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【第2回】パチンコに閉じ込められた美少女を僕は見捨てた。

「今からボーリングとパチンコ、どっちに行く?」
「パチンコ」

帰省して久しぶりに会った中学以来の友人からの問いかけに僕は即答していた。

僕はこれまでパチンコを一度もやったことがなかった。というかパチンコと聞いて具体的なイメージがあんまり湧かなかったのだ。

せいぜい思い浮かぶのはあの国民的漫画である『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の主人公両津勘吉こと両さんがパチンコで勝ちまくって景品を当ててたくらいだ。あと思いつくのは闇金ウシジマくんに登場するパチンコ依存の多重債務者達や賭博黙示録カイジの沼くらいだろうか。

そのほかにはジャラジャラうるさいとかタバコの煙がモクモクしてるんだろうなあという、とにかくペラッペラのイメージしかなかった。

パチンコ依存症とかになったら大変そうだという恐れと、そもそも一人暮らしでバイトもほとんどしていないから元手がない、という理由で行くという発想がそもそもなかったわけだ。

でもなんとなく一度やっておきたいなという気持ちは少なからずあった。20歳になったらとりあえず酒とタバコを経験しておこうかなというあの感覚と同じだ。

日本では18歳からパチンコができるようになる。合法だし何も問題はない。こちとら21歳だぞ。

それに若いうちに経験がなくて中年になりある程度金を持つようになってから手を出してどハマりするようになってしまうという話も聞くし、なんとなく経験しないのもどうなのかなぁ…と感じる節もあったわけで。まったく遊びを知らないのもつまらない大人になってしまいそうな気がする。

その機会を友人の問いかけでもらった僕は迷わず答えていたのだ。

その友人はそれなりにパチンコの経験があった。勝ったという話も何回か聞いている。そんな先輩が教えてくれるならこれほど心強いことはない。

といった具合で僕は友人に連れられ生まれて初めてのパチンコを体験しにお店へと向かった。

店へ入ってみると「思ったより綺麗だな」という印象を受けた。建物自体も新しいし清掃も行き届いている。タバコを吸う人はいるけれども煙がモクモクしてる感じではない。店員の接客も良いしとっても好印象だった。ゲームセンターよりも大人の遊び場という感じがする。

だが想像通りジャラジャラととにかくうるさかった。隣にいる友達と会話が難しいくらいだ。店員がおそらく連絡用のインカムをつけてる理由も納得できる。

そんな店内をパチンコを打つ台を探す友人に金魚のフンのようについていく僕。いまだによくわかってないけれどもパチンコの上に表示されたメーターのようなものを見ると当たりやすいかどうかがわかるらしい。

「ここが当たりやすそうだから座っていいよ」

友人の言うがままに僕は席に座った。友人は僕の隣に座る。

周りがうるさいながらも友人の説明を受けながらプレイしてみることにした。よくわからないままプレイしてるから手取り足取り教えてくれるのは非常にありがたい。

とりあえずパチンコを球を打ち決まった場所に入れてルーレットを回し数を3つ揃えれば当たりらしいことはなんとなくわかった。

プレイを続けるとあっという間に金がなくなっていってびっくりした。いつも支払いに困ってる1ヶ月分の光熱費分はあっという間に溶けた。

え…?ウソだろ…?この金で何ができたんだろう…。経験のためにしたとはいえあまりにあっさりすぎる…。金が無さすぎてずっと行くことを渋ってた映画館にでも映画を見に行けばよかった…。

何より演出が派手なのに全く当たらないのが虚しかった。僕が座ったのはタイトルは忘れたが美少女が戦うアニメをベースにしたパチンコで、絵柄が2つ揃いリーチになると敵と戦う演出が入るのだ。

「私たちは負けない…!」みたいなカッコいい掛け声とともに敵を攻撃する演出が入る。音楽もなんかいい感じにかかるし、焦る敵の顔も描写される。仲間の思いが集まるアニメーションも凝っている。そして倒されそうな敵の姿が…!そんな演出の中、途中でいきなり画面が暗転し3つ目の数字は揃わずに失敗する。

コントか、これは。ギャグなのか。

アニメでよく見た勝ちが確定する演出の前振りがあったとしてもパチンコではあっさり負けるのか。

パチンコの世界に閉じ込められた美少女が敵に勝てないまま同じ時を繰り返してるように見えてなんだか悲しかった。きっとアニメの世界では敵に勝ち続けてきたんだろうに。

勝てそうで勝てないなんてあまりにも悲しいじゃないか。上げて落とすなら、上げないでくれよ…。

そんなことをもやもや思ってたけれどもビギナーズラックってやつなのかそのあと当たりが続いて7000円分勝つことができた。わーい。

これ以上続けるのはもうやめよう。いい社会勉強になった。勝ち逃げなんてものはなかなかできないし悪くない。上出来だ。

今回の勝負にはたまたま勝てたけど、パチンコの世界に閉じ込められた彼女たちは僕には助けられない。台が撤去されるまで彼女たちはほとんどは勝てそうで勝てない勝負を繰り返すんだろうか(たまには勝てるんだろうけど)。なんか悲しいけれど彼女たちのことを忘れて、これからを懸命に生きていこう。僕にはどうしようもできないから。

そんなわけのわからないことを考えながら、僕は玉を特殊景品に交換し、たまたま近くにある古物商で特殊景品をお金に変える三店方式を体験してパチンコ屋を後にした。

つまらなかったわけじゃないしむしろハマる理由もわかったけど、もう自発的にパチンコ屋に行くことはないだろうな。

ちなみにパチンコの先輩である友人はこの日2万円スった。どんまい。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。