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abcの「櫻坂46」はなぜ良問なのか?

 3月19日、日本のクイズ大会としては最大規模を誇る「abc the21st」が開催された。abcは大学生以下を対象に、早押しクイズの頂点を決めるクイズ大会だ。年々参加者も増えており、今年は800人以上のクイズプレイヤーが会場に集まった。昨今のクイズブームは著しい。とはいえ、参加者800人全員が早押しクイズをできるわけではない。予選の筆記クイズの上位48人のみが早押しクイズをする権利を与えられるのだ。800人に対して、48人とは随分狭い枠である。ただ、この48枠に入るために多くの参加者が日々、研鑽を積んでいる。

1.クイズの条件

 私が今回話したいのは、予選の筆記クイズで出題された問題についてである。クイズを作ることは簡単なようでいて、非常に難しい。私が考えるクイズとして成り立つための基本的な条件は以下の通りだ。

  • 問題文の情報は正しいか

  • 文法的な誤りはないか

  • 解答が一意に定まるか(あるいは、別解を考慮しているか)

 意外と上記の条件を全て満たすことは難しい。問題を作ることに慣れている人も、不十分な問題を作ってしまうことがある。一回の企画や大会でこれを満たさない問題をゼロにするということはなかなか容易ではない。とはいえ、abcという大会は100名以上の社会人によって運営されている。そのため、多くの社会人の目を通った上での問題が出題されており、クイズとして成り立つための基本的な条件を全ての問題が揃えていると言っても過言はないだろう。

2.「櫻坂46」を検証する

 タイトルに戻って、私が良問と考える「櫻坂46」の問題について見てみる。

Q.2期生の守屋麗奈(もりや•れな)、山﨑天(やまさき•てん)、田村保乃(たむら•ほの)、森田ひかるが歴代表題曲のセンターをつとめたアイドルグループは何でしょう?
A.櫻坂46

abc the21st

 一見すると、単にアイドルグループのメンバーを列挙した平凡な問題に思える。しかし、筆記クイズとしてこの問題はこの上なく優れていると私は評したい。

 クイズとしての基本的な条件を考えると、「問題文の情報は正しいか」と「文法的な誤りはないか」の2条件は容易にクリアしている。次に、3番目の条件「解答が一意に定まるか(あるいは、別解を考慮しているか)」を見てみると、これがなかなか面白い。実は、この問題を以下のように変えると別解が増える。

Q.2期生の守屋麗奈(もりや•れな)、山﨑天(やまさき•てん)、田村保乃(たむら•ほの)、森田ひかるが所属するアイドルグループは何でしょう?

abc the21st 改題

 改題した問題では「欅坂46」を解答に加えることができる。櫻坂46に改名する以前の欅坂46時代に、問題文中の4人のメンバーは所属しているため、不正解と判断することができなくなるのだ。おそらく作問者は、「櫻坂46」のみを正解と扱いたかったのであろう。そこで、問題に付け加えられた要素が「歴代表題曲のセンターをつとめた」である。実は、この要素によって、「欅坂46」という解答を除外することに成功している。

欅坂46:表題曲のセンターは全て平手友梨奈
櫻坂46:表題曲のセンターは森田ひかる(1st,2nd)、田村保乃(3rd)、山﨑天(4th)、守屋麗奈(5th)

 このように、「歴代表題曲のセンターをつとめた」という要素によって、「欅坂46」は誤答と扱うことができるのだ。これは、解答の一意性や別解を考慮する上で、模範とするべき問題ではないだろうか。

3.なぜ「櫻坂46」は良問なのか

 私は、何もこれだけで「櫻坂46」を良問と評しているわけではない。3条件を満たした問題はabc当日に何問でもあるわけだ。それらは、全て基礎点を満たした問題と言ってもいいであろう。その中でも、「櫻坂46」が優れていると考える理由は、出来栄え点がそこにプラスされるからである。クイズの出来栄え点は人によって左右される項目であると思われるため、ここではあくまで、私の出来栄え点の基準(≒良問の基準)を提示する。

  • 新しい学びや気づきがあるか

  • 問題の情報を知らなくても、推測の余地があるか

  • 有識者がそれなりに納得する問題か

  • 題材を(時と場に応じて)適当に切り取っているか

  • 問題文と出題方法がマッチしているか

 ※上記に提示した条件を、全て満たす必要はない。問題によっては、同時に満たせない事例も存在し得る。

 私は「櫻坂46」という問題は上記の5条件のうち、4条件を満たしていると考える。それを今から詳しく説明する。

 2番目の条件「問題の情報を知らなくても、推測の余地があるか」については、「この問題のどこが推測できるねん!」と思った方もいるかもしれない。実は、abcというクイズ大会と日本のアイドルに少し詳しければ妥当性のある推測は可能なのだ。そもそも、abcというクイズ大会は「基本問題実力No.1決定戦」を掲げている。そのため、全員が納得するような問題群によって48人の予選通過者を決定する必要がある。さらに、計100問の筆記クイズには難易度傾斜があり、問題番号が大きくなるにつれ、問題が難しくなる傾向がある。当該の問題番号が40番であることを加味すると、女性アイドルグループの48グループ、あるいは、坂道グループについて問われているということが推測できるのではないだろうか。また、現在のトレンドという点を加味すると、坂道グループのどれか、ということまで推測できる。ここからどのようにして櫻坂46という解答に至るか。無難な案は消去法であろう。

  • 乃木坂46…1・2期生卒業、10年以上あるグループの歴史、5期生が加入

  • 日向坂46…W杯で話題になった影山優佳や冠番組を持つ齊藤京子が所属、4期生が加入

  • (4/15追記)日向坂46に関しては、1stシングルから4thシングルまで2期生の小坂菜緒が表題曲のセンターを務めている(そこそこクイズで見かける切り口)。

以上のような最低限の坂道グループに関する知識があれば、「乃木坂46や日向坂46が解答なら、こういう問題にはならないのでは…?」というメタ読みが可能になる。作問者の思考を読むような方法であるが、実際、このような解き方で正解している参加者もいた。

 3番目の条件「有識者がそれなりに納得する問題か」については、この問題でいうと、櫻坂46のファンが「この切り口、いいね」と思うかどうかである。私は、解いている時にこの切り口にかなりに妥当性があると感じた。櫻坂46は改名後、渡邉理佐や菅井友香といった1期生の主要メンバーが卒業しており、改名以降、2期生をグループの中心的存在として立てているような印象を受ける。そのため、2期生に焦点を当てたこの問題は妥当であると考える。

 4番目の条件「題材を(時と場に応じて)適当に切り取っているか」については、abcというクイズ大会のコンセプトを考える必要がある。ここで少し視点を変えて、この問題のクイズプレイヤーの中での正解率を高める方法を考えてみる。それは以下である。

Q.2期生の松田里奈がキャプテンをつとめるアイドルグループは何でしょう?

abc the21st 改題

 元の問題より情報が減ったと思う方もいるかもしれない。実は、これの方が正解率が高くなると私は考えている。元の問題の4人より、松田里奈の方がクイズ大会などで出題される頻度が高いからである。キャプテンという肩書きに出題価値を見出している作問者が多いということである。しかし、abcは「日常生活に根差した知識や、学校・職場で学べることをもとに正解できるような」問題を出題することをコンセプトに掲げている。そもそも、クイズの問題集で櫻坂46の存在を知ったという人より、テレビ番組で存在を知ったという人の方が多いのではないだろうか(そうであってほしい)。そのため、キャプテンという肩書きに頼る出題ではなく、比較的露出の多い櫻坂46のセンター経験者を列挙することは理に適っている(松田里奈もそこそこ露出は多いが)。守屋麗奈と田村保乃に至っては、全国民が視聴するべき『ラヴィット!』スタッフのお気に入りメンバーである。何回も視聴したことがある人なら流石に認知するであろう。そして、守屋麗奈と田村保乃はとてもかわいい。単にクイズの問題集だけを覚えることをよしとしない意思が見えた問題だ。

 5番目の条件「問題文と出題方法がマッチしているか」については、この問題を早押しで出題することを考えてみよう。確かに、早押しでも「2期生の守屋麗奈…」といったポイントで押されて正解が出る可能性はある。しかし、そうまでして「櫻坂46」を早押しで出題する意図が分からない。私個人の考えではあるが、早押しで20名以上のアイドルグループの一部のメンバーを列挙することにそれほど意味があるとは思えないのだ。そのため、大所帯アイドルグループの所属先を聞くには、筆記クイズが適しているのではないだろうか。

4.おわりに

 以上の議論から、私は「櫻坂46」を良問と判断した。今回のabcにはそれ以外にも多くの良問があり、それを全て語ろうとするとここでは足りなくなる。ただ、この問題だけはどうしても伝えたかった。

 実は私がこの記事を書いたのにはもう1つ理由がある。それは、「作問のノウハウがクイズ界であまり共有されていないのでは?」ということだ。得点表示のノウハウは現在、じわじわと広がりを見せている。しかし、作問に関してはなかなか共有が進んでいない。おそらく、作問のノウハウをまとめることが思ったより難しいから、であろう。私も正直、どのような形でまとめるべきか検討がついていない。そのため、私はこの記事を作問ノウハウのプロトタイプにしようと考えた。私はこの記事を下敷きにして、クイズを始めた人でも苦労せずに問題を作れるような、分かりやすい文章を書くことを決意した。そのうち、BOOTHとかで無料公開したいと思っている。また、何か聞きたいことがあれば書くかもしれない。

※サムネはTwitterのabc/EQIDEN公式アカウントから拝借しました。

#クイズ #競技クイズ #abcEQIDEN

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