きもちわるいから君がすき論考〜"きもちわるい"をアップデートする偉業にして異形の百合漫画〜

はじめに

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そもそも『きもちわるいから君がすき』って

……でも、『きもちわるいから君がすき』というタイトルでふつう想像するのって、まんがタイムきららの初期メンバー4人組ないし5人組にひとりはいるような、いわゆる愛の重い子というか、テンプレートに則ったストーカー"キャラ"が出てくるんだろうなって感じだと思います。
つまりソフトヤンデレですね。二次創作ではよく見られるあれです。
別にそれはいいんです。
テンプレートに則ったストーカーキャラ、ソフトヤンデレ、大いに結構。自分は好きです(気軽に包丁出すようなのは絶許ですが)。むしろテンプレートがテンプレートでありアップデートされないのはそれが優れている証左でもあるわけです。若干飽和してきた感がありますが、それでも出てきたらうれしいものです。
そんな感じで『きもちわるいから君がすき』一話は始まり、我々もその見慣れた作風に安心と安全を感じながら読めるわけです。その安全はすぐ砕け散るわけですが。
(以下公式ツイッターより第一話)

きもちわるさのアップデート

『きもすき』の優れた点は、このようにソフトヤンデレなメインヒロイン(アッパー系で可愛い。自分はこういうのも大好きです。彼女のキャラクター造形も工夫がないとは思ってません)の飾磨司と対比するように、本当の"きもちわるさ"を持った御影依子を主人公にしたことにあります。
一話はいわば底値(?)で、そこから御影依子はどんどんきもちわるくなっていきます

御影依子の奇行(ネタバレ・一部抜粋)
・司の作った雪だるまを持ち帰り冷凍庫に永久保存する
・スマートホームに勝手に録音した声を登録して最強の機械を作り上げる
・靴下やマフラーを新品と交換して手に入れる

これらが手段含めて(手段を描かないことでソフトヤンデレは気軽に見れるものになってると思います)克明かつリアルに描写されるので、だいぶきもちわるいです。そしてこれさえも序の口で、毎回自己ベストを更新していくのが御影依子の凄みと言えるでしょう。

精神的なきもちわるさ

ですが、これさえも御影依子の真骨頂ではありません。きもちわるいですが、アップデートと呼ぶにはまだ足りないです。
物質的なきもちわるさはすでに先人がいくらでも手を付けているのですから。
御影依子最大のきもちわるさは、精神面にこそあります。思想や文脈が行為にきもちわるさのバフをかけるのです。
それはもう実際に読んでもらって確かめてもらうしかないのですが、毎話ごとに『その手があったか!』、『うわきもちわるっ』となること請け合い、きもちわるさの連続です。
御影依子が飾磨司に惚れた理由ひとつとっても、質感の伴ったきもちわるさが読者を襲います。
公式が言うには"クソデカ感情百合漫画"だそうですが(これも間違ってはないですが)、それ以上にきもちわるい百合漫画と言うべきでしょう。
御影依子の感情には等身大の嫌な質感があってフィクションくさい感じがなく、そこにクソデカ感情という表記は不似合いな気がします。

終わりに

私がこの作品をとにかく推しているのは、テンプレートに逃げず、タイトルに違えないきもちわるいキャラクター造形をとにかく全力でやっているからです。
自分は御影依子の在り方を本気で発明だと思っていて、(一応)百合小説を書いている身の上としては今までこの境地に達することの出来なかった自分の不明を恥じるとともに、西畑けい先生の凄まじさを改めて感じるのでした。

まあそれはそれとして
きもちわるいから君がすき 
買ってください 面白いので


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