【note63枚目】 売春島/高木瑞穂

 『路地裏にひとり』というYouTubeチャンネルがある。

 主に各地に残る遊郭跡や、現役の風俗街を静かな時間に巡り、場所にまつわる逸話やエピソードが美しい映像に添えられている。学術映像のような、NHKの深夜に流れててもいいような映像が多数アップされている。

 その中に「売春島」の動画があった。

 性風俗産業で潤ったという欲望と夢の島は時代に取り残され、廃墟と化した姿が収められていた。

 動画の中で紹介されていたのが今回の1冊、『売春島』だった。

 その気も度胸もない癖に、性産業にまつわる書籍を読むのがやたらと好きなむっつりである。私のことである。男女の絡まりからそこに出現する「澱み」のようなものに、私はとんと縁がない。縁がないゆえに物珍しさから潜在的欲求が溢れて触れたがってるのかも

 現場取材、関わっていた人たちからのヒアリングが丁寧に積み重ねられていて書籍全体の熱量が大きい。終始呆気に取られていた。

 現実社会の図式として、暴力団ードラッグー売春が道筋は数多あれどどこかで道がつながっているというのは本当なんだな…と背筋が冷える。昔通っていた学校が大阪を、いや、日本を代表するドヤ街のすぐそばに位置していたことから、母親に「ここは絶対に歩いて帰ったらあかんで」と言いつけられたことを思い出した。ある日は学校から日時が指定された上で迂回ルートを通って帰るように指示が出たこともあった。後々に聞けば近隣で暴力団員の葬儀が営まれていたとのこと。アルミ缶を集める浮浪者は何度も見たけど、売人らしき人を見たことはなかった。おまけに飛田新地も目と鼻の先だったのに、私は成人するまで「そんな土地」があることすら知らなかった。

 近くにあっても、触れる機会がなければそれは自分の世界には存在しない。もしかしたら「知らなくていいこと、触れなくてもいいこと」である意味守られている証なのかもしれない。

 売春島には、それこそ数多の理由を抱えた人たちが渡り、訳知りの人たちが岸で暮らしている。命からがら島を渡り、たどり着いた岸にも助けてくれる人はいない、なんて時代もあったと。瞬間、Vシネマかミニシアター映画のワンシーンみたいな絶望のカットが頭で投影された。

 カラダで稼いだお金を、惜しげもなく暴力団の構成員に渡し、頼られることが一種の快楽に変わっている、なんて様子はやっぱり異様。前金で売り飛ばされて島に来た子もいたそうだ。それもバブル前後の昭和年間の話で、ギリギリ現代と考えられるタイミングの日本で本当にこんな事があったのかと驚きと冷や汗の連続だった。

 行政や司法との緊張と緩和、アメとムチのいたちごっこも読んでいて「それでいいのか?」と感じるところもあって、その昔は大阪府警が慰安に訪れてはイイコトをしていたという記述もあり。

 あと、売春婦の心と体のケア…といえば聞こえはいいけど要は色管理という管理売春の一環業務も当然あったと。女師、だったかな?

 今はカラダを売って稼ぐ手段が数多くあることから、わざわざ不便な島に渡る事もなく、伊勢志摩サミットでのクリーン作戦の一環で浄化どころかほぼ淘汰されつつあるらしい。

 興味本位で足を踏み入れていいところではないのかもしれない。でも、興味は尽きない。いつか行ってみたい。

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