため、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、漫画に影響を及ぼさないよう、原作者があらすじからセリフまで用意する。

原作者が用意したものは原則変更しないでほしい。
→ドラマオリジナルについては、原作者が用意したものを、そのまま脚本にできる方を想定する必要がある。
場合によっては、原作者が脚本を執筆する可能性もある。

これら上記条件を何度も確認した上で、ドラマ化がスタートした。

②前提条件と異なる脚本

ところが毎回、漫画を大きく改編したプロットや脚本を提出してきた。

具体的には
・漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に変えられてしまう。
・個性の強い各キャラクターを別人のようなキャラクターに変更される。
・作品の核となるシーンが大幅にカット、削除され、まともに描かれていない。
→その理由を伺っても、納得のいくお返事はいただけない、とのこと。

・他多数

 これを受け、原作者は
・枠にハマったキャラクターに変えないでほしい。
・作品の個性を消されてしまうなら、ドラマ化を今からでもやめたい
と何度も訴えた。
どうして変更したくないのかということも説明し、脚本も加筆修正した。
結果、どうにかほぼ原作通りの1〜7話の脚本の完成にこぎつけた。

ドラマ化の前提条件がどのように制作陣に伝わっているのかという疑問を常に抱えた状態での加筆修正の繰り返しとなり、原作者は相当疲弊していた。

③ドラマオリジナル展開(8~10話)の脚本について

8~10話はドラマオリジナル展開であった。
前提条件の通り、原作者があらすじからセリフまで用意する脚本である。

しかしここでも条件は守られておらず、原作者が準備したものを大幅に改変した脚本が8〜10話まとめて提出された。
特に9・10話の改変された脚本はベリーダンスの表現も間違いが多く、ベリーダンスの監修の方とも連携が取れていないことが手に取るように分かるレベルのものであった。

これを受け
・当初の約束通り、とにかく一度原作者が用意したあらすじ、セリフをそのまま脚本に落としてほしい。
・足りない箇所、変更箇所、意見はもちろん伺うので、脚本として改変された形ではなく、別途相談してほしい。
といったことを、小学館から日テレへ申し入れをした。


その後も、大幅な改編がされたプロットや脚本が提出され、小学館が日テレへ差し戻すことが数回あったとのこと。

この状況が変わらぬまま約4週間が経過した。

8〜10話は全脚本を確認した上で、オリジナル部分全体で加筆修正をしたかったが、ドラマ制作のリミットも迫っていたため、8話だけ何とか改変前の内容に修正し日テレへ渡すこととなった。

9、10話については、前提条件の通り『原作者が用意したものを、そのまま脚本にできる方』に交代してほしいと小学館を通じて申し入れをした。

結果として、日テレより下記回答あり。
・8話までの脚本を執筆した人は9話、10話の脚本には関わらない。
・9、10話の脚本は、プロデューサーの要望を取り入れつつ、原作者が書き、脚本として成立するよう日テレと専門家で内容を整える。

ということとなった。

本問題における所感

①ドラマ化『させていただいている』という立場だろう

まず本作品のドラマ化は、原作者が強く『ドラマ化したい!』と言って始まった話ではなく『ドラマ化させていただけませんか』という話であるということだ。
であるならば、原作者及び原作をリスペクトした作品にするのは当然のことであり、原作者がダメと言ったらダメなのだ。
ドラマ化前に条件を設定しており、それらを承知の上で作成しているのだから、制作陣に周知させることと、最後まで守り抜くべきであろう。
さすがに口頭ベースではなく書面で取り交わしていると思うが。
(口頭ベースなら小学館の脇が甘すぎるため)

一度や二度の不履行(一度もダメだが)ではなく、何度も繰り返すことで原作者や小学館にいらぬ負担をかけるなどもってのほかである。

②アンタら『城塚翡翠』でも同じようなことやらんかった?

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』という作品をご存じだろうか。
相沢沙呼氏の小説である。
こちら日テレでドラマ化しており、『霊媒探偵・城塚翡翠』というタイトルで2022年10月~、全5話放送された。

詳しくは相沢氏のXをご確認いただきたいのだが…

まとめると
・ドラマ化にあたり、脚本において揉めた。
→当初より相沢氏はドラマ化に否定的だったが、テレビ局(日テレ)と出版社(講談社)が強引に進めた。
※そもそも原作リスペクトがあれば揉めることなど本来無い気がするが…


・それに対し、週刊誌がロクな取材も裏付けもなく、まるで相沢氏が悪いかのように書き立てた。

・しかし、日テレも出版社もそのような記事にはダンマリ。
→相沢氏はこの対応に酷くガッカリし『テレビとの仕事は絶対にしない方がいい』とまで言わしめている。

ドラマ放送終了から約4ヶ月後、講談社はこのような声明を発表した。

週刊誌の大半の記事がゴミクズなことは、もう言わずもがなだが。

日テレは学べよ、マジで。
1年しか経ってねぇんだぞ。
取り扱う作品が変わったり、制作陣が変わったりすればリセットされるとでもお思いかもしれないが、徹底させるのは日テレの責任である。

③映像化が原作に及ぼす影響を考えるべき

本作品に限らず『原作は読んでいないけどドラマ・アニメなど映像化されたら観る』というスタンスの人は非常に多い。
(私は原作至上主義者なのでそもそもこのスタンスが好きではないが…)

今回の『セクシー田中さん』に関して、当初の脚本通りドラマが放送されていたらどうなっていただろうか。
ドラマしか観ていない人は『セクシー田中さん』という名の全然違うものを『セクシー田中さん』だと捉えるだろう。
漫画を読んでから観た人は『全然違うじゃん』と思うことだろう。

手軽な媒体だからこそ、そういった危険性を孕んでいることを自覚して作るべきである。

④原作者に配慮できない局だと思われることは今後におけるデメリットである

日テレの過失のため、別に彼らが不利益を被ろうとどうでもいいし、知ったこっちゃないのだが。
こうも立て続けに、大切にされている作品を蔑ろにしているようでは、今後のドラマ化に差し支えが出る気がするのだが…
悪評により作品化するのが難しくなる、原作者に配慮が欠けている局が作るようなドラマは観たくない…とか。
再放送も難しいかもね。

フジテレビも海猿で揉めてたので、日テレが悪いというより業界全体の配慮が足りないんじゃないかな、という気もするが。

余談 脚本家のInstagram投稿について

ドラマ放送終了後、脚本家(正確には8話までの脚本家)の相沢友子氏のInstagramが下記のように投稿されている。

12/24 投稿
12/28 投稿

言わずもがな、絶賛炎上中である。

相沢友子氏にどのように伝わっていたかわからないうちに炎上させるのもどうかとは思うが。
単純にプロデューサーなどから雑に説明されただけの可能性もあるので。

一番恐ろしいのは、相沢氏には『原作者がうるさいからごめんね~』等言われていた時であるが…
そうであればとんでもなく燃えるだろうな…続報を待ちたい。

まとめ

『実写化は大抵失敗する』と言われる原因

繰り返しになるが。
今回の『セクシー田中さん』のドラマ化のケースは、原作者が『こういう条件のもとなら作っていいよ』と言われているので、それ以上もそれ以下も無いのだ。
(寧ろかなり協力的かつ心が広すぎる原作者といえる)
それが実行できないのであれば、ドラマ化するべきでは無かったのだ。
契約を結んだら何が何でも守るのが社会人だ。
それを平気で破るような無責任な奴に仕事をする権利は無い。

そもそも別媒体で表現しようとすること自体が無理筋ではあるが、原作者のスタンスがどうであれ、いずれにしても最大限のリスペクトは必要である。

こういったリスペクトが欠けていなければ、少なくとも原作と別媒体の評価が大きく異なるということは起こりえないのである。
原作『も』つまらないじゃん、と思わせては絶対にいけないのである。

銀魂、るろうに剣心のように、実写化が高評価を受けることもまれにあるが、観るとわかるが『原作の理解度とリスペクトが半端ない』のだ。

余談だが、今冬注目したい実写化作品を紹介しよう。
先日、実写化キャストが発表された『推しの子』だ。
本作品内で批判もされている『実写化』という行為自体をまさにアンタらがやるわけだが、そこをどう料理するのか非常に楽しみである。
(面白いとか面白くないとかはもう期待していない)

芦原氏への最大の賛辞を

映像化されることで『面白かったから原作も読んでみよう』となるのが一番良い影響だが、皮肉にも今回は『息のかかっていない原作を読んでみよう』という理由で原作を読む人が増える気がする。

しかし、芦原氏は本当にお疲れ様でした…
ドラマ化して原作者の手を煩わせ、心にダメージを受けるなど本末転倒もいいところである。
原作者が切り込んで発信してくれることには感謝しかない。

是非、皆様もこの機会に『原作』を読んでみてください。

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