川の水はなぜ沸騰しないのか?

山に降った雨水は川を作り, 海に至るのですが, 山にあったときはそれなりの位置エネルギーを持っていたはずであり, これが流下の過程で熱に変わって行くとしたら, 下流部では水は沸騰するはずではないか? という質問を頂きました。面白いアイデアですね。計算してみましょう。

まず必要な物理量(登場人物)を定義しましょう。川の最上流部にある水を考えます。
 m: 質量
 h: その場所の標高
 g: 重力加速度 ≒ 10 m/s^2
 C: 水の比熱(質量あたり)= 1 cal/(g K) = 1000 cal/(kg K) = 4200 J/(kg K)
とします(Kはケルビン)。

その水のポテンシャルエネルギーは mgh。
その水の温度が⊿Tだけ上昇するのに必要な熱はCm⊿T。
このへんは高校物理学の教科書を見て下さい。

さて, 高さhから流れ落ちる水について, その位置エネルギーが全て熱に変わって水を加温するとしたら, Cm⊿T=mgh, 従って ⊿T=gh/C。h=1000 mとしたら,
⊿T= (10 m/s^2)(1000 m)/(4200 J/(kg K)) = 2.3 K

つまり, 1000 mの高さの山から流れ出る水の温度上昇は, 最大でも2 K程度です。これで水を0℃から100℃まで加温するには4万mくらい(!)の標高差(火星のオリンポス山よりも高い)が必要です。

一方, 気温は標高差1000mで約6 K変わります。ですから, 位置エネルギーによる水の加温は気温変化よりも小さいのです。

これは, 水がいかに暖まりにくく冷めにくいかを示すとも言えます。家庭で風呂をわかすとき, 20℃の水を40℃にするには, その水を8000 mの高さ(チョモランマ山頂)まで持ち上げるのと同じエネルギーが必要ということです。風呂をやめてシャワーにする, 風呂を数日おきにする, などの工夫が省エネでは必要ですね。ただしエコキュートなどのヒートポンプを使うと, 周囲の熱を使うことができるのでエネルギー効率はいきなり10倍とかになります。

結論: 沸騰しません(笑)。

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