ボーイッシュの定義

LGBTの業界には、いくつか業界用語があるらしい。
フェム、とかボイ、とか、そのたぐいのものだ。
フェムとは、女の子らしい恰好をしている女性のこと。
ボイとは、ボーイッシュな女性のことらしい。
ただしこの世界では、一般に言う「ボーイッシュ」「マニッシュ」よりも
突き抜けて男らしい恰好をしている人のことをボイというらしい。
精神的なところからいうと、「男になりたい願望」が少なからずある人。

わたしは、自分がなにに分類されるのかわかっていないので
とりあえず中性と言い張っている。


友人や恋人が作れるというLGBTのアプリを使っている。
最近友人に教えてもらったのだ。
世の中にはこんなに同じような人がいるんかい!!と、
なかなかの衝撃であった。
どこに隠れているのか、不思議で仕方ない。
みんなシャイだな。
ちなみにわたしも日常生活ではクローズにしている。シャイだからな。

そのアプリにはTwitterのようなつぶやき機能がついている。
ふと、
「グルチャ作ってます、ご参加ください」
というようなつぶやきが目に入った。
グルチャ、という言葉を聞いて、なんかおいしそうだな、と思う程度には
若者言葉を知らないのだが、とりあえずグループチャットのことらしい。

これに入ったらたくさんの人と一度に話せるのか。
みんな同志だから、変に隠したりせずに会話の輪を広げられるわけだな。

つぶやきの発信主の写真を見る。
白く染められ鋭利にとがった前髪の奥に、カラコンを入れた
ドラキュラのような瞳が光っている。
体にはいくつものピアスがあいている。
「は、こわ」って思う。
いや、でも、好きな映画は寅さん、
好きなお店は無印良品というわたしにとって、
未だ見ぬ世界の人なだけなのかもしれない。
新しい世界に飛び込もう。
言うぞ。
メッセージボタンをふるえる指で押す。
「グルチャ、入りたいです」
送ってしまった。
これで明日からの自分、何か変わるかもしれない!
頑張ったぞ自分!!

主催者から返事が来る。
「うーん、煩悩さんはボイだからダメですね!
フェムと中性限定のグルチャなんで!」

はい終了。

わたしボイじゃないと思うんだけど。
みんなからは中性って言われるよ……


私の叫びが秋の夜空にむなしくこだまする。

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