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【美術ブックリスト】大槻香奈『日本現代うつわ論1』

少女をモチーフに描き続ける画家・大槻香奈が、「空虚」をテーマに友人・知人の画家、写真家人形作家と交わしたインタビューや論考を集めたのが本書。

大槻が感じてきた日本の「中心のなさ、主体性のなさ、空虚さ」を、これまで空・殻といった言葉で言い表してきたが、それが多様なかたちの中空構造という積極的な意味をもつ「うつわ」として捉えなおしたいということのよう。大槻によればボーカロイド、バーチャルユーチューバー、VTuber、量産されるアニメキャラクター、大人数のアイドルグループなどが「うつわ」的な日本文化であるとされ、そこにあるのは中心のない虚空とされる。

大槻は自身が制作のなかで感じた「うつわ」を、他者との対話の中で相手にぶつけていく。ここまでが概観。

ここからが感想。おそらくわれわれは実体ではなく虚像を見させられていて、画家が描くのはそうした意味のない現象だけの世界であり、それを変えられはしないけどもなんとか積極的な意味を見つけたいということなのだろう。何を描いても現象を描くことはできてもそれが内包する意味を捉えることができないためにそれを「空虚」と認定しているのだと思う。しかしそれは現象の裏側に意味を見いだせない作家の心性に由来するのではないだろうか。ボーカロイドにしろバーチャルユーチューバーにしろ、それを実体としてみれば複数の無記名の集合体によって作り上げられた仮象かもしれないが、アナロジーとして見れば平均的大衆の理想像を音声化、映像化したものである。AKBに代表されるアイドルも実体としては仮象性のなかに生きているが、やはりそれを生み出したある種の欲望はかなり現実的なものだと思う。

インタビューでのやりとりは、生きている実感を取り戻す作業のようでもあり、世界を理解できないもどかしさの吐露のようでもある。そうした苦悩そのものが制作のモチベーションとなることはしばしばある。大切なのはそれをうまく言語化することなので、その意味では本の出版はその第一歩になるかもしれない。

208ページ、A5判、1500円、ゆめしか出版

【目次(敬称略)】
・はじめに 大槻香奈
・詩 「私の肩が濡れるとき」 文月悠光
・小説 「蝶になった日」 ほしおさなえ
・ロングインタビュー 近未来 「自然に還る人形と魂の行方」
・論考 「21世紀の陰翳礼讃(陶芸家・伊豆野一政)」 [文章:青山泰文]」
・論考 「うつわ」的な見方 青山泰文
・文通 木ノ戸久仁子×大槻香奈―石を作る者と絵を描く者―
・作家, 作品紹介 北浦朋恵 「線を通して向き合う、空虚と混沌のちかさ」 [文章:大槻香奈]
・作家, 作品紹介 Naganeo/×大槻香奈 「バグと境界の狭間で」ZOOM対話の断片的な記録 
・ロングインタビュー 七菜乃 「富士山のようにヌードを捉える」
・作家, 作品紹介 池田はるか ―メールインタビュー「カレー皿の上で話したい」
・ロングインタビュー たま 「故郷と自然と私を作るものたち」
・論考 「ゆるやかな変遷と繰り返される羽化 ―大槻香奈作品のテーマ考察から見えてくるもの―」 ナツメミオ
・執筆者一覧
・編集後記, 奥付

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