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Buzz Feed News Japanの入江杏さんのインタビューを読んで

「母は礼君が障害を持って生まれたことも、犯罪被害者遺族になったことも『恥』と受け止めていました。私はその恥の意味を、自分の中の内なるスティグマなのだと理解したんです」

未解決殺人事件の被害者遺族として「悲しみを生きる力に」と発信され続けている入江 杏さんの存在は、私の心の救いです。

私も未解決殺人事件の被害者親族で、発達障害の息子がいます。なので、他の人たちよりもより具体的に、入江さんの心の痛みや苦しみに共感することができるかもしれない。

けど、当たり前のことだけども、ただ似たような経験をしただけでは、入江さんみたいに思考を整理して発信することはできないです。

そして、入江さんのお母様のように、誰かに大切な人を害された経験後、残りの人生を「被害者」という立場に沈みながら生きるのは、誰にも責められないこと。

「ありえないこと」「最もあって欲しくないこと」が起こった後に、自分の中の世界の秩序がすべて崩壊してしまい、どうやってこれからの自分の人生を紡いでいったらいいか全然分からなくなってしまうこと、本当にある。切実な感覚がそこにはあります。

でも、入江さんは被害者遺族という当事者でありつつ、その立場にとどまることなく、自分が置かれている社会の構造にまで目を向け思考、発信されていく。現在、自らのご経験を全国で講演されたり、上智大学のグリーフケア研究所の非常勤講師をされたりもしています。

インタビューを読むと、この社会に存在する社会通念や偏見を客観的に眺めること、自らのうちにある固定観念や欺瞞とも臆さず対峙すること、そして自らの感情を尊重しながらも同時に冷徹な目で自他を見ていくことが、いかに自らを前進させ、他の人たちをも救うかが分かります。

もちろん、その裏にどれほどの悲しみ、苦しみ、葛藤があったかも見えてくる、見る必要があるインタビューです。

入江さんが、当事者の誰もができることではない、でも、この社会の誰にとっても救いとなる、非常に意義の深い活動をされているということを心に留めていてほしいです。私も当事者だからこそ、本当にすごいことをされているなと思う。

入江さんは、困難の当事者としてメッセンジャーになることを避ける風潮のある社会で、立ち上がろうとする意志、想いをまとめ上げる力、そして人と社会に対する愛がないとできない活動をされている。入江さんの発するメッセージは、時間をかけて、少しずつ社会に染み入りつつある。

こういうのをまさに(2019年の東大の祝辞で話題になった)メタ知識と言うのだと思います。もちろん、思考力だけでなく、強い意志としなやかさも必要となること。本当に尊敬します。


入江さんは、毎年年末に「ミシュカの森」というイベントを主催されています。様々な分野のゲストを招かれ、悲しみと回復への過程について多様な角度からの考察を共有されています。

スティグマを忌避するのでなく、向き合い考える姿勢に共感された方は、こちらもぜひ見てみてくださいな。

ミシュカの森のゲストの顔ぶれを見ても分かるように、ただの「お涙ちょうだい」の会では全然ないのです。悲しみを通して真剣に社会を見つめるまなざし、社会のグリーフへの受け止め方を再構築していこうと試みる姿勢を感じていただけるかと思います。

また、入江さんは本と絵本を執筆されています。

何というか…「未解決殺人事件」というとおどろおどろしい感じもあるし、そういうセンセーショナルな謎めいた事件が好きな無関係の第三者の方たちにはたまらないテーマなんだろうな、と思いますが。

そういうのがお好きな方たちも、人生において何らかの喪失の悲しみを体験されている方が大半だと思います。

そのような、人生の喪失の悲しみについての普遍的なことが書かれている本がこちらです。
「悲しみを生きる力にー被害者遺族からあなたへ」:ただの手記ではなく、喪失の悲しみの心のメカニズム、被害者を取り巻く社会の構造にもしっかりと言及された読み応えのある本です。

「ずっとつながってるよーこぐまのミシュカのおはなし」:喪失の悲しみを感じた心に共鳴し、慰めてくれる優しい絵本です。

当事者としてのありのままの感情、そして、当事者としての自分の感情を尊重しながら眺める客観的な視点。それに加え、自分と世界を俯瞰し構造すら見通す視点。この3つを同時に持つのは難しいこと。感情が激しく揺れ動くテーマだとなおさらです。けど、それを実践している方を見ると、本当に力をもらえますね。

インタビューの続きを心して待ちたいと思います。

<おわり>


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