しろとくろとおやじ

ばぁちゃんのしろが近所の子どもを噛んでしまった。
母さんは仕事を辞めて認知症のばあちゃんと
しろとくろの2匹の面倒を見ることになった。

このときのおやじは動物の可愛さをまだ知らない。
「そんな犬さっさと捨ててしまえ!
施設にでも連れて行け!!」
って平気で言うくらいやばい奴だった。

やばい。おやじルール発動だ。
我が家の憲法であるおやじの権限が
犬にも適用されるのはまずい。
このままだとしろとくろの命も危ない。

我が家で絶対のおやじ。
歯向かうようなら言い訳無用の出て行け、
誰が食わしてやっとるねんが降ってくる。
良く聞かれるがこれはネタで無くガチなのだ。

ボクシングをしようと妹とじゃれていたら、
勘違いしたおやじは
「弱いものいじめをする子はいらん!
学校も習い事も辞めろ。自転車も没収だ!」
と言われワンワン泣き、
説明さえ聞いてもらえなかった小1の
トラウマを思い出す。

母さんはしろくろがうちで無事に生きていけるか心配していたが、母さんよ、うちこそ危険だ。
社会に出てもおやじレベルの理不尽はなかなか無いぞと兄妹で預かり先を探すことを説得したが
動物好きの母さんにはダメだった。

しかし、しろはおやじと上手くやった。
しろは挨拶が凄いのだ。
それはもう一流の営業マンの如く。
挨拶はオーバーに、明るく、うざいぐらいに
しっぽをふりふりするのだ。
おやじの靴下とぱんつを集めるのもしろの特技だ。
そして愛嬌たっぷりでおやじの後ろをついてくる。

しろのおやじへの営業は
営業歴の長いおやじに見事に刺さった。

最近では、
しろくろの朝の散歩もおやじ担当になったらしい。
リビングに犬のうんこが転がっていた時も
おやじが静かに黙って何も言わず片付けてくれたらしい。そしてしろとくろをなでなでしていたらしい。

「しろ」と呼ばれれば家の
どこであろうとおやじの元へ駆けつける。
ダイエットをしているのにおやじから
ステーキをもらい、旨そうに食べるしろ。

しろのおかげで、
ものぐさでネコのように呼んでも来ないくろも
個性だとおやじに愛されている。

犬でも人間に営業をかけれるとは
しろの努力にあっぱれだ。

しろとくろとおやじが出会って3年が経った。




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