保育士の私が子どもたちに教えてもらったこと…(困ったから走るんだ)

*名前は仮名です。

ヨシキ君はダウン症の年中の男の子。年度途中にお父さんの仕事の都合で転園してきました。
先生に追いかけてもらうのが楽しくて、よく保育士の手を優しくトントンとたたき、『待てぃ』と言いながら逃げていきます。『走るのが楽しいよ』と言っているかのように可愛らしい笑顔を見せながら…。
しかし、トイレから出て手を洗う前にも、下駄箱に来た時にも、ヨシキ君は走り出します。その時は振り向いて表情を見せず(もちろん保育士を誘わず)、真っ直ぐに走っていくのです。そんなヨシキ君を見た保育士は『走らないで〜、戻ってきて〜』と言いながら、ヨシキ君を連れ戻しに行くのでした。
園庭やホールで走るヨシキ君と、トイレから出てきた時や下駄箱でのヨシキ君は、走っているけれど、実は心の中は違うと感じました。
そこで、次の日トイレに行き、用をたしたあとに【手を洗う】カードを見せながら『ヨシキ君、トイレの後は手を洗うよ』と話し、出入り口にパーテーションを置いて左側の水道が目に入りやすいようにしてみました。
ヨシキ君は絵カードを見ながら歩いてトイレから来て、パーテーションに沿って水道の前まで来れたのです。下駄箱では、保育士が先に出て(パーテーション代わりになり)真正面からヨシキ君の靴入れに行くよう声を掛けてみました。走ることなく靴を履いたのは言うまでもありません。友だちと一緒に園庭に出ることができました。

次に何をするのか、その時はわかっていても、目の前に真っ直ぐに続く空間があると、さっきまで《手を洗おう》とか《靴を履こう》と思っていてもすっかり抜けてしまい走り出す…それがヨシキ君です。次に何をするのか覚え続けるための視覚的な支援が必要でした。今でも様々な場面で先取りの支援が必要なのか、保育士はその場その場で判断します。ゆっくりではありますが支援の積み重ねが可能なので、トイレの手洗いについては絵カードは使わなくても良くなりました。

【子どもの行動には全て理由がある】…この視点は支援を見極めるために必要な保育士としての資質だと思います。なぜその行動をするのか?なぜそう言うのか?子どもたちの《なぜ?》を考えていくことで、より良い関わり方を探ることができるからです。《なぜ》は経験のみならず、知識としての{引き出し}も必要です。子どもさんの特性や前後の状況・環境の背景などたくさんの要素が重なって《なぜ》は出てきます。
トイレから出てきた時と、下駄箱でのヨシキ君は短期記憶の曖昧さから[困って]いたのではないでしょうか。目の前に真っ直ぐに続く空間を、パーテーションを置くという支援をすることで、記憶を持続することが可能になり、次のことが[わかって]スムーズに行動できたのでは…と感じました。

子どもたちの《なぜ》を知るために、これからも学び続けていきたいです。

#ジブン株式会社マガジン

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