出来事17

音姫の妙(女子ならわかる)

クリスマスが好きだ。
東京のデパートには、早くもクリスマスツリーが並び始めた。
寒い夜と降りしきる雪、あったかい部屋と暖炉が似合いそうな
きらびやかな置物たちが、この季節を待ってましたとばかりにならぶ。

でも、見ていく人はみんな半袖。

店を出て、あついあついとつぶやきながら
足早にアイスティーを飲みに行くのでした。



ところでみなさんは音姫をご存じだろうか。
男性のトイレにあるのかは知らないが、女性のトイレには
必ずと言っていいほどついている、音姫。
用を足すさいの「あの音」を消すための設備。
音姫、というと商標登録やなんかで
特定のものをさしてしまうかもしれないが、
ここでは便宜上、すべての流水音を音姫で統一したい。

むかし、「音姫では音は消えないのに意味はあるのか」
という議論になったことがある。
そこでは、さらさらと少量の水流の音がする「せせらぎ型」、
かなりの水量が想定される「滝つぼ型」、等
いくつか種類があるのではないかという話になった。
しかし、音の質はあれどいずれも電子音の域から出ず、
実際の音を消しきれていないというのだ。
はたから聞いていれば、フェイクの音と本当の音など
すぐにわかってしまう。

その中で、ある人が言った。
「あれは、人に聞かせないんじゃなくて、
自分に聞こえなくできればいいんだ」

なんという視点の転換か、と感動した。
たしかに、音量を大きくすると、ふしぎなことに
近距離過ぎて自分には聞き分けがつかなくなるのである。


むかし読んだ「あたしンち」のマンガで、
ちょっと個性的な女の子が、
音を消すために用を足しながらうなり声をあげ続ける、
という場面があった。
アナログな方法だが、それも意外と効果はあるのかもしれない。


いっそのこと、流水音をやめて
サンバの音楽でお祭り騒ぎみたいにしたらどうだろう。

あとは選択式にして、
好きなディズニーのメロディーを流すことができる、とか。
「おっ、今日はヤマダさん、エレクトリカルパレードだ、元気だね」
とか、
「あ~、タナカさん、週末にライオンキング観てきたな~」
とか、職場でのインナーコミュニケーションにも一役買うことになる。

そんなことを考えながら、今日、デパートのトイレで音姫を
使用せずに出てきてしまったことを今さら思い出したのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?