奈佐原顕郎

研究者・教育者。人工衛星を使った地球観測(リモートセンシング)。大学初年級の数学・物理…

奈佐原顕郎

研究者・教育者。人工衛星を使った地球観測(リモートセンシング)。大学初年級の数学・物理学・IT教育。 著書: 「入門者のLinux」「大学1年生のための数学入門」「大学生のための応用数学入門」(いずれも講談社)

最近の記事

大学1年生あるある

手書きでコンマとドットを書き分けられない。 定義、定理、法則、公式の違いがわからない。 WとJが同じ単位だと思っている。(W = J/s) WはV×Aのことだと思っている。(間違いではないが, そもそもはW=J/s) 有効数字に敏感すぎる(何桁とればいいかを気にしすぎる)。 有効数字に鈍感すぎる(無用にたくさんの桁をとる)。 有効数字の誤差は末尾の桁の±0.5だと思っている。 概算ができない。細かい数字で計算しようとする。 記号の衝突に鈍感。たとえばΣ記号でk

    • レポートの書き方...内容以前の話

      2023/08/27 奈佐原顕郎 大学生のための「レポートの書き方」的なコンテンツは本もウェブサイトも膨大にありますが, それらの多くは内容的な助言(問いの立て方や論の進め方など)です。ところが実際の学生のレポートの多くは内容以前のところで失敗しがちです。本稿はそういうところを指摘します。 指定された形式を守る最も大事なのがこれです。内容が良くても指定された形式(ファイル形式やページのレイアウト形式など)から逸脱していたら台無しです。読んでもらえないかもしれません。よくあ

      • しれっとやることも大事

        大学の授業でレポート提出が期限より大きく遅れたとか, 間違ったレポートを出してしまった, でもまだ提出場所が開いている。そういうときどうしますか? 「今から提出しても受け取って頂けますか?」と教員に聞く人がいます。それを好む教員もいるでしょう。しかし私はそれを好みません。 提出物を間違えて出したり期限を超えたりというのは想定外ですから「ダメです」と言えばすっきりします。しかし, よく勉強している学生が人生の大きな不幸に突然遭ってレポートどころではなかったということなら情状

        • 応力の定義の混乱

           応力の定義が分野ごと・研究者ごとにバラバラで困っている。ざっくりいうと, 応力は土や水や豆腐のような物体の内部で働く, 面積あたりの力なのだが, 面の向きによって力の向きが違う。そこでxyz座標系の上で, x軸に垂直な面に働くy軸方向の応力をTxyと書いたりするのだが(1), これをTyxと書く流儀(2)がある。さらに, 面に垂直に働く応力の向きを, 「引っ張り」の方向をプラスにとる流儀(A)と, 「圧縮」の方向をプラスにとる流儀(B)がある。めちゃめちゃである(泣)。

        大学1年生あるある

          レポートには年月日・タイトル・著者名を

           本稿は大学の授業レポートの書き方に関するもので, 筑波大学の学生に向けたものです。授業レポートには主に以下の3つの目的があり, 「授業レポートの書き方」はこれらから導かれます。 目的1: 授業・学習の記録・証拠。これをもとに成績評価がされます。成績や単位に疑義が生じた時には交渉カードとして使うことができます。皆さんの教育資金を提供してくれる人や, 就活時の面接員に「学生時代にこんなにしっかり勉強をしました」と言って見せるという使い方もできます。筑波大学の教育実践の一次資料

          レポートには年月日・タイトル・著者名を

          背理法の間違い方

           数学の証明で「背理法」というものがあります。これを間違える人(そしてその間違いに気づいていない人)がたくさんいます。次の問題で考えてみましょう: 問題: 背理法を使って以下の命題を証明せよ: n, mを自然数とする。nmが奇数ならば, n, mはともに奇数である。 (正しい答)nmが奇数でありながら, n, mどちらかが偶数であると仮定する。 今, nが偶数なら, n=2kと書ける(kは適当な自然数)。するとnm=2kmとなる。 kmは自然数だから, 2kmすなわちnm

          背理法の間違い方

          「AはBである」が誤りのときは, 「AはBでない」は正しいか?

          「3は偶数である」は誤り。「3は偶数でない」は正しい。ではこれを一般化して, 「AはBである」が誤りのときは, 「AはBでない」と言えるだろうか? こういうのはどうだろう? 「10以下の整数は偶数である」は誤り。(5が反例) 「10以下の整数は偶数でない」も誤り。(4が反例) 正しいのは 「10以下の整数は偶数でないときもある」 である。 「筑波大関係者はサッカーが上手である」は誤り。私はサッカー下手なので私が反例。 「筑波大関係者はサッカーが上手でない」も誤り。三

          「AはBである」が誤りのときは, 「AはBでない」は正しいか?

          数学・物理は読解力が大事

           数学・物理学(に限らず, 学び全般)には読解力が必要です。  ひとつは, 数学・物理学は話を抽象的に進めるからです。「抽象的」なのは良くないと思いがちですが, そうではありません。「抽象的」はとても大切で有用なことす。  たとえばこどもは絵本で「これは自動車です。これも自動車です。これも自動車です」のように具体例に触れて, 慣れや感覚で概念を把握していきます。これは「帰納的」な学び方です。他方で, 自動車はそもそもどのようなもの(機能や構造)かを抜き出して「自動車の定義」

          数学・物理は読解力が大事

          川の水はなぜ沸騰しないのか?

          山に降った雨水は川を作り, 海に至るのですが, 山にあったときはそれなりの位置エネルギーを持っていたはずであり, これが流下の過程で熱に変わって行くとしたら, 下流部では水は沸騰するはずではないか? という質問を頂きました。面白いアイデアですね。計算してみましょう。 まず必要な物理量(登場人物)を定義しましょう。川の最上流部にある水を考えます。  m: 質量  h: その場所の標高  g: 重力加速度 ≒ 10 m/s^2  C: 水の比熱(質量あたり)= 1 cal/(g

          川の水はなぜ沸騰しないのか?

          大学生によくある誤解(わかったつもり)

          大学生によくある誤解(わかったつもり)をご紹介します。これは彼らがそのように教わってしまったり, あるいは, 教わっていないのにそのように勝手に誤解してしまったことがその原因だと思われます。 誤解1: 「水素原子はK殻にしか電子は入らない」 水素原子のK殻に電子が1個入った状態は「基底状態」といいます。多くの学生は、原子は常に基底状態にあると思い込んでいます。しかし、水素原子の基底状態の電子はエネルギーを得てL殻やM殻に移動することがあります。つまりL殻やM殻に電子の入っ

          大学生によくある誤解(わかったつもり)

          大学1年生に数学と物理を教えて思うこと

           10年間ほど, 農学系の大学1年生に数学と物理学を教えています。そこで考えたことをとりとめもなくメモします。 (「大学1年生あるある」も参照) 数学が苦手  数学が苦手という人の多くは「受験のための数学」や「数学のための数学」が苦手なだけで, 実用的な数学を基礎から丁寧に勉強すれば, 結構わかるようになるし使えるようになる。物理もそう。  大学の数学や物理学は, ルール自体が難しくなる。だからルールの理解がメインになる。だから大学入試の問題が解けない・解法が閃かない,

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          デルタ株はやばい

          2021/08/11 奈佐原顕郎 (本記事の中で, 基本再生産数の定義が, 一般的な疫学のそれとはやや違うようです。具体的には, 本稿では行動変容は基本再生産数を変えず, 実効再生産数を変えるとしていますが, 疫学では行動変容は基本再生産数を変えるように定義されています。用語の定義がそのようにズレていることにご注意ください(それは私が素人故に起きたミスです)。ただし結論は同じになると思います。)  コロナ(COVID-19)のデルタ株が本当にやばい。どういうことかというと

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